女ひとり、歳をとる。

お金なしの60代、犬2匹と同居中。

ツユクサの行く場所。

2022-05-26 20:08:54 | 映画

 

きのう『ツユクサ』を観ました。

いつもは邦画は観ないのですが、松重豊さんが出演しているので出かけました。

松重さんというよりも、孤独のグルメの井之頭五郎ファン。

 

伊豆のタオル工場で働いている芙美は、

同僚の直子と妙子とたわいもない話をしながらの毎日。

そんな日常のある日、夜空が明るくなっていくつかの隕石が落ちてきました。

ひとつは直子の息子の航平が望遠鏡で星空を見ていた山の向こうへ、

そして、もうひとつは芙美の乗っていた車に当たって、

車は横転して芙美も軽いケガをしました。

 

ある日、航平は隕石探しに芙美を誘いました。

たくさんの石の中から隕石をみつけ、芙美はペンダントにしました。

これは奇跡の証し、そう思いながらペンダントを首から下げました。

 

芙美がジョギング中に、警備係の吾郎と何回かすれ違いました。

そして食事に寄ったスナックで吾郎と再会します。

ツユクサの葉の草笛を吾郎から教えてもらったり、

お互いを意識したようにたびたび会うようになりました。

でも、芙美にも、吾郎にも、伊豆の田舎でひとりで暮らすわけがあったのです。

 

中年の恋はお互いが歩んできた人生が重しになって、

若い人たちの恋のようにグングンとは進めない。

それでも熱くなり始めた心に背を向けることはできないふたりです。

ツユクサの花言葉は尊敬、でも、尊敬は大きな愛でもありますよね。

ふたりは大きな愛を得ることができるのでしょうか。

 

ネットで評価の高い作品です。

いつも観ている洋画ではエンドロールが流れ始めると、

何人かが席を立って出ていくのですが、きのうはだれも立ちませんでした。

みなさん余韻に浸っているのでしょうか。

でも、わたしは早々に席を立ちました。

劇場よりも家のテレビで観ればよかったかな・・・。

芙美と吾郎のぎこちない恋を、

もう少しロマンチックに描いてほしかった初老のわたしです。

 

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月給はTシャツ3枚分。

2022-05-20 22:46:17 | 映画

 

きのう『メイド・イン・バングラデッシュ』を観ました。

バングラディシュの首都ダッカの縫製工場で働くシム。

家には働かない夫がいて家賃は数カ月も溜まっています。

1日1,650枚のTシャツを縫っていますが、

シムの月給はそのTシャツ3枚分。

夫婦ふたりが生活できるものではありません。

 

職場環境は劣悪というより最悪、

ミシンで作業する女性たち30人ほどを2、3人の男性が監視して、

製品の出来上がり具合などを厳しくチェックしています。

ある日、作業中に火事になって従業員ひとりが亡くなりました。

またある日は、残業になって全員が工場に泊まることになりました。

寝具もないまま床の上で休みましたが、その日の残業代は支給されません。

シムたちの不満はたまる一方ですが、とどうすることもできませんでした。

 

そんな折、シムは労働者権利団体の人に声をかけられ、

労働組合の結成をすすめられます。

そして、労働の法律を学び、同僚たちを説得し、

組合設立のための署名集めに奔走します。

でも、それが会社に知れることになり解雇を言い渡されます。

窮地に立たされたシム、それでも踏ん張り続けるシム。

イスラム圏の女性たちの切ない話の終わり方を想像していましたが、

その踏ん張り方が予想外にたくましくて、ちょっと、グッときました。

 

実際にあった話がモデルになっているそうです。

わたしが着ている安価なTシャツが、

シムや他の女性たちの汗と涙の結晶だということを知って、

とても複雑な思いもした映画でした。

 

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モノクロに沁みる。

2022-04-28 17:46:09 | 映画

 

先週は『親愛なる同士たちへ』と、きのうは『カモンカモン』を観ました。

どちらもモノクロ、画面サイズはスタンダードサイズとビスタサイズ。

いつも観ている映画とは少し感じが違いました。

 

『親愛なる同士たちへ』は1962年にソ連で起こった

ノボォチェルカスク虐殺事件を取り上げています。

物価が高騰して食糧不足が続いていたノボォチェルカスクでは、

大混雑の食料品店で毎日の食料を買うのも大変でした。

でも、共産党の市政委員会メンバーであるスヴェッカは、

いつも裏からたくさんの食料やアルコールを受け取っていました。

 

そんな中、機関車工場でストライキが起こりました。

なかなか沈静化しないストライキに業を煮やした共産党は、工場に幹部を送ります。

でも、事態は好転するどころかますます硬化。

やがて軍隊が突入して、無差別の発砲が始まりました。

工場の敷地は血の海と化します。

洗い流しても、洗い流しても消えない血痕を隠すために、

その上からアスファルト舗装をし直すのです。

 

この騒動に巻き込まれた娘を探して奔走するスヴェッカ。

遺体安置所、病院、墓地など探し回りますが、

どうしても見つけ出すことができませんでした。

娘はどうなっているのでしょうか。

そして、共産党を信じ切っていたスヴェッカの気持ちは・・・・?

