彼女は、その人の家に初めて入った。付き合い始めたばかりなのに、ちょっと早すぎかなって彼女は思ったけど、どうしても彼のことが気になって――。
彼の部屋(へや)はきれいに片(かた)づいていた。彼の几帳面(きちょうめん)さが現(あらわ)れているようで、彼女はホッとしたようだ。彼がお茶(ちゃ)を淹(い)れている間に、彼女は部屋の中を見回していた。――扉(とびら)があった。たぶん寝室(しんしつ)なのだろうか…。彼女は、彼に気づかれないようにそっと扉を開けた。
中はカーテンが引いてあって暗(くら)かった。ベッドが奥(おく)にあって、壁一面(かべいちめん)に何か貼(は)ってあるようだ。彼女は気になって部屋に入ってみた。暗さに目が慣(な)れると、壁に貼ってあるのは写真(しゃしん)だと分かった。しかも、部屋の壁を埋(う)め尽(つ)くしていた。
彼女は写真の一枚に目をやって、愕然(がくぜん)とした。そこには彼女が写(うつ)っていた。周(まわ)りの写真に目をやると、そこにも…。どの写真も被写体(ひしゃたい)は彼女だった。しかも、元彼(もとかれ)と一緒(いっしょ)にいる写真まであった。彼女は思わず呟(つぶや)いた。
「ど、どうして…。これは、盗撮(とうさつ)…よね。何でこんなことを…」
彼女は、背後(はいご)に気配(けはい)を感じた。振(ふ)り向くと、そこに彼が立っていた。彼女は驚(おどろ)いてベッドに腰(こし)を下ろしてしまった。彼は、無表情(むひょうじょう)な顔で彼女を見つめていた。彼女は声を上げることができない。彼は彼女のすぐ前まで来ると、彼女の顔を見つめて言った。
「どうして入ったの? まだ君(きみ)の写真を撮(と)りたかったのに…。残念(ざんねん)だよ」
彼女は彼を押しのけて部屋を飛び出した。しかし、すぐに彼が彼女の腕をつかんだ。
<つぶやき>これは、とっても危(あぶな)ないヤツかもしれません。すぐに逃(に)げないと、大変(たいへん)です。
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