彼は目を覚(さ)ますと、仰天(ぎょうてん)して辺(あた)りをキョロキョロと見回した。どうやら女性の部屋(へや)のようだ。部屋には誰(だれ)もいなかった。どうしてこんなところで寝(ね)てしまったのか…。彼は昨夜(ゆうべ)のことを思い出そうとした。確(たし)か、会社(かいしゃ)帰りに飲(の)み屋によって…。そこにいた人と一緒(いっしょ)に盛(も)り上がって…。それから……が…思い出せない。
彼は、自分(じぶん)の身体(からだ)に違和感(いわかん)を感じた。ふと、胸元(むなもと)を見ると膨(ふく)らみが――。彼は、自分の身体が女性になったことに気がついた。彼は、思わず叫(さけ)んだ。頭が動転(どうてん)して、しばらくは何も考(かんが)えることができなくなった。でも、いつまでもこうしてはいられない。とりあえず、会社へ行かなくては…。彼は着替(きが)えに手こずったが、何とか遅刻(ちこく)せずに会社に――。
当然(とうぜん)のことだが、社員証(しゃいんしょう)を持っていなかったので、入口(いりぐち)で警備員(けいびいん)に止(と)められてしまった。そこへ、同僚(どうりょう)の男がやって来た。彼(彼女)はその同僚を呼(よ)び止めた。同僚は、どういう訳(わけ)か、彼(彼女)のことを彼と付き合っている恋人(こいびと)と思い込んでしまった。同僚は、彼に連絡(れんらく)を取ってくれた。下に降(お)りてくるようにと――。しばらくすると、見覚(みおぼ)えのある顔が目に入った。まさか、自分と対面(たいめん)することになるなんて。彼(彼女)は言った。
「君(きみ)は誰なんだ? どうしてこんなことをするんだ。僕(ぼく)の身体を返(かえ)してくれ」
「イヤよ。あなた約束(やくそく)したじゃない。人生(じんせい)を取り替(か)えようって。今さらなに言ってるの」
<つぶやき>やっちゃいましたねぇ。酔(よ)っ払ってそんな約束をするなんて。ダメじゃない。
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