在りし日の面影写すシャッター街にて

シカゴから一時帰国した友人が、シャッターの降りたアーケード街を見て、
「ああ、何たること」と嘆いた。
そうよ、今の日本の地方都市は、どこもこんなもの。
和歌山のぶらくりちょうも、新潟の十日町も、そしてこの神宮前のアーケード街も、歯がポロポロ抜けたおばあさんみたいだった。
かつては、ここにたくさんの人がやってきて、カバンを買ったり、お菓子を買ったり、うどんを食べたりしたのだろうけど、今は手作りのパン屋さんと、「人妻の誘惑」と書かれた、キャバクラか、何か分からないお店だけ。
お店の前には、黒服を来た中年の男の人が、自信なさげに客を待っている。
そりゃ、そうだろう。小雨の降る中、真昼間から、私達中年女性二人以外、誰も歩いていない。自信もなくなるだろうよ。
友人が、あんまり「こりゃ、ひどいわ、日本もダメだ」とか言うので、つい、悔しくなって、

「私なら、あのキャバレーをもっと流行らせる！」と言ってしまった。

どうやって流行らせるの？と問うので、

「近所のきれいどころの主婦をたくさん集めてきて、店の前に時給3000円でたってもらう」と口からでまかせを言ったら、友人はゲラゲラ笑い出した。

近所のきれいどころなんて、ホントはいない。だって皆年をとってしまったから・・・

「このアーケード街を抜けて、どんどん歩いていくと、〇〇ンという大型スーパーがあるからそこならたくさん人がいるよ。行ってみる？」と言うと、大型スーパーはアメリカにもあるからいいという。
ほんじゃ、ま、この寂れたシャッター街を今の日本の象徴として、しっかり目に焼き付けといて、ということで、納得してもらった。

30年前から日本を出てずっと異国暮らしの友人には、日本がもっと賑やかで、活気があって、ぎらぎらしていた時代のイメージが強すぎて、落ち着かないのだろう。
大学生をやっていたあの頃が、そんなにいい国だったとは私には思えないけど、今より、もっと嫌な国だったような気もするけど、気のせいかな・・・
いや、気のせいじゃない。ジャパンアズナンバーワンとか言われて、うぬぼれていた、嫌なヤツだったよ、日本は。うなだれて反省している今の方がずっといいじゃないか。
私は、今の寂れた日本、そんなに嫌いじゃないよ。強がりじゃなくって、落ち着いていい感じになってきたじゃん、これがワビサビってもんだよ、と言ったら、友人はまたゲラゲラ笑った。

そして笑われて、負けるもんか！となぜか闘志を燃やして帰ってきた。
一体誰に対して？なんに対して？
よく自分でもわからない。