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スミスの本棚(2012年~2014年3月)

2016年01月01日 00時00分00秒 | 特集
スミスの本棚(2012年~2014年3月)
■五木 寛之(作家) 2014年3月26日(水)放送
1932年福岡県生まれ。教師だった両親とともに朝鮮半島にわたる。敗戦後引き揚げて、1952年に上京。早稲田大学露文科中退。その後、作詞家、ルポライターなどを経て、66年「さらばモスクワ愚連隊」で第6回小説現代新人賞、67年「蒼ざめた馬を見よ」で第56回直木賞、76年「青春の門 筑豊篇」ほかで第10回吉川栄治文学賞を受賞。代表長編作に「デラシネの旗」「風の王国」「親鸞」など。代表エッセイに「風に吹かれた」「百寺巡礼」「大河の一滴」など。20年前に執筆し累計600万部の「生きるヒント」の新版を去年暮れからシリーズで出版中。
手ぶくろを買いに 手ぶくろを買いに
新美 南吉 作 黒井 健 絵(偕成社) 
《お薦めの理由》
五木寛之さんが今なお読み続けている絵本「手ぶくろを買いに」。小さいころ、学校の図書館で手に取った方も多いのではないでしょうか。 
寒い冬、母狐が子狐を気遣い、人間の街へ手袋を買いに行かせる物語。子狐は母の注意に従って、警戒しながら店へと向かいますが、最後は無事に手袋を手に入れ、母のもとへと戻ります。子狐が「人間は怖くなかった」と報告すると、母は「ほんとうにそうかしら」とつぶやいて、物語は終わります。 
この不思議な余韻こそ、この絵本の魅力だと五木さんはいいます。
「何かわからないものが残るとか、喜びとかうれしさの背景に何か不安が尾を引くというのが、本当の童話ではないか」 
五木さんはさらに、この物語に新たな読み方を見つけだします。
手袋を買うため、子狐と人間とが直接話をする緊張の場面。店の主人は子狐が化かしにきたのだと疑いますが、お金が本物だと分かると、手袋をすぐに子狐に持たせてやります。ホッとする場面のはずが、五木さんが感じたことは...
「資本主義みたいなものが 作者の気が付いていないところで、後ろに影を落としている。お金を手にしたら相手が人間だろうと狐だろうとタヌキだろうと狼だろうと大事なものを渡すかもしれないという怖さが入っている」
作者の新美南吉はこんな読まれ方を考えもしなかっただろうという五木さん。作者の意図を超え、読者が好きに読み解く「無意識の領域」こそが、本の醍醐味だというのです。
「無意識の領域が多い作家ほど豊かな才能の作家だといえる。自分の意図してないところで読まれて感動を与えている」「読み手の体験にあわせて、その人その人の読み方ができること」こそが、本の魅力なのです。



■湊 かなえ(作家) 2014年3月12日(水)放送
1973年広島県生まれ。2007年に「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。翌年、同作を第一章に、その後の顛末までを描いた長編小説「告白」でデビュー、09年に第6回本屋大賞を受賞する。「告白」は10年に松たか子主演で映画化された。ほかの作品に「少女」「贖罪」(09年)、「Nのために」「夜行観覧者」(10年)、「白ゆき姫殺人事件」(12年)。「白ゆき姫殺人事件」は井上真央主演で映画化、14年3月末に公開される。
殺人交叉点 殺人交叉点
フレッド・カサック著 平岡 敦 訳 (創元推理文庫) 
《お薦めの理由》
「殺人交叉点」。時効寸前に明らかになる殺人事件の真相を描いたフランスのミステリー小説。被害者の母ルユール夫人と、加害者のセリニャン弁護士、2人の視点で描かれ、同じ世界や景色が、異なって見えてきます。
「自分が見えているものと、他者が見ているものと、全然違うのだなって」「読んだあとは、周りの近しい人でさえ、『いま自分が見ているこの人の姿は本当に正しいのかな』って思い直しますよね」と、湊かなえさん。この本を読んで小説の面白さに改めて気づいたといいます。「一回読んだら、もう一回読みたくなります!」
自分の視点だけではない、他者の視点の大切さ。
「一番大切なのは想像し合うこと。相手の立場に一度自分を置いてみること。そうすると、一番よく見えてくるのが自分だという気がします」



■ニック・バーリー(国際スポーツコンサルタント) 2014年2月26日(水)放送
東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会コンサルタント。ロンドンを拠点とする国際スポーツコンサルタント企業Seven46 の創業パートナー・CEO。2012年ロンドン・オリンピック招致委員会に当初から参画し、決定的な役割を果たした最終プレゼンテーションの執筆を手がける。2016年五輪のリオ・デ・ジャネイロ、そして2020年の東京五輪の招致成功に戦略的コミュニケーション・アドバイザーとして決定的な役割を果たした。元ジャーナリストで、英ガーディ アン紙のスポーツ特派員も務めた。
動物農場 動物農場
ジョージ・オーウェル著 開高 健 訳(ちくま文庫)
《お薦めの理由》
「動物農場」は第二次大戦前後に活躍した作家、ジョージ・オーウェルの作品です。ある農場で豚がリーダーとなって革命を起こす物語で、ソ連の社会主義革命を風刺したとされています。オーウェルといえば日本では「1984年」が有名ですが、「動物農場」も代表作の一つで、2度映画化されています。
東京五輪招致の立役者となったニック・バーリーさんが「動物農場」と出合ったのは10代のころ。シンプルな文体で普遍的なテーマがつづられるこの物語から、「コミュニケーションが学べる」といいます。
「オーウェルの言葉はとてもシンプルで分かりやすい。これはとても効果的です」
「シンプルな言葉を使ってアイデアを語ると、記憶される。覚えてもらえます。ビジネスで成功するためにも、伝えたいことを可能な限りシンプルにするのは、とても重要です」
バーリーさんは、日本のビジネスパーソンに、「動物農場」を英語の原書で読むことを強くお薦めしたいと語ります。「とてもシンプルな英語なので、効果的に英語を勉強できるはず」



