私の目の前に女がだらしなく倒(たお)れている。あっけないもんだ。こんなに容易(たやす)く黙(だま)らせることができるとは…。今までさんざん私のことをバカにして、やっと口をふさぐことができた。後(あと)は、自分(じぶん)の痕跡(こんせき)を消(け)せばいいだけだ。
私は完璧(かんぺき)に仕事(しごと)をした。ミスはひとつもないはずだった。ところが、私のことを疑(うたが)いだしたヤツがいた。警察(けいさつ)にいろいろしゃべられては面倒(めんどう)だ。私は、そいつも消すことにした。今度(こんど)は慎重(しんちょう)にやらなくては。事故(じこ)に見せかけるのだ。私は、また完璧に仕事をした。
警察は私をまったく疑っていなかった。私のアリバイは完璧だ。疑う余地(よち)などまったく無(な)い。日にちがたって、どうやら事件(じけん)は迷宮入(めいきゅうい)りになったようだ。私は警察のことなどまったく気にかけなくなった。私は天才(てんさい)だ。完全犯罪(かんぜんはんざい)を成(な)しとげたのだから…。
私は作家(さっか)に転身(てんしん)した。私の成しとげた完全犯罪を世(よ)に知らしめるのだ。私が出版社(しゅっぱんしゃ)に原稿(げんこう)を持ち込むと、これはいいとすぐに出版が決(き)まった。私は有頂天(うちょうてん)になっていた。
そんな時だ。私の前に刑事(けいじ)が現れた。私の本にケチでもつけようというのか…。
刑事の一人が言った。「ここに書かれているのは、実際(じっさい)に起(お)こった事件ですよね」
私はニヤリと笑(わら)って、「さぁ、それはどうかなぁ。あんたは、どう思うね」
「ここに書かれている現場(げんば)の状況(じょうきょう)は、犯人(はんにん)しか知らないはずなんです。あなた、被害者(ひがいしゃ)とは面識(めんしき)がありますよね。署(しょ)の方で詳(くわ)しくお話をうかがえますか?」
<つぶやき>罪(つみ)を犯(おか)せば必(かなら)ず酬(むく)いがあるのです。そのことを肝(きも)に銘(めい)じておきましょうね。
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