「ジョウ、あなたってばまたさっき、逆ナンされてたでしょう」
シャワー室から戻るや否や、すごい剣幕でアルフィンが食って掛かってくる。
ジョウはピーチパラソルの下、水着姿のまま怪訝な顔をした。
「逆......なんだって?」
「逆ナンパ、男の人からじゃなく、女の子から声かけられるの!」
「ああ、あれがそうなのか。また複数で側に来てごちゃごちゃ意味のわらかないことをしゃべってるから、てきとうにごめん、って言っておいたらなんかいなくなったぞ」
はあああ。アルフィンは処置無し、というようにかぶりを振った。
自覚なし。これではそうそうに女連中が退散するのも無理はない。さっきもあたしの出る幕なんてなかった。
アルフィンはジョウの隣のデッキチェアにすとんと腰を下ろした。
シャワーで濡れた髪の毛が、こうしているだけですぐに乾いていくようだ。
夕方も近い時刻なのに、今日も海はからりと晴れてまだ昼の気配だ。
潮風に撫でられ、ホテルの外庭に植えられたヒマワリが揺れている。
「能天気よね、ジョウって、女の子にモーションかけられてるのも気がつかないんだから」
安心なような、心配なような、フクザツ。
ジョウは「なんか、海に来たりすると普段の5割増しくらいで声をかけられるんだよな。変だな、とは思っていたんだが」
素でそんな風に言うからアルフィンは本格的に肩をすくめてみせた。
「それは海だからでしょう。決まってるじゃない」
「なんで?」
首を傾げて、じっと漆黒の目を向ける。
そんな風に真正面から訊かれると思っていなかったアルフィンは、一瞬動きを止める。
「それは、あれよ、……あなたが裸だからでしょ」
アルフィンはふいとジョウから目を逸らした。
「裸? 当たり前だろ、海なんだから」
「だからア、鈍いわね、あなたの身体が……いいからでしょ。
女の子だって、どうせ楽しい思いをするなら、遅しい身体のひととしたいんじゃないの?」
語尾をあいまいにぼかす。
ジョウは言われてもすぐにはぴんと来ないみたいで、自分の腕やわき腹や背中などをざっと検分した。
「あたしもわかんないけど。一般論として!」
わかんないなんて、嘘だ。
ジョウのボディは超逸品。胸板の厚さも、二の腕の筋肉も、引き締まった腰も、割れた腹筋も、そんじょそこらの男なんか及びもつかないほど鍛え上げていてセクシー。
ジムで計画的に鍛えた「見せるため」の身体じゃなくて、過酷な仕事を耐え抜くために普段から鍛錬したあかし。
こんな男の人に愛されたい。思う存分。
真夏のリゾートの、一夜のお相手にしたいって思うのは、ごく自然かもしれない。女なら。
……なのに、当人は自覚ないのね。とことん。
やれやれといった気分でアルフィンが海を眺めていたら、ふと隣から声がした。
「アルフィンも、その【一般論】に含まれるのか?」
え?
驚いてジョウを見やると、何かよからぬことでもたくらんだような意味深な目をしている。
アルフィンは、さっと警戒した。
「なんですって?」
「君もナンパの女の子たちと同じことを思ったりする? 俺に対して」
う。
アルフィンは思わず凍りつく。
読まれた? 心の中を。
見透かされてる?
ばくばく脈打ち始めた心臓。鎮まれ、お願い、鎮まって。
勘付かれちゃう……。
ジョウは獲物を見つけた動物のような、油断のならない目を向けたままだ。
「なんなら試してみるか? 今から部屋に戻って」
その声は、真剣。でも、からかわれているような気もしないでもない。
読みきれない......。
ええい。
アルフィンは肩に巻いていたタオルを解いて立ち上がった。
シャワーの後の、素肌にまとったワンピースの裾を翻して宿泊しているホテルを仰ぐ。
「いいわよ。行きましょう」
おんなは、度胸。
たとえからかいでも、売られた喧嘩は買わなくちゃ。
女がすたるわ。
ジョウはアルフィンが歩きかけたのを見て、続いてデッキチェアから立ち上がった。
膝から下の白い砂を払って、
「そうこなくっちゃ」
と後ろから付いていく。
ざくざくと砂地を踏みしめるジョウの足音が、気のせいかせっかちだった。
ホテルに戻ってからのことは、ナイショ。とてもここには書き切れない。
(fin.)