■森川 亮(LINE社長) 2014年2月12日(水)放送
1967年神奈川生まれ。89年筑波大学卒、日本テレビ放送網に入社。99年、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程を修了しMBA取得。その後ソニーに入社。2003年にハンゲームジャパン(旧NHN Japan/現LINE)に入社、07年NHN Japan社長、さらにネイバージャパン社長を兼務。12年1月、NHN Japanとネイバージャパン、ライブドアの3社が経営統合、引き続き社長を務める。13年4月、NHN Japanの会社分割・商号変更により、「LINE」「NAVER」「livedoor」のウェブサービス関連事業を行うLINE社長に就任。
(日本人) (日本人)
橘 玲 著
(幻冬舎)
《お薦めの理由》
「(日本人)」=かっこにっぽんじん。作家の橘玲さんが多岐にわたる考察を重ね、従来の常識を覆す新しい日本人の姿を論じます。
LINEの世界展開を進める森川さんは、「日本のことをもっと知らないと海外のことが分からない」と思い、この本を手に取りました。
「日本人が実は非常に合理性が高いと書いてある。組織があまり好きでなくて、孤独が好きだと」
アメリカの学者の研究によると、日本人は他のどの国民よりも損得勘定を考え、合理的で世俗的なのだそうです。
「ここに書いてあることが正しいとしたら、学校や会社といった組織からはみ出ると『損』な環境だからこそ、日本人は新しいことを言わない形になっている気がする」「逆にいうと、環境が変われば日本人はきっと変わる」
日本の企業で業界を変えるようなイノベーションが生まれない理由も、そこにあるのではないか。
「会社が村みたいになっているから、イノベーションが生まれない」
「変わった人こそが評価されるような企業文化、仕組みに変えていく必要がある」
合理的な日本人。さまざまな価値観が存在するグローバル社会でも十分に通用するはずだと森川さんは考えます。
「たとえば意見を戦わせて相手を打ち負かすのが欧米流。勝ち負けが明確になる分、問題も起きる」
「日本人は調整力が非常に強い。相手の意見をうまく持ち上げながら、結果的に思うように動かせるような力があるのではないか」


■林修(東進ハイスクール現代文講師) 2014年1月29日(水)放送
1965年愛知県名古屋市生まれ。東京大学法学部卒。経営破綻した日本長期信用銀行(長銀)の元社員。入行して半年で「漠然とした危機感」を抱き退社。その後、予備校講師となる。現在、東大・京大コースなどの難関コースを中心に授業を行う。東進のテレビコマーシャルでのセリフ「いつやるか? 今でしょ! 」が瞬く間に広まり、流行語大賞を受賞。現在はワタナベエンターテインメントに所属し、テレビ番組などでタレント活動もしている。
方法序説 方法序説
デカルト 著、谷川 多佳子 訳
(岩波文庫)
《お薦めの理由》
「方法序説」は、16世紀から17世紀を生きた哲学者デカルトが、彼が導いた一つの命題「われ思う、故にわれ在り」にどのようにたどり着いたのか、その方法を記したものです。 
高校のときに出合ったこの本に、大きな影響を受けたという林さん。毎年2-3回は読み直してきたそうです。
「教え方に強烈に影響を受けています」
「学問というのは、まずいったん疑って自分の方法を確立すること。いろいろ疑う。だから『僕の言うことを素直に聞く生徒は大嫌いだ』と生徒に言うんです」
「勉強の一番基本は自分の方法論を確立すること。いろいろ苦労して、自分はこの方法ならできるというものを見つけていかなければ、大学に入ってからの学問や、社会に出てからの仕事に全くつながっていかない」
自分の仕事や人生においても、「方法」は常に重視しているそうです。
「相手が要求する水準に達するために、どういう手段、方法を用いればそれができるかを、きわめて理性的に考える。」
「あまりにも、方法を考えないで、とりあえずなんとなくやっているという人が多すぎる気がします」
「でもこういう理詰めなやり方ばかりしてきて、やっぱり友達は少ないですよね(笑)」
いちばん好きな言葉は・・・
「世の中の秩序を変えようとするよりも己の欲望を変えよというところが好きです。」
「これを自分流に翻訳して、『優秀な人は環境に不満を言わない』と変えて生徒に伝えています。」
「周りでいろいろなことが起きる中で、『じゃあ自分はどうするのか』と考える。自分の人生訓ですね」



