みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1239「謝罪代行」

2022-05-02 17:47:56 | ブログ短編

「このたびは、誠(まこと)に申(もう)し訳(わけ)ありませんでした」
 背広(せびろ)を着こなして、身(み)なりの整(ととの)った紳士(しんし)が頭を下げた。相手(あいて)の若い女性は目を丸(まる)くして、驚(おどろ)きを隠(かく)せないようだ。紳士は頭を上げると、
「お怒(いか)りはごもっともです。突然(とつぜん)、別(わか)れを言い出すなんて…。これはもう、横山慎吾(よこやましんご)の身勝手(みがって)な言い分だと重々承知(じゅうじゅうしょうち)しております。あなたに、落ち度(ど)は1ミリもございません。すべて、横山慎吾の不徳(ふとく)の致(いた)すところでございます」
 若い女性はやっとのことで口を開いた。「いったい、何なんですか? 何であなたが…」
「申し遅(おく)れました。わたくし…」紳士は名刺(めいし)を出して、「謝罪代行(しゃざいだいこう)をしております、阿弥丸(あやまる)と申します。横山慎吾から依頼(いらい)を受けまして――」
「慎吾はどこにいるんですか? ラインで別れようって、どういうことですか?」
「はい。その件(けん)ですが、横山慎吾が言うには、自分はあなたにはふさわしくないと…。あなたには、もっとふさわしい人とお付き合いした方が幸(しあわ)せになれるのではないか――」
「あのバカ! なに言ってるのよ。あたしが、知らないとでも――」彼女は紳士に詰(つ)め寄って、「あの…、女ですよね。他(ほか)に好きな女ができたってことですよね!」
 紳士はちょっとひるんで、「えっ、そうなんですか? それは…、ないですよねぇ」
「バカ慎吾! 絶対(ぜったい)、許(ゆる)さない。どこにいるんですか? これからとっちめてやる!」
「よしなさい。あんな男のことは忘(わす)れるんです。あなたは、幸せにならなくちゃいけない」
<つぶやき>不誠実(ふせいじつ)な男のことで煩(わずら)うなんて、時間の無駄(むだ)ですよ。それより、次の恋(こい)を…。
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