みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0010「いつか、あの場所で…」

2024-08-20 17:13:17 | 連載物語

 「雨のち晴、いつか思い出」1
 今日も雨。あめ、あめ、あめ…。雨が続く。いつになったら晴れるのか。雨の日は嫌いだ。…僕の心にはポッカリと大きな穴が空いている。僕の世界の一部が消えたんだ。大好きな、大好きな…、おばあちゃん。…雨の日に、おばあちゃんが亡くなった。一年くらい前まで一緒に住んでいた。病気になってからはおばさんの家へ。おばさんが看護師の資格を持ってたから、その方が良いだろうってことになって。お母さんはときどき手伝いに行っていた。お父さんも仕事の帰りに見舞いに行く。僕だってお姉ちゃんと一緒に…。
 僕には姉がいる。二つ上で中学生。二人で行くと、おばあちゃんはいつも笑顔で迎えてくれた。そして必ずと言っていいほど聞いてくる。「仲良くやってるかい?」って。おばあちゃんがいた頃、よく喧嘩をした。いま考えると、喧嘩の原因って何だったんだろう? よく思い出せないや。きっとたいしたことじゃなかったんだ。そういえば、おばあちゃんが病気になってからしてないや、喧嘩。
 おばあちゃんは面白い人だった。いろんな事を知っていて、僕たちをいつも驚かせる。おばあちゃんは遊びの天才。いろんな遊びを教えてくれた。おばあちゃんにかかったら勉強だってゲームになってしまうんだ。昔は学校の先生をしていたらしい。きっと、人気があったんだろうなぁ。おばあちゃんはいろんな事が出来るんだ。絵を描いたり、詩を作ったり、ハーモニカを聞かせてくれたこともあった。僕たちにとっておばあちゃんは、憧れだったのかもしれない。とっても大好きな…。
 おばあちゃんはいつも優しかった。でも、怒らせると大変なことになる。僕たちが人に迷惑をかけたときとか行儀が悪いとき、よく怒られた。それと、二人で喧嘩したときも。おばあちゃんの部屋に呼ばれて、緑色のにがいお茶を飲まされる。それも正座をしないといけないんだ。でも、お姉ちゃんは美味しそうに飲んでいる。こんなのが好きなのかな? 僕には信じられなかった。おばあちゃんのお説教はその時々によって長さが違う。数分で終わるときもあるし、一時間を超えるときもある。たいていは何でそんなことしたのかって聞かれて、なぜ怒っているのか教えてくれる。僕にもちゃんと分かるように。
 いつだったか、お姉ちゃんとすごい喧嘩をしたことがある。取っ組み合って叩いたり、蹴ったり、物をぶつけたり。お姉ちゃんを弾みで突き飛ばしたとき…、怪我をさせてしまった。今でも覚えてる、その時のこと。お父さんはお姉ちゃんを抱きかかえて病院へ。僕はお母さんにひどく怒られた。おばあちゃんは悲しそうな顔で僕を見ていた。お姉ちゃんの腕にはその時の傷がまだ残っている。今でもその傷を見ると…。でも、お姉ちゃんは冗談半分に、「これでお嫁に行けなかったら、あんたに一生面倒見てもらうから」だって。まったく、勘弁して欲しい。お嫁に行けないのはお姉ちゃんの容貌と性格の問題だ。そんなことまで責任は持てない。…でも、もしそうなったらどうしよう。
<つぶやき>子供の頃、姉弟でたまに喧嘩をした。今となっては、良い思い出かな…。
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0009「いつか、あの場所で…」

