夫(おっと)が仕事(しごと)から帰って来ると、娘(むすめ)が深刻(しんこく)な顔をして座(すわ)っていた。
夫は妻(つま)にそっと訊(き)いた。「おい、何かあったのか?」
妻はそれに答(こた)えて、「それがね、プロポーズされたんですって」
夫は思わず、「プ…プロポーズ! 誰(だれ)だ、そんなこと言ったヤツは! 俺(おれ)は許(ゆる)さんぞ」
「なに言ってるんですか。貴志(たかし)さんですよ。あなただって知ってるでしょ」
「ああ、あいつか…。何だよ、やっと観念(かんねん)したのか? 遅(おそ)すぎるだろ」
娘が口を挟(はさ)んで、「あたし、結婚(けっこん)なんてムリ。知らない人と一緒(いっしょ)に暮(く)らすなんて…」
妻は呆(あき)れて、「もう…。知らない人じゃないでしょ。何年付き合ってきたのよ」
「だって…」娘はまるで子供(こども)のように、「結婚したら、ずっと一緒にいなきゃいけないのよ」
夫は訳(わけ)が分からず妻に訊いた。「おい、どうなってるんだ? 結婚しないのかよ」
娘は頭の中がぐちゃぐちゃになっているのか、「あたしは家族(かぞく)とじゃなきゃムリなの」
夫は心配(しんぱい)して、「貴志と結婚したら、あいつも家族になるんだから…」
娘はきっぱり言った。「子供の時から一緒にいたわけじゃないわ。貴志と一緒に住むなんて…。あの人、何をするか予測(よそく)できないのよ。そうよ、まるでゴキブリみたいに行動(こうどう)が読(よ)めないんだから…。あたし、あの人と暮らすなんて、とても耐(た)えられない!」
<つぶやき>これは…どういうこと? 何をどうしたらいいのか、落ち着いて考えましょ。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。