 

旧ソ連時代のこととはいえ、ロシアの映画監督が、

ノボォチェルカスク虐殺事件をテーマに撮ったものだと感心しました。

しかも、主演女優は監督の妻です。

ホント、びっくりでした。

 

『カモンカモン』はとてもくつろげる映画でした。

ちょっと風変わりな甥のジェシーを預かることになったジョニーが、

戸惑いながらも、ひとつひとつ乗り越えて、歩み寄っていく、ヒューマンドラマです。

どのシーンも温かくて、

とくにジョニーを演じているホアン・フェニックスの声が、

とてもよかった、心に沁みた・・・。

モノクロのせいか、台詞や表情がダイレクトに入ってきて、

久し振りに胸の奥がしっとりした感じがしました。

沁みた映画でした。

 

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航海者たち、心の明暗。

2022-04-14 23:24:54 | 映画

 

きのう『ヴォイジャー』を観ました。

わたしは宇宙スペクタクルの映画が好きで、この映画の予告編を観て、

居ても立っても居られなくなりそうになりました。

きっとエイリアンに襲われるに違いない、

目標の惑星にはきっとだれもたどり着けない、

どんどん妄想が膨らんできました。

 

地球温暖化により飢餓が地球を覆っていました。

人類の存亡の危機打開のために存続が可能な惑星を探して、

そこへ探査隊を送るという計画が持ち上がります。

そんな惑星がみつかりましたが、惑星到着までは86年かかります。

その86年の間に子供が大人になり子供を作り、

またその子供たちの代で惑星へ到着するという計画です。

そのために、試験管ベビーの子供たちを閉鎖空間の中で育て、

そして、宇宙探査のための訓練が続いていました。

10歳に満たない男女の子供たち30人と、

子供たちの教官だったリチャードが宇宙船に乗り込みました。

 

それから10年、子供だった30人は若者に成長しました。

ある日、毎日飲んでいる青い液体に疑問を感じたクリストファー。

その内容を調べてみると、人間としての欲望を制御にするものでした。

ザックと共に青い液体を飲まずに捨てることにしたクリストファー。

今まで感じたことのないような衝動や感受性を心身に感じて、

ふたりは取っ組み合い、レスリングを始めます。

でも、他の周りの若者たちは、ふたりの行動が理解できずにいました。

そして、ザックは執拗にセラに迫りますが、固く拒否され続けます。

 

そんなとき、宇宙船の故障の修理で、船外の作業をすることになりました。

リチャードがクリストファーにアシストを頼みますが、

青い液体のことで彼と言い合いになった後だったので、アシストを断るクリストファー。

でもリチャードにどうしても必要だと説得されて、ふたりは修理のために船外へ出ます。

しばらくすると、黒い煙のようなものがリチャードを覆い負傷しました。

急いで船内で治療しますが、リチャードは帰らぬ人に・・・。

 

リーダーを失った悲しみの船内、クリストファーが新しいリーダーになりますが、

青い薬を飲まなくなった若者たちが暴走し始めます。

時折聞こえる船外からの不気味な音。

ザックはエイリアンがいるのから、武器を持って迎え撃つと言い出し、

ふたりの男女が他の仲間らによって殺されます。

しかし、本当の敵はエイリアンではなく、リーダーになりたかったザック。

そして、暴力で他者を支配しようとして、

自分とは違う意見の人を排斥し追い詰めていく人間の気持ちだったのです。

このまま、探査船は無事に惑星に到着できるのでしょうか。

 

悪事が暴露された後のザックの巻き返しの口述に、つられてしまう他の若者たち。

近未来の閉鎖された宇宙船内の話でしたが、

現在の人間社会のありさまにも重なることがたくさんありました。

 

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左から、クリストファー、セラ、リチャード、ザック。

 

 


二トラム。

2022-04-07 22:53:05 | 映画

 

きのう『二トラム』を観ました。

オーストラリア・タスマニア島で起こった無差別銃乱射、

35人が死亡し、15人が負傷した事件を映画化しています。

小さなころから二トラムという蔑称で呼ばれていたマーティンの、

情緒不安定な日常を淡々と描いています。

二トラムはマーティンのアルファベットを逆読みしたもの。

 

毎日住宅街の中にある自宅で花火をあげるマーティン。

隣家からは怒りの罵声が毎日あびせられます。

そんなマーティンに両親は半ば諦め気味、

興奮すると大声を上げて暴れるので、抗うつ剤の投与が続いていました。

通院に付き添っていた母親は、

主治医から投薬はマーティンのためか自分のためかと聞かれます。

少しためらってマーティンのためと答えます。

でも、家族なら毎日毎日何かの問題を起こす息子を、

少しでも静かにさせておきたいと思う気持ちは当たり前だと思います。

 

マーティンは芝刈りのバイトで出会ったお金持ちのヘレンと暮らし始めます。

周りから変人扱いされていたマーティンを、

母親ほど年上のヘレンは彼女なりのやさしさで接します。

それは恋人ではなくて、母、親友、仲間と言った感覚でしょうか。

いつも口うるさく厳しい母、そんな母には頭が上がらない父。

血のつながった家族よりも、ヘレンはつながっていたのかもしれません。

 

家にも、バーにも、ビーチにも、どこにも自分の場所がなかったマーティン。

小さいころ父親からもらったエアガンを撃ち始めます。

次第に上達して的はほぼ的中。

ヘレンの死の後、何十丁銃を買い求め、

そしてマーティンはすべての銃を持って出かけます。

 

なんだかとても重い映画でしたが、

マーティンを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズのすごさ、

上質の映画を観たという気持ちが強い映画でした。

でも、次は明るくて楽しい映画を観たいと思います。

 

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