■宮本亜門(演出家) 2014年1月8日(水)放送
1958年東京生まれ。2004年、東洋人初の演出家としてニューヨーク・ブロードウェイで「太平洋序曲」を上演、トニー賞の4部門でノミネートを果たす。11年、三島由紀夫原作の「金閣寺」を舞台化、NYリンカーン・センター・フェスティバルに正式招へい。13年、市川海老蔵自主公演「ABKAI」で新作歌舞伎を演出。またオーストリアにてモーツァルトのオペラ「魔笛」を演出。14年1月にはオリジナルミュージカル「愛の唄を歌おう」の上演を予定。脚本・鈴木おさむ、全編を槇原敬之の名曲で構成。
ほかに香川県のPRプロジェクト「宮本亜門の@うどん県」でイメージキャラクターを務める。近著に「引きだす力?奉仕型リーダーが才能を伸ばす」(NHK出版新書)。
日本力 日本力 
松岡正剛、エバレット・ブラウン
(PARCO出版)
 
《お薦めの理由》
「日本力」は、編集者の松岡正剛さんとフォトジャーナリストのエバレット・ブラウンの対談集。ブラウンさんの写真を交えた2人の語り合いから、日本人と日本の豊かさをあぶりだしていきます。
宮本亜門さんが惹かれたのは、この本が教える日本の多様性です。
「日本って一つでありながら、ここに出てくる日本は『JAPANS』(複数の日本)みたいな感じ。日本の多様性なんです」「自分の道は一つ、という考えではない。それが日本の良さだと教えてくれる」「『ああ、そうだよ!』と楽になった」
周りと感覚があわず、高校時代には引きこもりにもなった亜門さん。本は異質の人の必要性も説きます。
「歴史を見たら、異質な人が何かを変えてきている」
「この本を読んでいると僕は日本に生まれてよかったと思う」「文化の多様性と美しさがすごい。山のようなヒントがあるので、舞台なんていくらでも、何万、何十億とつくることができる」
「これが本当の日本だと、勇気づけられる本です」



■童門冬二(作家) 2013年12月11日(水)放送
1927年東京生まれ。44年海軍土浦航空隊に入隊し特攻隊に志願するが翌年終戦。戦後、東京都庁に勤務。知事秘書、企画調整局長、政策室長などを歴任。60年「暗い川が手を叩く」で第43回芥川賞候補となる。79年美濃部亮吉都知事の引退とともに都庁を去り、50歳を過ぎて作家活動に専念。数々の歴史小説で知られる。主な著作に「小説 上杉鷹山」「小説 西郷隆盛」「二宮尊徳の経営学」「人生を励ます 太宰治の言葉」「戦国武将に学ぶ『危機対応学』」など。
津軽 津軽
太宰治 著(新潮文庫など)
《お薦めの理由》
太平洋戦争のときに特攻隊に志願したという童門さん。終戦後、生きて戻ると世間は打って変わって冷ややかでした。「まだ17歳ですから、心に響いて...ちょっとぐれました」
そんな童門さんの心を捉えたのが太宰治の小説。「本を開くと活字が飛びかかってくるように感じた」「フレッシュで魂に響いた」といいます。
数ある太宰の小説の中でも一番お薦めなのが「津軽」。暗い小説が多い太宰ですが、「津軽」には太宰の明るく優しい側面が表れているとか。中でも童門さんが好きなのは、太宰が乳母のタケに久々に会うシーンです。
「はじめに会ったときは冷たくあしらわれたが、それは上っ面で、深層はタケも太宰のことを考えている。再会できたことで、太宰が今まで経てきた嵐のような経験が、やっと安住できて、落ち着きを得ることができる。すべてが救われる。そこが好き」
母代りだったタケとの静かで劇的な再会を経て、「津軽」の最後の有名な太宰のセリフ。 『元気で行こう。絶望するな。では、失敬。』
「太宰が言いたかったのはこの言葉でしょう」「ただ、これを理解するには始めから読まないと」
小説「津軽」はどういう人に薦めたいですか。
「世間のものさしの価値観に圧倒され悩んでいる人、誠実がゆえに苦しんで悩んでいる人に読んでほしい」


