星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

七月大歌舞伎 夜の部(1)

2010-07-05 | 観劇メモ(伝統芸能系)
観劇日    2010年7月4(日) 夜の部 16:00開演
劇場     松竹座
座席     3階右列

2日目の夜の部を観劇。
澤村藤十郎さんの口上はこの日はなく、予定通り午後9時に終演。
番付をまだ買わないので、代わりにイヤホンガイドを借りたのだけれど、
澤村藤十郎さんが関西での歌舞伎公演にどれだけ尽力されたかについて
繰り返し説明されていた。
「関西・歌舞伎を愛する会」の前身は「関西・歌舞伎を育てる会」。
名称を「関西歌舞伎~」にせず「関西・歌舞伎~」にしたのは関西以外
の歌舞伎も育て、愛してほしいからとの願いがこめられているそう。

七月大歌舞伎がすっかり定着してから歌舞伎を観るようになった私には
とてもありがたいお話。会が30年も続いてきたことに感謝しつつ、祝典
劇を含む夜の部3演目を楽しませていただいた。


一、双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)
井筒屋
米 屋
難波裏
引 窓


南与兵衛後に南方十次兵衛:仁左衛門
藤屋都後に女房お早:孝太郎   濡髪長五郎:染五郎
山崎屋与五郎:愛之助      藤屋吾妻:春猿
三原伝造:段治郎        平岡丹平:猿弥
おせき:吉弥          母お幸:竹三郎
放駒長吉:翫雀


馴染みの遊女吾妻の身請を望む与五郎は人気の大関濡髪長五郎の大の贔屓。
濡髪は吾妻に横恋慕する蔵屋敷の侍に手を引かせようと奔走している。
吾妻の姉女郎である都の恋人の与兵衛は殺人を犯し、都と駆け落ちする。
一方、吾妻も廓を逃れ、与五郎と逃げようとするのを捕えられるが、濡髪
が駆けつけ、危ういところを助けられる。しかし、濡髪は人を殺めてしま
い、兄弟の契りを結んだ関取放駒長吉に後を託して落ち延びる。
お尋ね者となった濡髪は、与兵衛の父の後妻となった母のお幸に暇乞いを
しに八幡の里へやって来る。今は与兵衛の女房となっている都(お早)と
お幸は、役人に追われる濡髪を匿う。
ここへ村方取締となって父の名の南方十次兵衛を継いだ与兵衛が濡髪召捕
の命を受けて戻る。それを知ったお幸は、実の子への情と継子への義理と
の間で苦悶するが、全てを知った与兵衛は継母の苦衷を思い、放生会にこ
とよせて濡髪を逃がしてやる。

(公式サイト「歌舞伎美人」より引用)


2年前に浪花花形で通しで見たつもりになっていた。が、大間違い。
これはもとは全九段の人形浄瑠璃とのこと。今回は「井筒屋」「米屋」
「難波裏」があって、「引窓」になる。
濡髪がなぜ人を殺めるにいたったか、その裏にある事情がよくわかり、も
のすっごくすっきりした(笑)。
双蝶々の「蝶々」は長五郎と長吉の名前からとったという、演目の由来も
ナットク。大関の長五郎と、力持ちの米屋の長吉。二人の格の違いとか、
それを超えて二人が交わす義兄弟の覚悟とかも。
翫雀さんの長吉は素人で相撲の強い、まっすぐな人間という感じがよく出
ていた。長吉の姉を演じた吉弥さんは母代わりでもあり、弟への深い愛情
を感じる。この時の吉弥さんの髪飾りが素敵で、町人らしい色気を放って
おられた。

でも、人間関係が入り組んでいるのに加え、途中で呼び名が変わったりす
るので、久しぶりに見るとわかりにくい部分があるのはたしか。「引窓」
だけではない通し狂言をこれからもお願いしたいと思う。
ただ、裏事情がわかってもわからなくても、「引窓」の場で、濡髪の母親
お幸が語り出す場面ではなぜか泣けてしまう。この日も竹三郎さんの声を
聞くだけでヨヨ・・・となってしまった。

染五郎さんはほぼ出ずっぱり。ふだんは細身と見受けられる体は大きく、
声も太めで、見た目はすっかり関取になっちゃってる~。
勝負に生きる男だからか、口は真一文字に結び、表情の変化は少なめ。
なのでそのぶん、人を殺す場面と、母や義兄の気持ちに応えようとする時
にゆがむ表情が印象に残る。

