ことば咀嚼日記

日々読んだ活字を自分の頭でムシャクシャ、時にはゴックン、時には、サクサク咀嚼する日記

リアリティ

2014-08-01 | 日記
ホドロフスキーの「リアリティのダンス」という映画を見ました。強烈な場面がたくさん出てきますが、見終わった後は、わりに冷静でいられる映画です。
とんでもないDV親父と、スピリチュアル幻想母との間に生まれてしまった男の子が主人公です。父親がいかに暴力的かと言うと、まだ10歳になるやいなやの息子を「男にする」といって、何もしていないのに何発も殴ったあげく、息子の歯が折れると歯医者に連れていくものの、「男なら麻酔なしで治療を受けろ」と過酷な治療を受けさせるといった具合です。
母親は、いつも息子にオペラ歌手のように歌で話しかけ、自分の亡くなった父親と同じ色の巻き毛のかつらを息子にかぶらせたり、「自分を消す方法」と称して、全裸で酒場の中を歩いたりします。
そのうちに、父親は共産主義者になり、独裁大統領を暗殺する旅に出て帰ってこなくなります。息子と母は、夫の帰りを待つのですが、数ヵ月後に帰ってきた夫は、がりがりにやせ、以前、あれほど家庭で暴君だったのがいまや、恰幅のいい妻に抱き上げられて、よろよろとベッドに横たわる有様。しかし息子はそこではじめて、父親が移民ユダヤ人として、これまでどんなに人々から蔑まれ、馬鹿にされ、その反動で心に鎧をつけて暴君のように振舞わざるを得なかったかがわかります。父親の心の奥深くに住んでいたのは、ぼろぼろでみじめな小さな傷つきやすい男の子だったのです。

これはホドロフスキー監督の自伝映画だそうです。実際の父親はもっと過酷な暴君だったとか。ときどき子供の頃のホドロフスキー少年の背後に、本物の監督が立って片手で少年を抱きかかえるように、何かをつぶやくのシーンが出てきます。これを作りながら監督自身はきっと癒されたのだろうな、と思いました。
二回は見たくないけど、一回は見てもいい映画です。けっこうコアなファンがいるらしく、映画館を出たら次の回を待っている人がたくさんいました。