■市川海老蔵(歌舞伎俳優) 2013年11月27日(水)放送
本名 堀越孝俊。1977年、十代目市川海老蔵(故 十二代目市川團十郎)の長男として東京に生まれる。83年、5歳のときに「源氏物語」の春宮役で初お目見得。85年に七代目市川新之助を襲名、「外郎売」の貴甘坊で初舞台。2004年5月、十一代目市川海老蔵を襲名。同年10月にパリ国立シャイヨー劇場で襲名披露。代表作として歌舞伎十八番の「勧進帳」「鳴神」「助六」などがある。03年にNHK大河ドラマ「武蔵」で主演するなど、テレビや演劇でも幅広く活躍する。13年、千利休役で主演した映画「利休にたずねよ」(12月7日公開)はモントリオール映画祭の最優秀芸術貢献賞を受賞した。 
成功の実現
中村天風・述
(日本経営合理化協会出版局)
《お薦めの理由》
歌舞伎の名門、市川宗家に生まれ、幼少のころから稽古を重ねてきた市川海老蔵さん。小さいころの稽古の記憶は「もう死にそうだった」というぐらい厳しかったと言います。
「それでも命ある限り乗り越えなくてはいけない」
そんな覚悟で歌舞伎と向き合う海老蔵さんが薦める一冊は、中村天風(1876~1968)の言葉をつづった「成功の実現」です。天風は結核を患いながらも世界を放浪し、波乱の生涯を送った人物。思想家として残した言葉は多くの先人の道しるべとなり、松下幸之助や稲盛和夫といった経済人も天風を師と仰ぎました。
この本の中で、海老蔵さんと森本智子キャスターが共に最も心ひかれたのは、「心と体」のエピソード。
世界を放浪して後にヨガの聖人に弟子入りした天風は、ヒマラヤ山脈で修業を積みます。そこで悟ったのは、「人は『気』であり、心と体は道具に過ぎない」という考え方です。海老蔵さんは、この教えは歌舞伎に通じるといいます。
「歌舞伎は月に25日間の公演を5ヵ月、6ヵ月と続けたりする。そうすると体は本当に道具」
「心も、役を演じているときに、(自分から)離れることがある」
世阿弥の言葉にある「離見の見」。舞台に立つ自分を、もう一人の自分が客席から見るという境地。「心は道具、という考え方は、『離見』にとても近い」
歌舞伎だけでなく、映画、テレビドラマと幅広く活躍する海老蔵さん。今後もさまざまな壁を乗り越えていきたいといいます。
「壁を乗り越えるというのは、それを栄養にするということ。壁はあくまでプレゼント。良いことでも悪いことでもプレゼントなんです」



■真山 仁(作家) 2013年11月13日(水)放送
1962年大阪府生まれ。同志社大法学部政治学科卒。新聞記者、フリーライターを経て、2004年、熾烈な企業買収の世界を赤裸々に描いた「ハゲタカ」でデビュー。07年、「ハゲタカ」「ハゲタカⅡ」がNHKでドラマ化され大きな話題に。09年、「ハゲタカ」「レッドゾーン」が映画化。12年、「マグマ」がWOWOWでドラマ化された。ほかに「プライド」「コラプティオ」「黙示」など。 
消されかけた男
フリーマントル 著 稲葉明雄 訳(新潮文庫)
《お薦めの理由》
「消されかけた男」の主人公、チャーリー・マフィンは、さえない風貌の中年男ですが、実はスゴ腕のスパイ。様々な国の組織を相手に戦う羽目に陥りながら、しぶとく生き延びていきます。
真山仁さんは小説「ハゲタカ」の主人公、"世界最強の買収者"鷲津政彦のキャラクターをつくるときに、このチャーリーの姿にインスパイアされたといいます。
「実社会でも本当にできる人は『俺はすごい』と言わない。『俺はすごい』という人は大体ダメなんです」「黙々と結果を出して、さも当たり前のようにやる人が、実はすごいじゃないですか」
チャーリー・マフィンは、自らが所属する組織の中で疎まれ、孤立していきます。この境遇、会社員でも共感できるのではないかと真山さんはいいます。
「すごいサラリーマン小説ですよ。組織の中で『上も下もサイテー』と思いながら、でも自分も最低かもしれないと思いながら悶々とする」「遠い外国の話と思っていると、『いやこれはうちの課長と同じ』みたいな」
さりげなく散りばめられた伏線が、最後に待ち受ける大どんでん返しにつながっていきます。二度読むと、最初は見えなかったウラが見えてくるような小説だといいます。
「日常に停滞を感じている人に読んでほしい」「視点を少しずらすだけで、劇的に『停滞』は変わるはず。(事態が)動かないのは、もしかして自分が騙されているかもしれない。動かないんだったら自分で動かせばいいかもしれない。そんな風に思える本です」


■南場 智子(DeNA ファウンダー) 2013年10月30日(水)放送
新潟市出身。津田塾大学を卒業後、1986年マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。88年、マッキンゼーを退職しハーバード大へ。90年、ハーバード大学にてMBAを取得、その後マッキンゼーに復職。99年にディー・エヌ・エーを設立。同年、マッキンゼーを退職し、DeNA社長に就任。2005年、DeNA東証マザーズ上場、07年に東証一部へ。11年6月、病気療養中の夫の看病のため社長を退任し取締役(現任)。13年6月に出版した著書「不格好経営」(日本経済新聞出版社)が、多くのビジネスパーソンの共感を呼んでいる。 


