たまっていた仕事をこなす。
ふう。やれやれまいったな・・というわけで
いつもだとよく冷えたカールズバーグでも流し込むところだけど
最近ビールを飲む気分にもなれなくなってね。
どうしてかっていうと説明が難しいな。
例えるなら、1匹のアマガエル(成体になりたてが好ましい)が
地方の中堅私立大学の入試中、積分の証明問題の答案用紙に張り付いて、
手足の水分がじわじわ紙にしみこんでいく様を3キロ先のオープンカフェテラスに腰掛けた
いかにも通販で買ったようなストールを巻きつけたブロンドのボブカットの
中年女が注文したパンケーキをいかにも美味そうに食べている間に、
持っているよくなめした皮で出来た小さなサイドバッグに忍ばせてある
ロシア製のオペラグラスの存在を思い出して、覗き込んで(ただしそれは大切にケースにしまわれている)
水分を奪われていくアマガエルとたまたま目があって、
アマガエルのまぶたに出来たものもらいが昨日よりも悪化しているのに気がつけるかどうか。
(つまり中年女は昨日のアマガエルのものもらいの症状を把握していなければならない)
その位難しい話だね。
あれ?なんの話だっけ。
あ、そうそうどうしてビールを飲む気分になれなくなったかってことだけど、
ちょっとしたきっかけだったんだ。
聞きたいかい?
それはね、ある雨の降りしきる生暖かい春の夜のことなんだけれど。
どれ位生暖かかったかと言うと、
1年前とある郊外都市の中流階層が住むベッドタウンにオープンした
洒落た(!)イタリア料理屋を切り盛りする30位の痩せた195センチも身長のある、
ヨーロッパで半年修行してきた経験のあるシェフが
(ただしそれは彼の通っていた料理専門学校の斡旋によるもの)
毎日出しているランチメニューの鶏肉料理のコストを削るために今まで仕入れていた
地鶏のみを扱う高級な精肉の卸屋から、食品なら手広く何でも扱う、そう、空気を抜かれ冷凍をされて
遠い地球の裏側から巨大な貨物船で運ばれてきたような肉から
何百年水に浸して柔らかくしたのか想像するのも面倒になるくらい絶望的な歯ごたえのマッシュルームまで
取り扱っている薄利多売がモットーの大手総合食品流通・卸問屋に変えようかどうかふたばん悩み、
新しい取引先から仕入れたよく冷凍の効いたサンプルのムネ肉を常温でのんびりと戻し、
それをドイツ製の高級な包丁で細かく刻んで、缶詰のトマトペーストに固形のブイヨンスープ、
つやのまったくないバジルを合わせて作ったソース、それを3分半茹で上げたやはり南米産の
パスタに絡めて出来上がったものを、シェフより11歳年下の彼の、地方都市の商業高校を中の上位の成績で卒業して経理の専門学校に進んで(簿記の資格を取ることができる)卒業したばかりの南欧に憧れるワイフに出し、
(ただ彼女は夫との生活、□特に性に関する□にほとほと嫌気がさしている)感想を求められた
時に、五分の一ほど食べ終え、カチャリと音を立てて安くなかった銀のフォークをテーブルに置いて
漏らした溜息ぐらい生暖かかったんだ。
それでね…あれ?寝ちゃった?
もしもーし もしもーし・・
ふう、やれやれまいったな。ところでこうやって改めて見ると君のまつ毛は魅力的だね。
どれ位素敵かと言うと・・(以下延々と続く)