井筒屋というのは大坂・新町の遊郭。
愛之助さん演じる山崎屋与五郎は、遊女吾妻に逢うためにそこに通ってい
る。役柄でいえば、いわゆるつっころばしで、台詞回し、身振り手振り、
乱れた髪にも上方の力のない色男の風情たっぷり。
力のないぶん、何かというと濡髪長五郎を頼るし、また濡髪もそれに応え
ようと無茶なこともしてしまう。自分を贔屓にしてくれるこの人を守らな
ければ、と思わせてしまう人物であるようにたしかに見えた(笑)。
春猿さんの吾妻とのバランスは、あともうちょっとという感じがした。
次回どんなふうに見えるか楽しみ!

南与兵衛役の仁左衛門さんが登場すると、芝居にぐっと重みが加わる。
昨日まで町人だったのに、突然武士になったことがわかる場面が面白い。
羽織を脱いだ途端そのギャップを見せる与兵衛のお茶目なこと♪
手水鉢に濡髪の姿が映ったことからすべてを察するときの緊迫した表情。
放生会にまぎれて濡髪を逃がすときの眼差し。
元遊女で妻役の孝太郎さん。夫も義母も大事に思う良妻を好演している。

戸口の外側と内側で、全員の表情が一斉に見える最後。
ええお芝居を見た~という気にさせられました。


二、弥栄芝居賑(いやさかえしばいのにぎわい)
道頓堀芝居前


幹部俳優出演

浪花の名所、五座の櫓も華やかな芝居街道頓堀。幹部俳優達が一堂に並び、
関西・歌舞伎を愛する会 結成三十周年を記念して、歌舞伎の末永い繁栄
を念じ、これを祝う。

(公式サイト「歌舞伎美人」より引用)



澤村藤十郎さんがこの構成に関わられた。
いま松竹座にかかっている看板がそのまま舞台でも飾られ、劇場ごと江戸
時代にタイムスリップしたような感覚。
芝居前にあっちこっちから集まってくる客の様子が描かれる、とても華や
かでおめでたい演目。
(途中で撒き団子・・・と思ったら、撒き手ぬぐいだった。愛之助さんも
歳後まで投げてたけど、3階まで届くわけないしぃ~。)
興行主(仁左衛門さん)の口上がそのまま今回の口上となり、舞台に並ん
だ12人の役者さんが順番に口上を述べてゆく。
孝太郎さん、愛之助さん、猿弥さん、春猿さん、笑三郎さん、左團次さん、
竹三郎さん、染五郎さん、吉弥さん、段治郎さん、翫雀さん、
もう1回最後に仁左衛門さん。
どんな内容かは始まったばかりなので書かないでおきます。



三、竜馬がゆく(りょうまがゆく)
風雲篇


坂本竜馬:染五郎    武市半平太:愛之助
西郷吉之助:猿弥    寺田屋お登勢:吉弥
おりょう:孝太郎



元治元年、池田屋事件で土佐藩の多くの浪士達が命を落とし、坂本竜馬の
竹馬の友で、土佐勤王党を率いる武市半平太も山内容堂の命により捕えら
れた。
京の町で出会ったおりょうという娘の言葉に、討幕への思いを胸に抱いた
竜馬は薩摩に、長州と手を結んでくれるよう画策する。西郷吉之助や血気
に逸る薩摩藩士達に「真実を見よ」と説いた竜馬の尽力の甲斐あって、
薩長同盟は締結に漕ぎ着けるが、そんな竜馬にも危機が迫り・・・。

(公式サイト「歌舞伎美人」より引用)

立志編はTV映像で見たが、風雲編は全く初めて。
今回の舞台は池田屋事件の後から、薩長同盟、寺田屋事件までを題材にし
て構成されたもののようだ。
新歌舞伎の香りがした舞台、立志編の染五郎さんの竜馬はもっと色白メイ
クに見えたのだけど、今回の舞台では浅黒くてずいぶんワイルドな感じで
NHK大河ドラマのイメージに近い。脱藩後なので髪型が変わったせいもある
と思う。
悩みながら、考えながら、人を引き寄せ、大きな事をやりとげてゆく人間
竜馬を汗だくになりながら演じる染五郎さんはカッコイイ。