フェルマーの最終定理
サイモン・シン 著 青木薫 訳(新潮社)
《お薦めの理由》
「フェルマーの最終定理」は、17世紀の数学者フェルマーが残した難問を、あまたの数学者たちの挑戦と挫折を経て、現代の天才数学者アンドリュー・ワイルズが初めて証明するまでを追ったドキュメンタリー小説です。
「数学嫌いの人が手に取らないのが残念で仕方がなくて」「スケールが大きいんです。世紀を超え、大陸を超えた人類の『知』の作業というのにわくわくしてしまって」と南場さん。
1993年、証明に成功したと発表したワイルズですが、すぐに証明に問題点が見つかってしまいます。
「最後またダメになりそうで、また頑張る。『頑張る』って使い古されていて陳腐で、と嫌がられることもあるけれど、実際には頑張ること自体が、とても美しくて、重要で、幸せなことなんだろうな、と」
ワイルズは挫折に負けずに、1年後、真の証明に成功するのでした。
しかしこの本で南場さんの印象に残っているのは、実はある脇役のエピソード。失恋で自殺しようとした数学者ヴォルフスケールが、その直前に手に取った数学の本を見て閃いて、新たな証明を始めたくだりです。結局、彼は生きて新たな成果を発表することになります。
「人は無心になったとき、欲がなくなったときに、一番クリエイティブになって、成果が出る。そんなこともちょっと教えてくれる本なんですよね」
南場さんはこの本を何冊も何冊も持っていて、機会あるごとに読み返したり、人に薦めたりしているのだそうです。
「ストレスで自分の発想が小さくなっているときに手に取るし、そうなっているスタッフがいるときには『まあ読めよ』と渡すんです。いい迷惑だと思うんですけど(笑)」



■福井 晴敏(作家) 2013年10月2日(水)放送
1968年、東京都墨田区生まれ。私立千葉商科大学中退。97年、警備会社に勤務するかたわら応募した小説「川の深さは」が第43回江戸川乱歩賞選考会で注目される。98年「Twelve Y.O.」で第44回江戸川乱歩賞を受賞し小説家デビュー。99年「亡国のイージス」、2003年「終戦のローレライ」。05年に原作を手掛けた映画「ローレライ」「戦国自衛隊1549(原案・半村良)」「亡国のイージス」が相次いで公開され話題に。他に「6ステイン」「小説・震災後」「Op.ローズダスト」「機動戦士ガンダムUC」など。 13年、「人類資金」では小説の発売前に映画化を決定(10月19日公開)。さらにシリーズ第1巻を期間限定で半額の250円で販売するなど、書籍の新たなマーケティング手法としても注目されている。 
神の火(上)(下)
高村薫 著(新潮文庫)
《お薦めの理由》
「神の火」(高村薫・著)は、福井晴敏さんが「小説はこう書くのか」を学んだという一冊。かつて極秘情報をソビエトに流していたある原子力発電の専門家が、原発をめぐる国際諜報戦に巻き込まれていくさまを、圧倒的なリアリティをもって描いていきます。
「日本では『プロフェッショナル信仰』が強くて、原発でも『プロが何とかしてくれる』と期待する。でも、そこで働いている人も本当はわれわれと同じ人間でしかないわけです」
原発も、国際諜報戦も、日常の延長線...。主人公の島田の周りに集まるのは過去を背負った孤独な者たちばかりです。彼らとのかかわりの中で、島田は自分の過去、すなわち原発の開発に決着をつけていこうとします。そして島田の結論は「原発襲撃」に至るのです。
「自分にとって生きづらい世の中をどう自分の中で受け止め落ち着かせるか。作り手の原点はそこにある」
「主人公は普通しないことを最後にする。そこに救済を求めるの?ということをする。でも、その決着の仕方は、考えて考えて考え詰めて書かれているとしたら、自分の小説の書き方も同じ」
「作品は読んだ人に何かの突破口を提供するものでなければいけない。精神的な救済を得たところまでは描きたい」(福井さん談)



■村木厚子(厚生労働省 事務次官) 2013年7月24日(水)放送
1955年高知県生まれ。78年高知大文理卒、旧労働省へ。障害者支援や女性政策などに携わり、雇用均等・児童家庭局長などを歴任。2009年の郵便不正事件では虚偽公文書作成容疑などで逮捕・起訴されるが、10年9月に裁判で無罪が確定、職場復帰する。内閣府政策統括官、厚労省社会・援護局長を経て、13年7月より現職。中央官庁の事務方のトップに女性が就くのは16年ぶり。 
花さき山
斎藤 隆介 作、滝平 二郎 絵、(岩崎書店)
《お薦めの理由》
色鮮やかな切り絵と、短く力強い言葉が強く心に残る絵本「花さき山」。1969年に出版されて以来、今なお読み継がれる児童書のロングセラーです。
村木厚子さんがこの絵本と出合ったのは4年前。無実の罪に問われ、長期にわたる勾留を余儀なくされていたときでした。
「すごく自分が惨めな気持ちになってしまいそうなときがあって...。励ましの手紙をもらっても、返事も書けずにうつむいていた。そんなときにこの本を贈ってもらって」
村木さんの心を打ったのは、「花さき山」の、この言葉。
『この花は、ふもとの 村の にんげんが、
 やさしいことを ひとつすると ひとつ さく。』
誰かのために何かをすると、遠くの花さき山に花が咲く。小さなことでも、人のためにしたことで、花が咲く。そのイメージが、村木さんの救いとなります。
「小さい花を咲かせること、自分に何かできることがないかと考えて、『あっそうだ、やっぱり返事を書こう』と。『手紙をもらってうれしかった』と書けば、相手の人がちょっとほっとしてくれる」
拘置所にいる自分でも、誰かのために、できることがある。そう思ったことで、「心が柔らかくときほぐれて」「すごく救われた」といいます。
村木さんは、この絵本を、落ち込んでいる人はもちろん、何か大きな仕事をしようと焦っている人にも薦めたいそうです。
「自分は今、十分な仕事ができていない、誰か別の人の方がよほど仕事ができて自分はできていない、そんな悩みってけっこうありますよね。でも、無理に背伸びせずに本当にできることだけをやればいい」 
今できることという小さな花が集まれば、花畑になる。
「想像すると、ちょっとほっとしますよね」
村木さんは、そんな風に、笑顔で語るのでした。



