「・・・えっ。もう1年?」
「そうだよ。なに当たり前の事言ってるのさ」
「なにって・・僕はね、なんだか一年前よりずいぶんと年老いてしまったような気分なんだ。
いろんなことがあってね。いつもの1年よりもたくさん気持ちを費やしたからかな。
もう1年経ってしまったのが信じられない気分だよ。」
「時間はみんなに等しく平等に流れているよ。だからきみのその感覚は
きみの感じ方だね。そしてそれは悪いことじゃない」
「・・?というと?」
「だいたいみんな言うだろう。年をとればとるほど時間の流れが速くなるって。
毎日変化のない同じ様な暮らしを送っている人ほどそうさ。
人間の脳は一度あったことが何度もあると、そのメモリー分の容量を増やさず上書きするらしい。
新しい経験をしなければ、脳の皺も増えないし、同じ経験の記憶が繰り返されるだけ。
それは時間が経つのが速く感じるのもしょうがない。」
「でもね、新しい経験だっていうけど僕はとてもとてもつらかったんだ。
できることならこんな思いは味わいたくなかったんだよ。そんなことで
経験がふえたり1年が遅く経ったって僕は嬉しくもなんともないな。」
「きみの経験がつらかったのかどうかには興味がないな。ようは、きみの感じた1年が
思ってたよりも長かった事が大切だ。それは今まで感じたことのない感情や考え、
これからどうしようといった試行錯誤がそうさせたんだ。そして1年経った今、
きみは何らかの結論に至った。それは正解なのか間違いなのかは今はまだわからない。
いや、むしろそんな二択では割り切れないものなのかも。」
「・・・それで?」
「正しいことなんてないんだ。あと40年も経てばきみは死んでいる。だんだんと
1年が短く感じられていくのなら、きみが感じたこの1年を全力で抱えて、頭に
刻み込んでおくんだよ。そしてこれから先のいろんな場面で思い出すんだ。そして
振る舞う。決定をする。きみはたくさんの選択肢を手に入れたんだよ。
この話をポジティブにとるかネガティヴにとるかもきみ次第だよ。ああ、あの時
ダメだったから今度も…ととるのか、今度はうまくやるぞ、と行動するのかは
きみ自身だからね。
「僕次第・・」
「そうだよ。当たり前じゃないか。
じゃあ、さよなら。なるべく元気なきみでいてね。」
music * LA woman / the doors