2年前の配役にあったはずの中岡慎太郎が今回はいない。
もしかしたら、愛之助さんは武市じゃなく中岡だったりして?とアホな期待を
していたら、すぐ武市が登場してアセった。発表通りだった。(アタリマエ!)
竜馬がワイルドなイメージなのに比べて、半平太は同じく色は浅黒いが月代が
ピシッと決まり、古風な二枚目イメージ。今回の月代は愛之助さんのきれいな
お顔によく似合っていて、オペラグラス越しにしばしおクチあんぐり♪
(これなら「春雨じゃ、濡れてゆこう」の月形半平太もやれそうだ~~~。)
にもかかわらず、この武市で一番印象に残るのは、けわしい目つきだった。
尊王攘夷の考え方をめぐって竜馬と言い合う場面。また、以蔵の扱いに対して
責められる場面。終始キビシイ武市の眼差しが心に突き刺さる。
今回、切腹まであることは予想していなかった。
1階席で見て、花道の竜馬に気をとられていると見逃すことになる。私は3階席
なのにオペラグラスで竜馬を見ていて、武市の登場には気づかなかった(泣)。
次回はちゃんと見るぞ!

三条大橋たもとの河川敷で土佐藩士たちが集まっている場面では、武市だけが
椅子のようなものに腰掛けている。あとは全員地面の上。
藩士からも先生と言われ、下士から上士になった武市の立場がよくわかる。
その武市のかたわらに大きな目を光らせて控えている岡田以蔵。役者さんのお
名前がわからなかったけれど、すごく感じが出ていた。

西郷吉之助は猿弥さん。もう、見たまんま、そのまま西郷どん♪
(太い眉や顔のシワを描いていたけれど、そこまでしなくてもいいくらい。)
小さく打てば小さく響き、大きく打てば大きく響く、を伺わせる舞台版演出。
虫から入って観客をなごませ、笑わせ、やがて一気に長州の話にもってゆくプ
ロセスは見応えがある。
竜馬の説得に、慌てず騒がず、静かに、かつ緻密、繊細に応じてゆくその台詞、
そのたたずまいが西郷どん。例の幕末版イージーパンツ(?)がお似合いの
猿弥さんだ。(←西郷どんの箇所、7/6追記。)

藩士たちの場面が重苦しかったのに比べ、寺田屋の場面は一転して明るい。
吉弥さんのお登勢も、孝太郎さんのおりょうも。
おりょうはあんなに明るくて楽しいのか、というぐらい(笑)。
おりょうが竜馬を救う有名なシーンもちゃんとある!ほほう~。
舞台版の味付けもなかなか粋な演出だった。

寺田屋で竜馬の護衛にあたる三吉慎蔵。
先日の「龍馬伝」展によれば、竜馬が<信頼できる人間>と書いていた人物だ。
誠実そうなその役を松次郎さんが演じている。部屋の外で待機するところとか、
敵を迎え討つ準備を着々と進めるところとか、かっこいいんである。

今回は暗くて3階からではよく見えなかった表情を、次回は1階でチェック!
(前列じゃないけどね・・・。)


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12 コメント

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お疲れさまでした (とみ(風知草))
2010-07-05 12:32:37
>ムンパリさま
初めて拝見する引窓までがよかったですね。
自慢ではないですが、勧進帳と引窓は途中、落ちなかったことありません(何回も拝見して繋がってます。)。与五郎さんも人殺ししたはったことや、足抜け女郎のわりにのほほんとしたはるお早さんとか、疑問はありますが、濡髪さんがかわいそうなんはよう分かりました。そら、安穏と暮らせるのは彼のおかげやおませんか。
ええ公演ですね。
返信する
とみさま♪ (ムンパリ)
2010-07-05 13:04:57
はい~、よかったです。
> 与五郎さんも人殺し
そうそう!あんな顛末でいいのか~とか、ツッコミまくり
で今回は起きていられましたよ♪
こういう通し狂言をまた何度もやってほしいですね。

> 濡髪さんがかわいそう
ほんまに。彼一人がなんで?
最近のワイドショーと符号するような相撲界のスキャンダル
ですが、こちらはあったか~い結末なのが救いです。
返信する
わぁ~! (おばおば)
2010-07-06 01:24:22
ご覧になったのですね!
私も今週土曜日に夜の部を拝見しますので観どころが分かって嬉しいです(^^)