■篠田 桃紅(美術家) 2013年7月10日(水)放送
水墨を用いた抽象画で世界的に知られる。1913年、旧満州国大連生まれ。30年、東京府立第八高等女学校卒。36年、初の書の個展(東京)。47年、水墨による抽象表現を始める。56年、渡米。以後、ボストン、ニューヨーク、シカゴ、パリなど欧米で個展を開き、高い評価を得る。76年、書と随筆による初の作品集「いろは四十八文字」を刊行。93年、御所・御食堂の絵画を制作。05年、Newsweek誌で「世界が尊敬する日本人100」に選出。07年、皇室専用の新型車両の内装壁画を制作。13年、日米で個展を開くなど、100歳を過ぎてなお精力的に活動中。 
侏儒の言葉
芥川龍之介 著(新潮文庫、岩波文庫ほか)
《お薦めの理由》
「侏儒の言葉」は芥川龍之介の箴言集。短く鋭く、皮肉をきかせながら、この世の真実を突いていきます。その中で篠田桃紅さんにとって、とても大切な一節があります。それは...
『運命は性格の中にある』
運命は偶然ではなく、必然。自らの運命は、自らの性格が決めている、というのです。
篠田さんは厳格な家庭に育ち、「書」にも幼いころから親しみましたが、「お手本通り書くことは私の性格上面白くなかった。もっと好きに書きたいと思った」といいます。
篠田さんにとって芥川龍之介は憧れの小説家。女学生のころ、本人の姿を見たことがあるといいます。
「帝国ホテルで見たんです。バンケットホールからの正面の階段をおりてきた」
「着物ではかまをはいてらして」「とても素敵で、素晴らしい人だった」
篠田さんはやがて芥川が死んだことをラジオで知ります。
「自殺だということはすぐわかりました」
「ああいう頭の良い方は世の中というものがばかばかしくなっちゃったんでしょ」
『運命は性格の中にある』という言葉は、芥川の「遺稿」として、死後すぐに発表されたものです。
篠田さんは、常識の枠にとらわれない芥川に共感してきました。
「書道では川という字は3本以上書いてはいけない。書道は狭苦しくてダメだと思った」
「私はもっと線を引きたい。線というものを材料にして今までこの世にない、いい形、美しいものを作れたらいいなと思うようになった。それが私の性格ですよ」
形式にとらわれない性格が、独自の芸術を生み出す運命を紡いだのです。
自らの運命は、性格で変えることができるはず。「運命は、自分で作っていくしかないのです」と篠田さんは語ります。



■千宗屋(茶人・武者小路千家15代家元後嗣) 2013年6月12日(水)放送
1975年京都市生まれ。慶応大大学院修士課程修了。2003年、次期家元として後嗣号「宗屋」を襲名。斎号、隨縁斎。現代美術など異分野とのコラボレーションに精力的に取り組む一方、08年には文化庁文化交流使として欧米で広く茶の湯と日本美術を紹介。著書に「茶-利休と今をつなぐ」(新潮新書)「もしも利休があなたを招いたら-茶の湯に学ぶ〝逆説″のもてなし』(角川oneテーマ21) など。 
「待つ」ということ
鷲田清一 著(角川選書)
《お薦めの理由》
かつて当たり前だった「待つ」という行為・・・この本は、「待つことができなくなった社会」がほかにも大切なものを無くしてはいないかと問いかけます。 
千宗屋さんは、待つことの大切さを、こう表現します。
「経験したことや感じたことは、自分の中で一度蓄積して、それが何ものかになる時間を待つのが必要だったりする」
「そうすることで深みが生まれ、単なる情報が自分の知識になる」 
「いまは何かを見たらすぐ"ツイッター"。自分のものになる前に吐き出してしまうから、自分の中に残らない」
ビジネスでも、生活でも、すぐに結果を出そうと結末を急ぐ現代の私たち。 
「結果を待たずに何とかしてしまおうというのは、自分たちですべて解決できるという、ある種の思い上がりがあるのではないか」と宗屋さんは語ります。 
「人が行動して何か物事を成し遂げるということは、イコール待つこと」
「人が生きるということは、待つことなんですよね」 
見知らぬ未来に心を開いて待つことは、生きることそのものではないか。その考え方は、茶の道にも通じるそうです。 
「客が来るのを待つ。お茶がたつのを待つ。そこで訪れる偶然を(客と)一緒に待つ。そうすることで、一座の連帯感や人間関係が、より深まっていくのではないでしょうか」


