ことば咀嚼日記

日々読んだ活字を自分の頭でムシャクシャ、時にはゴックン、時には、サクサク咀嚼する日記

ディカプリオなら許す インセプション

2010-08-03 | 映画
ディカプリオはとても好きな俳優さんなので、この人の出る映画はどんなものでも 抵抗なくお話に入れる。だってディカプリオさんとは、彼がまだティーンエイジャーの頃から、「ギルバート・グレイプ」で懇意の仲だから、私の対人バリアーがとても低いのだ。彼が出ている映画なら、何でもついていけるわという愛に裏付けられた根拠のない自信と信頼感。これも潜在意識のなせる業にちがいない。

インセプションは、この人間の潜在意識にもぐりこんで、その人の頭の中の考えを取り出したり、逆にある特定の考えを植えつけたりする職人のこと。ディカプリオがこの職人として、もう一人の同業者と共に、映画の中で大活躍する話。この仕事は名称をつければインセプターかな。翻訳すると潜在意識操作師。脳内「取り出し」より、脳内「植え付け」の方が難度が高いらしく、報酬も高い。アデランスみたい。ディカプリオは、依頼人からの仕事である、「脳内植え付け」作業の報酬として、自身の「犯罪歴の取り消し」を、もらうことになっている。依頼人は、日本人の会社社長、渡辺謙。

ディカプリオには実際には自死による妻がいたが、妻が弁護士に故意に彼が犯人だという遺書を残したため、妻殺しの指名犯として、幼い子供二人が残るアメリカに帰ることができないでいる。もしその夢がかなえられるのなら、という目的で依頼人の仕事を引き受けた。

依頼人の頼みは、ある大企業の躍進を阻むため、創業者と二代目の間の葛藤を深くして、二代目の頭の中に入り込み、会社を崩壊させようというもの。

そんな他人の難しい仕事を引き受けるなら、ディカプリオさん、まず自分の犯罪歴をすべての人の頭の中から消しちゃったほうが早いんじゃないの。人数が多すぎて無理だったら、とりあえず、警察関係者と入管関係者と親戚と友人の頭の中に入り込んで、犯罪歴取り消しボタンを一斉クリックしてしまったらどうなのかしら、と突っ込みをいれたくなるが、ここはディカプリオさんの意思に任せて・・・

まあ、ディカプリオも二代目も、身近な人間関係において、大きなトラウマをかかえているらしいことがわかってくる。ディカプリオの場合は、自殺した妻への強烈な罪悪感。二代目の若社長の場合は、父親が死ぬ時にうわごとのようにいった「失望・・・・」という言葉にまつわる自分に対する絶望感と父親への怒り。

自分自身のトラウマは、潜在意識操作師のディカプリオをもってしても、自分では消すことができないところが面白い。ただし、自分のトラウマを通してのみ、相手の潜在意識のトラウマに達することができるので、トラウマの存在意義は大きい。その作業はすべて夢の中においてなされる。

夢の中の舞台を設計する若き設計士の作り出す壮大な街や風景と迷路は、たしかに私もたまにみる光景だ。あそこまで壮大ではなくても、私も、夢の中で人を殺しそうになったり、殺されかけたり、自分の葬式を出したり、ダンボールの車をどんどん蹴散らかして暴走したり、雲の中をクロールして泳いだり、巨大な豚の召使にされそうになったり、夢はいったい誰がどのように作り出しているのか不思議でならない。

話のテーマは単純なのに、こんなに大掛かりな装置と有名俳優を使って、まったくハリウッドの無駄遣いというべきだが、ディカプリオの場合は許す。だってもう潜在意識に、この人は好き、と刷り込まれてしまっているから。