「引窓」しか観たことがないので通しで観れるのと武市さんが楽しみ!
(染模様コンビですし…←着眼点が違う!?^^;;)
昼の部もご覧になったら是非レポを拝見したいです。
返信する
読ませていただいちゃった! (かずりん)
2010-07-06 10:20:33
夜の部・・・楽しみです!
読まずに行こう・・と思いつつ
ついつい読ませていただいちゃった!
愛之助さんのお役が・・・楽しみです♪
また、お邪魔させていただきます♪
返信する
仁左衛門のすごさ (とみた)
2010-07-06 12:34:45
ムンパリさん、こんにちは。
今回、仁左衛門さんの役は綱豊以外は頭にはいってなかったんですが与兵衛もやるんですね。ムンパリさんの文章を読んだだけで、演技がどんなにすばらしいか、想像がつきます。短い時間でもビシッと決めて、強い印象が心に残るんですよね。一瞬なんだけどなぜかはっきり記憶に残る表情とか。
返信する
おばおばさま♪ (ムンパリ)
2010-07-07 01:24:26
まだ始まったばかりなので、楽しみなネタバレに触れる
ようなことはなるべく書かないようにしました。
でもこれだけはお知らせしときます。
半平太が引っ込んでから、ややあって、竜馬が花道で独白
というか手紙を読む口調になったら、花道だけじゃなく
本舞台にも注目してください。あ~半平太さん♪

昼の部観劇はかなり後の方、もしかしたらおばおばさんよりも
後になるかもしれません。
大阪のミナミ界隈をたっぷり楽しまれてください♪
返信する
かずりんさま♪ (ムンパリ)
2010-07-07 01:25:11
染ちゃんを松竹座で見るのは久しぶりです。
竜馬がゆくはテーマソングもあって、染ちゃん竜馬は走り回って
殺陣もあって、カッコよろし~なあ!
かずりんさんは歌舞伎座で見られた演目ばかりかも。
今回は共演者が違うので少し味わいが違うと思います。
けわしい目つきの半平太な愛ちゃんもよろしくね~♪
返信する
とみたさま♪ (ムンパリ)
2010-07-07 01:26:04
そーなんですよ!与兵衛もだったんです。
登場時間みじかいし・・・と私も思ってたんですが、その
存在感の濃厚なこと。
とくに台詞を語ってないところの表情が!
もう、やっぱりヤラレタ~と思いましたね(笑)。
とみたさんなら、おわかりですよねっ。

あ、猿弥さんのことを書き忘れてた!(汗)
大きく、静かで、見た目にはまんま西郷どんでした。はい。
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歌舞伎座の「竜馬がゆく-風雲篇-」とは書替えられてますね (ぴかちゅう)
2010-07-10 00:13:34
ずいぶんとご無沙汰しており、恐縮ですm(_ _)m
松竹座の七月大歌舞伎にこちらから遠征する友人がいるので気になっていて、読ませていただきました。
「竜馬がゆく-風雲篇-」は初演とは書替えられているようですね。歌舞伎座の方では松緑丈の中岡が武市のことを話題にしているくらいの感じでしたが、愛之助丈が出演されるのと大河ドラマでちょうど武市半平太にスポットが当たっているのを活かしての書替えですね。歌舞伎のこういう融通無碍なところがいいです。
それにしても「竜馬がゆく」は染五郎丈の当たり役のシリーズに育っていくこと間違いなしでしょう。3編の間にどんどん新編ができていくと予想していました。この書替えもそういうバリエーションになるのでしょう。
私もいつか松竹座に遠征できるようになればいいと願っています。
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ぴかちゅうさま♪ (ムンパリ)
2010-07-10 00:57:17
こちらこそ、ごぶさたしっぱなしなのに・・・。
ありがとうございます~♪

私は歌舞伎座のほうを見てないし、登場人物が違うところがずっと
疑問だったのですが、やはり内容が違ってたのですね!
大河ドラマに沿っているというのは、まさにビンゴ!
ほんとに融通無碍ですね、おおらかでいいです~(笑)。
「竜馬がゆく」は松竹にとっても染ちゃんにとっても
大きな財産になりましたね。他とはかなり毛色が違うのに、あくまでも
歌舞伎の一演目というのは歌舞伎の懐の大きさ? でしょうか。
私も今お江戸遠征自粛中なのでサビシイ思いをしています。
ぴかちゅうさんの松竹座登場が決まったら、かずりんさん中心に(笑)
お祭り騒ぎになりそうですよ♪ 私も混ぜてくださいね!
歌舞伎座建て替えのこの時期にぜひぜひいらしてくださいまし。
お待ちしております~~~~~。
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