「夏空とヒマワリ」の続きです。前作はやられっぱなしのジョウだったので反撃かな? 笑
⇒pixiv安達 薫
シャワー室から戻るや否や、すごい剣幕でアルフィンが食って掛かってくる。
ジョウはピーチパラソルの下、水着姿のまま怪訝な顔をした。
「逆......なんだって?」
「逆ナンパ、男の人からじゃなく、女の子から声かけられるの!」
「ああ、あれがそうなのか。また複数で側に来てごちゃごちゃ意味のわらかないことをしゃべってるから、てきとうにごめん、って言っておいたらなんかいなくなったぞ」
はあああ。アルフィンは処置無し、というようにかぶりを振った。
自覚なし。これではそうそうに女連中が退散するのも無理はない。さっきもあたしの出る幕なんてなかった。
アルフィンはジョウの隣のデッキチェアにすとんと腰を下ろした。
シャワーで濡れた髪の毛が、こうしているだけですぐに乾いていくようだ。
夕方も近い時刻なのに、今日も海はからりと晴れてまだ昼の気配だ。
潮風に撫でられ、ホテルの外庭に植えられたヒマワリが揺れている。
「能天気よね、ジョウって、女の子にモーションかけられてるのも気がつかないんだから」
安心なような、心配なような、フクザツ。
ジョウは「なんか、海に来たりすると普段の5割増しくらいで声をかけられるんだよな。変だな、とは思っていたんだが」
素でそんな風に言うからアルフィンは本格的に肩をすくめてみせた。
「それは海だからでしょう。決まってるじゃない」
「なんで?」
首を傾げて、じっと漆黒の目を向ける。
そんな風に真正面から訊かれると思っていなかったアルフィンは、一瞬動きを止める。
「それは、あれよ、……あなたが裸だからでしょ」
アルフィンはふいとジョウから目を逸らした。
「裸? 当たり前だろ、海なんだから」
「だからア、鈍いわね、あなたの身体が……いいからでしょ。
女の子だって、どうせ楽しい思いをするなら、遅しい身体のひととしたいんじゃないの?」
語尾をあいまいにぼかす。
ジョウは言われてもすぐにはぴんと来ないみたいで、自分の腕やわき腹や背中などをざっと検分した。
「あたしもわかんないけど。一般論として!」
わかんないなんて、嘘だ。
ジョウのボディは超逸品。胸板の厚さも、二の腕の筋肉も、引き締まった腰も、割れた腹筋も、そんじょそこらの男なんか及びもつかないほど鍛え上げていてセクシー。
ジムで計画的に鍛えた「見せるため」の身体じゃなくて、過酷な仕事を耐え抜くために普段から鍛錬したあかし。
こんな男の人に愛されたい。思う存分。
真夏のリゾートの、一夜のお相手にしたいって思うのは、ごく自然かもしれない。女なら。
……なのに、当人は自覚ないのね。とことん。
やれやれといった気分でアルフィンが海を眺めていたら、ふと隣から声がした。
「アルフィンも、その【一般論】に含まれるのか?」
え?
驚いてジョウを見やると、何かよからぬことでもたくらんだような意味深な目をしている。
アルフィンは、さっと警戒した。
「なんですって?」
「君もナンパの女の子たちと同じことを思ったりする? 俺に対して」
う。
アルフィンは思わず凍りつく。
読まれた? 心の中を。
見透かされてる?
ばくばく脈打ち始めた心臓。鎮まれ、お願い、鎮まって。
勘付かれちゃう……。
ジョウは獲物を見つけた動物のような、油断のならない目を向けたままだ。
「なんなら試してみるか? 今から部屋に戻って」
その声は、真剣。でも、からかわれているような気もしないでもない。
読みきれない......。
ええい。
アルフィンは肩に巻いていたタオルを解いて立ち上がった。
シャワーの後の、素肌にまとったワンピースの裾を翻して宿泊しているホテルを仰ぐ。
「いいわよ。行きましょう」
おんなは、度胸。
たとえからかいでも、売られた喧嘩は買わなくちゃ。
女がすたるわ。
ジョウはアルフィンが歩きかけたのを見て、続いてデッキチェアから立ち上がった。
膝から下の白い砂を払って、
「そうこなくっちゃ」
と後ろから付いていく。
ざくざくと砂地を踏みしめるジョウの足音が、気のせいかせっかちだった。
ホテルに戻ってからのことは、ナイショ。とてもここには書き切れない。
(fin.)
「夏空とヒマワリ」の続きです。前作はやられっぱなしのジョウだったので反撃かな? 笑
⇒pixiv安達 薫
アルフィン語るに落ちる(笑)ジョウはいい口実ができたね😁
たぶん、部屋にはいっても何もなかったと思います(自分で書いておきながら)。こういう流れでするのはたぶん二人にとって本意じゃないから。