日本の名作
365のみじかいお話
「二匹のかえる」
緑のかえると、黄色のかえるが、畑のまん中で、ばったりいきあいました。
「やあ、きみは、黄色だね。汚い色だ」
と緑のかえるがいいました。
「きみは緑だね。きみは自分を美しいと思っているのかね」
と、黄色のかえるがいいました。
こんなふうに話し合っていると、よいことはおこりません。二匹のかえるは、とうとう、けんかをはじめました。
緑のかえるは、黄色のかえるの上に、とびかかっていきました。このかえるは、とびかかるのが、得意でありました。
黄色のかえるは、あとあしで砂をけとばしましたので、相手はたびたび、目玉から砂を、はらわねばなりませんでした。
するとその時、寒い風が、ふいてきました。二匹のかえるは、もうすぐ、冬のやってくることを、思い出しました。かえるたちは、土の中にもぐって、寒い冬をこさねばならないのです。
「春になったら、このけんかの、勝負をつけるよ」
といって、緑のかえるは、土にもぐりました。
「今いったことを、忘れるな」
といって、黄色のかえるも、もぐりこみました。
寒い冬が、やってきました。かえるたちのもぐっている土の上に、びゅうびゅうと北風がふいたり、しも柱がたったりしました。そして、それから春が、めぐってきました。土の中に、ねむっていたかえるたちは、背中の上の土が、あたたかくなってきたので、わかりました。
はじめに、緑のかえるが、目をさましました。土の上に、出てみました。まだ、他のかえるは、出ていません。
「やいやい。おきたまえ。もう、春だぞ」
と、土の中に向かって、呼びました。すると、黄色のかえるが、
「やれやれ、春になったか」
といって、土から出てきました。
「去年のけんかを、忘れたか」
と、緑のかえるがいいました。
「待て待て。体の土を洗いおとしてからにしようぜ」
と、黄色のかえるがいいました。
二匹のかえるは、体の泥土をおとすために、池の方にいきました。池には、新しくわきでて、ラムネのようにすがすがしい水が、いっぱいにたたえられてありました。
その中へかえるたちは、ドブンドブンと、とびこみました。体を洗ってから、緑のかえるが、目をぱちくりさせて、
「やあ、きみの黄色は美しい」
といいました。
「そういえば、きみの緑だって、すばらしい」
と、黄色のかえるがいいました。
「もうけんかはよそう」
といいあいました。
よくねむったあとでは、人間でも、かえるでも、機嫌がよくなるものでありますね。
新美南吉作