■佐藤康光(将棋棋士) 2013年5月29日(水)放送
1969年京都府生まれ。82年、田中魁秀九段門で奨励会入会。87年四段、プロ棋士となる。93年、羽生善治竜王を破り初タイトルの竜王位を獲得。以後、名人2期、棋王2期、棋聖6期、王将2期と、あわせて13期のタイトルを獲得している。98年九段。2006年度、棋聖通算5期獲得により永世棋聖の称号を得る。天才肌の棋士が多いという「羽生世代」の1人。「1秒間に1億3手読む」とも言われ、「緻密流」と呼ばれる。趣味はバイオリンとゴルフ。 
敗者の条件
会田雄次 著(中公文庫)
《お薦めの理由》
「敗者の条件」。西洋史の専門家である会田雄次氏が、歴史の大勝負に負けた人物たちを丹念に追った一冊です。勝負の世界に生きる佐藤九段が、なぜ負けた人たちの物語に興味を持ったのでしょうか?
「(名人位など)タイトルを何回もとっているが、将棋界で時代を作るような"ナンバーワン"になったことはない。何か欠けている部分が自分の中にあると感じて」「読むと、勝負という観点で『なるほど』と思わせるところがたくさんあった」
本に登場するのは、日本の戦国時代と西欧ルネサンス期の歴史上の人物。多くが非業の死を遂げます。特に佐藤九段の心に残るのは、イタリアの僧侶サヴォナローラ。一時、フィレンツェを政治的に支配したサヴォナローラは、敵が仕掛けた勝負に一瞬ひるんだことをきっかけに、処刑されてしまいます。
「弱い人間は、いざというときにたじろいでしまう」「安全に勝ちたいとか、大事に行こうと思ってしまうことで、大きな勝負に負けてしまった経験もある」
勝負を決める一瞬に備え、心を鍛える。佐藤さんがこの本から学んだことです。
「土壇場に追い込まれたときに100%のベストを尽くせるかどうか。強い信念をもっていれば、克服できる」(佐藤さん談)



■川畠成道(バイオリニスト) 2013年5月15日(水)放送
(かわばたなりみち)
8歳のときにかかった病気が原因で、視力をほとんど失う。10歳でバイオリンを始め、桐朋学園大学を卒業後、英国に音楽留学。1997年、英国王立音楽院を首席で卒業。98年のデビュー以来、英国と日本を拠点にソリストとして精力的に活動している。99年のファーストアルバム「歌の翼に」と2000年の「アヴェ・マリア」はそれぞれ20万枚を売り上げ、クラシックとしては記録的な大ヒットとなる。最新作「川畠成道 クライスラーを弾く」(11年)を含め、11枚のアルバムをリリース。デビュー当初より積極的に国内外でチャリティコンサートを行う。中学音楽鑑賞教材や高校英語教科書に映像や文章が使用される等、社会派アーティストとしても多方面に影響を与えている。 
5月18日(土)午後には東京・千代田区の紀尾井ホールにて「グランドファミリーコンサート」を開催。
http://www.kawabatanarimichi.jp/info/info_130430.html
シャーロック・ホームズの帰還
コナン・ドイル 著 延原謙 訳(新潮文庫)
《お薦めの理由》
川畠さんが初めてシャーロック・ホームズシリーズに出会ったのは8歳のとき。突然の病で入院していたときに、母の麗子さんが病床で朗読し続けてくれたといいます。
「夢中になって聞いていました。たくさん読んでもらって、さらに好きになっていきました」
その後、プロを目指してイギリスに留学した川畠さん。慣れない土地での不安を支えたのも、シャーロック・ホームズでした。
「ロンドンの街に対する親しみが持てた。留学生活を支えてくれた一冊と言えるかもしれません」
たくさんのエピソードがあるシャーロック・ホームズのシリーズ。特に好きな部分は、普段は冷静沈着にきわめて鋭い推理を進めていくホームズが、気遣いや優しさなど、異なる一面を見せるときだそうです。
「粋というか、おしゃれというか」「ホームズのようになりたいというよりも、ワトスンになって、ホームズというキャラクターを間近で見ていたいです」



■紫舟(書家)2013年5月8日(水)放送
(ししゅう)6歳より書を始める。OL3年目で思い立って書家に「転職」。2001年に初の個展を開く。日本の伝統的な書を、色彩豊かな絵と組み合わせたり、最新のデジタル技術で表現したりするなど、型にとらわれない様々な発想で作品を発表し続け、海外からも高く評価される。主な作品にNHK大河ドラマ「龍馬伝」題字、経済産業省「Cool JAPAN」、伊勢神宮「祝御遷宮」など。 
一日一書
石川 九楊 著(二玄社)
《お薦めの理由》
紫舟さんが書家になったころに出会った、「一日一書」。
さまざまな時代に書かれた「書」を毎日ひとつ取り上げ、文字にまつわるコラムとともに紹介する本です。1年365日分の書が詰まっていてます。
「こんなに表現してもいいんだ、と。これもいいんだ、あれもいいんだ、と」
紹介される「書」は、字の意味や成り立ちを尊重しながらも、ときに自由奔放に、ときに荘厳に、表現力豊かに描かれます。
いまにも膨らみそうな「夢」や、目が回りそうな「雲」。楽しい夢を見ていそうな「眠」。
「いろいろな制約で自分自身を縛っていたのが、肩の荷が下りるような感じがしました」
この本を薦めたい人は「ものをつくっている方や、発想することを仕事にされている方」だそうです。
ものごとの成り立ちをしっかりと読み解いた上で、自由自在に表現する・・・ それは、優れたアイデアの発想に必須のプロセスなのかもしれません。
「読むと非常に力を貸してくれる本だと思っています」(紫舟さん談)