2024-07-22 17:22:19 | 連載物語

 「大空に舞え、鯉のぼり」6
「なに謝ってるんだよ」
「だって私も…」
 高太郎君と目が合う。高太郎君は照れくさそうに笑う。私もつられて笑ってしまう。
「お前って、すっごい怖い顔するよな」
<えっ?>なによ急に…。「そ、そんなことないよ」そんなに怖い顔してたかな?
「だって、泣いたときの顔。すごかったぜ」
「私…、泣いてないよ」
「泣いてた」
「泣いてない」
「絶対、泣いてた。涙、出てたじゃない」
「絶対、泣いてない!」私、なんでむきになってるのかな? どうしちゃったの…。
「お前って、頑固だなぁ。もう、どっちでもいいよ」
「よくないよ。私、そんな弱い子じゃないもん」
「分かったよ。悪かった」高太郎君がまた笑う。私も負けずに…。
「この鯉のぼり、隆のなんだ」
「…そうなんだ」
 私たちは鯉を見上げる。これで友達になれるかな?
「なんだよ。仲良くやってるじゃない」ゆかりが隆君を連れてやって来た。
「久し振りにぶっ飛ばせると思ったのになぁ」
「あのな…。なに言ってるんだよ」高太郎君は笑いながらゆかりに抗議した。
 今まで沈んでいた私の心。ゆかりのおかげで救われた。やっと素直な気持ちになれたんだ。隆君が私に近づいて来て、
「おねえちゃん。こい、こい」そう言って上を指す。
 私はしゃがんで、「そうだね。おおきいねぇ」
 小さな子を見てると不思議と笑顔になる。とっても優しい気持ちになれるのは何でだろう。
「おねえちゃん、すき」
 隆君が無邪気な笑顔で抱きついてくる。すかさず高太郎君が…、
「そうか。やっぱり隆もこっちのおねえちゃんの方が良いか。優しそうだもんなぁ」
 次の瞬間、高太郎君が…飛んだ? ゆかりの蹴りが炸裂したんだ。ゆかりは腕組みして立っている。高太郎君、大丈夫なのかな?
 ゆかりはまた「たかしーぃ!」って言って抱きすくめる。ほんとに好きなんだ。高太郎君は痛そうに笑っている。良かった。
 私は鯉のぼりの空を見上げる。空ってこんなに青くて大きいんだ。なんか初めてほんとの空を見たような、そんな気がした。なんだか嬉しくなってきた。私はこの広い景色を眺めながら、ここへ来て良かったなってそう思っていた。素敵な友達も見つかったし…。
<つぶやき>友達って、喧嘩もしちゃうけど、側にいるだけでほっとするというか…。
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0008「いつか、あの場所で…」

2024-06-26 18:00:39 | 連載物語

 「大空に舞え、鯉のぼり」5
「さくら、ごめんな。あとよろしく」
<よろしくって。> そんな…。
「まったく…」高太郎君はまだ何か言いたげだったけど、私の方へ来て一言。
「こっち」
「えっ?」私が何のことか分からなくて戸惑っていると…。
「鯉のぼり」私と目を合わせないでまた一言。そのまま行ってしまう。
<ちょっと待って…。>
 私は彼の後を追って家の裏手へ。こんなところにも庭があるんだ。彼は上を見て、
「ほら」っと指さす。私はその指先を見上げる。
「わーっ、大きいーィ」思わずつぶやいちゃった。
 大きな鯉が風に揺れている。まるで生きているみたい。私は団地サイズの鯉のぼりしか見たことがなかった。こんな大きな鯉を間近で見られるなんて…。
「あのさ、こんなの普通だって」
<…そうなんだ。>
「ここ、けっこう眺めいいだろ。海だって見えるんだぜ」
「…ほんとだ」
 私は遠くに目をやる。ここは蛇行している坂道の上にあって周りがよく見渡せるの。私の家からだと、木とかあってあんまりよく見えないけど。ここからだとすごい。低い垣根の向こうに家が並んでいて、その向こうに海が輝いている。
「わーっ、きれいーィ」
「お前ってさ、何でも感動する奴だな」
「えっ、だって…」
「こんなの普通だって」
 また、普通って言われちゃった。でも、私にとっては初めて見るんだから仕方ないじゃない。
「ごめんな…」高太郎君が私の横でぽつりと言う。
<えっ?> ……。
「この間、言い過ぎた。ごめん」
 ぶっきらぼうに彼が言う。…何か言わなきゃ。でも、出て来た言葉は…、
「私もごめんなさい」それしか言えなかった。
<つぶやき>素直な気持ちになれれば良いんですが…。なかなか難しいですよね。
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0007「いつか、あの場所で…」

