みそらはサークルの先輩(せんぱい)の佐々木(ささき)君が好きだった。彼女の片思(かたおも)いなのだが――。今夜はそのサークル仲間(なかま)が忘年会(ぼうねんかい)ということで居酒屋(いざかや)に集まり、いつものように大騒(おおさわ)ぎになっていた。でも、みそらは佐々木君がまだ来ていないので、少ししょげて一人で飲んでいた。
みそらはいつの間に眠(ねむ)ってしまったのか、気がついたときには誰(だれ)もいなくなっていた。
「あれ、どうして…」みそらがきょろきょろしていると、佐々木君がやって来てみそらの前に座(すわ)り、「みそらちゃん、僕(ぼく)は君のことが…」佐々木君の熱(あつ)い眼差(まなざ)し…。みそらは直感(ちょっかん)で、告白(こくはく)されると感じた。そして、彼の顔が近づいてきて――。
「ちょっと。しっかりしなさいよ」声をかけたのは、みそらの親友(しんゆう)の沙織(さおり)だった。
「あれ、みんな帰ったんじゃ…」みそらは夢(ゆめ)だと気づき、恥(は)ずかしくなって顔を赤らめた。
「ウソ。もしかして、酔(よ)っぱらってるの」沙織はみそらの顔を覗(のぞ)き込み、「信じられない」
そこへサークル仲間が駆(か)け込んできて、「おい、佐々木が事故(じこ)にあったって…」
忘年会はすぐにお開きになり、みんなで病院に駆けつけた。みそらは、いても立ってもいられなかった。病院に入ってみると、佐々木君は待合室(まちあいしつ)に座っていた。
「佐々木先輩!」まっ先に駆け寄ったのはみそらだった。腕(うで)に包帯(ほうたい)を巻いた佐々木君は驚(おどろ)いた顔をして、「みんな、どうしたんだ。忘年会、終わったのか?」
佐々木君は自転車(じてんしゃ)とぶつかっただけだった。みそらは引っ込みがつかなくなっていた。
<つぶやき>誰かさんの早とちりこんなことに…。でもね、これで距離(きょり)が縮(ちぢ)まるかもよ。
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