ことば咀嚼日記

日々読んだ活字を自分の頭でムシャクシャ、時にはゴックン、時には、サクサク咀嚼する日記

リンカーンは苦闘の連続

2013-05-21 | 日記
映画『リンカーン』を見ました。スピルバーグの監督作品だったんですね。映画の前にスピルバーグが出てきて「過去から歴史を学ぶ必要性」について語っていました。

さて、映画ですが、はじめっからさいごまで、共和党と民主党の間の討論・討論・討論・根回し(ロビー活動)・討論・討論・選挙・南北戦争の終わり、暗殺、映画も終わりという構成です。あいまにリンカーン家のごたごたというか、これもまた家庭内討論が出てきます。

南北戦争のときの戦争映画なので、血を見るのがイヤだなあ、と思っていたのですが、暴力シーンは、リンカーンが息子に「お母さんが怖いんだろう」と言われて思わず息子の頬を殴るシーンと、最後にリンカーンが馬で戦いの終わった激戦場を静かに巡回するシーンぐらいです。その場面は無惨のきわみでしたが、実戦の場面はほとんどありませんでした。

それでも戦争状態の暗さを十分感じることができました。食事の場面が全然出てきません。恋もありません。リンカーンは睡眠時間を削って、いろいろな書類にサインしています。
食欲・性欲・睡眠欲という三大欲求を押し殺して暮らす・・・ああ、これが戦時生活なのだなあと思いました。
もし、戦争になったら、何をしたいと思うでしょうか。思いっきり寝て、食べて、恋をして、というのは戦争が終わってからしたいことで、戦争状態になったら、思うのは今日、生きることだけ、しかも生きる希望を日々持ち続けるのはとても難しいことだろうと想像されます。なぜなら自分の子どもが戦争で死んでいくのですから。

リンカーン家の場合は4人息子がいたのですが、そのうち2人が子どものうちに病気で亡くなったので、妻のメアリーは長男はぜったい戦争にいかせまいとリンカーンに特権を使って画策させます。それは大統領の立場ならたやすいことですが、息子自身が同じ年代の若者が戦死しているのを見て、自分も戦争に行きたいと、父に懇願します。そこで、「お母さんが怖いから僕を戦争にいかせまいとするのだろう」というせりふが出たとき、リンカーンが息子を殴ったわけです。
それは図星だったからでしょう。

奴隷解放と南北戦争の終結にいたるまでの経過には、ちょっと複雑な経過があって、途中私が寝てしまったこともあってうまく説明できませんが、ただ単にリンカーンが奴隷解放を第一義にしていたわけではなさそうです。彼は、北と南が分かれて合衆国という一国がばらばらになるのを何よりも恐れていたようです。奴隷を解放せよというのを第一スローガンにかかげていた急進派と、現状維持を求める議員との間で激しい議論がおこりますが、その間にたって、綱渡りをわたるような苦闘の日々を送っていたのがわかりました。

いったいこの人の楽しみって何だったのでしょう・・・・楽しみが家庭であったということは絶対ありません。

家庭も茨のむしろ、それよりは議会で熾烈な討論を調整したり、あっちこっちに働きかけたり、死刑執行の書類にノーのサインをしたりしたほうがまだマシと思っていたかもしれません。
大統領とか、大統領の妻の座は、みんなが思っているのとは反対に、過酷なものかもしれないと思えてきました。
最後にリンカーンは暗殺されるのですが、もうその前から顔に死の気配が濃厚に漂っていたことが印象的でした。オツカレサマデス・・・・