2024-05-31 17:59:48 | 連載物語

 「大空に舞え、鯉のぼり」4
「ねえ、さくらが鯉のぼり見たいって。そっちに行っていい?」
<そんなこと言ってないよ。>何でそんなこと言うの?
「別にいいけど…」なんか、怒ってる?
「もっとさ、愛想よくしなさいよ。さくらが怖がってるでしょう」
<いいよ、そんな…。>
「あのな、お前の方が怖いよ」そんなことないよ。優しいよ。
「まったく素直じゃないんだから」
「素直だったらお前とは付き合えないよ。もういいからさぁ、来たかったら早く来いよ」
「ほんとは嬉しいくせに…。高太郎も下りて来いよ」
「残念でした。いま勉強してるから…」
<そんな、会ってくれないの?>
「何の勉強だか。どうせまたプラモデル作ってるだけだろ」そんな趣味があるんだ。
「いま手が離せないんだよ。ぜったい邪魔するなよ」
「幼なじみだろう。来なかったらぶっ飛ばす」駄目だよ、暴力は…。
「そんなこと関係ないだろ。下に隆がいるから、じゃれてろ。ただし、泣かすなよ」
「隆、居るんだ! さくら、行くよ。早く、はやく!」
<なに? どうしたの?>
 私はゆかりに急き立てられて、訳も分からず連れて行かれた。初めて入る高太郎君の家。外からは気づかなかったけど、広い庭があって…。ゆかりは庭で遊んでいる子を見つけると、「たかしーぃ!」って叫んで抱きついた。まだ小さな男の子。高太郎君の従兄弟なんだって。たまにお母さんに連れられて実家のここに遊びに来る。隆君はゆかりのことが大好きで、「おねえちゃん、おねえちゃん」っていつも呼んでいるんだって。
<ゆかり、楽しそうだなぁ。>
 あっ…、高太郎君。…来てくれたんだ。私はどうしたらいいのか分からなくて、俯いてしまった。どうしてだろう。…なんか不思議な気持ち。
「また遅刻かよ。もっと早く来いよな」ゆかりは隆君を抱き上げて睨み付ける。
「ちょっと隆のことが心配だったから来ただけさ。お前の馬鹿力で、怪我でもさせられたら大変だからな」
「そんなことあるわけないだろ。隆は、おねえちゃんのこと好きだよなーぁ」
「おねえちゃん、すき」
 隆君は笑顔で答える。とっても可愛い子。私にもこんな弟がいたらなぁ。
「隆、こんな奴と付き合うと苦労するだけだぞ」真顔で言ってる。
「なに訳の分かんないこと言ってんの。もういいから、向こう行けよ」
「何だよ。ここは俺んちだぞ」
「邪魔なんだよ。お前はさくらの相手でもしてろ」
<えっ? 私は…。>どうしよう。二人だけは駄目だよ。ゆかり…。
<つぶやき>誰でも小さな時ってあるんです。あの頃は、素直で可愛くて。でも今は…。
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0006「いつか、あの場所で…」

2024-05-06 17:55:23 | 連載物語

 「大空に舞え、鯉のぼり」3
「こらっ!」突然、ゆかりが叫んだ。「高太郎、何してんの」窓から高太郎君が顔を出す。「さっきから、こそこそこそこそ」
「いいだろ別に何してても…。そっちこそ何してんだよ」
 窓越しに言葉が飛び交う。
「私たちはいま大事な話をしてるの。邪魔しないでね」
「どうだか…。迷惑かけてるんじゃないの」
「そっちこそ、覗いてたくせに」
「…誰が覗くか。お前さ、その性格なおした方がいいよ。ちょっとはその子見習って…」
「その子って? 誰のことかなぁ?」
「誰って…。ほら、その、隣にいる…」
「あんたさ、さくらのこと好きなんでしょう」
<えっ? そんな!>私は慌てて…、「私は違うから、そんなこと…」なに言ってるんだろう、私…。
「さくら、ほんとにこんなんでいいの? こいつ性格悪いよ」
<もう、ゆかりったら…。>
「お前に言われたくないよ。だいたいな、昔っからそうなんだよなぁ。いつも人に責任押しつけて。作じいの柿、盗んだときだって…」作じい? どっかのおじいさん?
「えっ、何のこと? 忘れちゃった」ゆかり、何したんだろう?
「なんにも知らない俺に、これあげるって言って柿、渡しただろ。俺が盗んだって思われて、作じいにむちゃくちゃ怒られたんだからな」
「あんたが鈍くさいからよ」
<それ違うよ、盗んじゃだめ。>
「ねえ、さくら。いいこと教えてあげる」
<えっ?> 私、ついていけない。
「高太郎ね、木から下りられなくなってビーィビーィ泣いたことあるの。可笑しいでしょう」
<えっ、そうなんだ。>
「なに言ってるんだよ。あれは、お前が下りられなくなったから、助けに行ってやったんだろう。忘れたのかよ」優しいとこもあるんだ。
「あれ、そうだったっけ? でも、情けないよなぁ。下見て足がすくんじゃって…」
「お前が、あんなとこまで登るからだろ」そんなに高かったのかな?
「まったく、都合の悪いことはいつも忘れるんだよなぁ」
 この二人、仲が良いのかな? 悪いのかな? いつも喧嘩ばかりしている。でも、二人とも楽しそうだ。相手のことが分かっているから、何でも言い合えるのかな? 私もこんな風になれるといいなぁ。二人の話には割り込めない。私はただ笑って見ているだけ。
<つぶやき>幼なじみっていいですよね。何でも言えるし。でも、近すぎるとかえって…。
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