■JUJU さん(シンガー) 2013年4月17日(水)放送
ジャズシンガーを志し18歳で単身渡米。さまざまなジャンルの音楽に触れ独自の音楽性を築く。2004年『光の中へ』でメジャーデビュー。06年『奇跡を望むなら...』がロングヒットを記録し、07年度USEN年間総合チャート1位。12年、自身初のベストアルバム「BEST STORY ~Love stories~」「BEST STORY ~Life stories~」を2枚同時リリース、オリコンアルバム週間ランキング1位・2位を占める。13年2月から、全国33都市39公演、総動員約12万人に及ぶ全国ツアー「JUJU BEST STORY HALL & ARENA TOUR 2013」を開催中。
「天切り松 闇がたり」第一巻 闇の花道
浅田次郎 著(集英社文庫)
《お薦めの理由》
自ら「活字中毒」というほど本好きのシンガー、JUJUさん。常に手元に本がないと落ち着かないといいます。そんなJUJUさんが迷った末に選んだお薦めの一冊は、大正から昭和初期を舞台にした時代小説でした。主人公は、天井から鮮やかに忍び込むので「天切り松」というあだ名がついた、盗っ人です。
「粋だね!と思った。無粋な生き方をしちゃいけないなと」
粋でいなせな親分や兄弟子たち。天切り松の周りには、義理人情があふれています。中でもJUJUさんの心に響いたのは、「盗みは小手先でするもんじゃござんせん。心意気で盗るもんだ」との一節。
「小手先でするもんじゃない、というのは、すべてにつながると思った」「人付き合いも、私の歌も、小手先では喜ばれるものじゃない」とJUJUさん。
この本はどんな人にお薦めしたいですか?
「この本って、何か進むべき道を教えてくれる気がするんです。だから、最近悩みがちだとか、心の中がモヤモヤしているときに読むと、『あースッキリした!』ってなると思います(笑)」 



■三浦しをん さん(小説家) 2013年4月3日(水)放送
1976年生まれ。2000年「格闘する者に○」でデビュー。06年「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞を受賞。12年「舟を編む」で本屋大賞第1位、文芸書の年間ベストセラー第1位。小説はほかに「まほろ駅前番外地」「風が強く吹いている」「神去なあなあ日常」「小暮荘物語」などがある。「舟を編む」は映画化され、13年4月13日から全国でロードショー。
水の家族
丸山健二 著(求龍堂)
《お薦めの理由》
「水の家族」(丸山健二著)は、30歳を目前に死んでしまった主人公が、雨粒や鳥のふんなどに化けて生まれ故郷をさまよう、不思議な小説です。一行の詩と、数行の散文で構成され、独特のリズムが読む者を引き付けます。
「文章がすごく美しいし、力強い」と語る三浦さん。「まず最初に語り手が死んでしまうというのも面白いし引きがある」
主人公の「私」は故郷をさまよいながら、命や人間について考えます。死んだあとの精神の成長を描いたともいえる物語。最後のクライマックスで激しく紡がれていく言葉に「ぞくぞくする、キターって感じ!」と、三浦さんは何度読んでも感嘆するといいます。「小説が持っている力を実感できる」本だそうです。
三浦さんがこの小説と出会ったのは中学生のとき。「ものごとは意味と無意味で分類できるものじゃないんだということが、すごくストンと腑に落ちた」「ものの見方を示してくれた作品です」 






■大西 洋(三越伊勢丹ホールディングス 社長)2013年3月20日(水)放送
(おおにし・ひろし)1955年東京都生まれ。79年慶大商卒、伊勢丹(現三越伊勢丹)入社。紳士服畑が長く、2003年に開業した伊勢丹新宿本店メンズ館の立ち上げにもかかわった。09年伊勢丹社長、11年三越と伊勢丹の合併と同時に三越伊勢丹社長。12年2月より現職。
 
禅が教えてくれる 美しい人をつくる「所作」の基本
枡野俊明 著(幻冬舎)
《お薦めの理由》
この本では、禅僧でもある著者が禅の教えをもとに「美しく生きる」ための方法を分かりやすく著しています。禅では「行住坐臥(ぎょうじゅうざが)」すべてが修業。心を整えるためには、まず自らの「所作」つまり日常の立ち居振る舞いを整えなければなりません。
国内最大の百貨店グループのトップに立つ大西社長は、その誠実な人柄や仕事ぶりで多くの人々の信頼を得て今の地位に立ったとも言われます。そんな大西さんがずっと大切にしてきたのは「人の心」。ところがこの本は「心」の中身を考えるよりも、まずは外から見える形を整えることが大切だと説きます。
「ハッとするところがありました」と大西さん。
所作が生み出す美しさが、最終的には内面的なものになっていく。立ち居振る舞いのひとつひとつを整えることが、客への本当の「おもてなし」にもつながる。この本に触れて、大西さんはそんな風に思うようになったそうです。
「おもてなしの心は、内面的なものと所作の両方が一致して、初めて相手に伝わります」「お客様をお待ちするときに、常に私どもは右手を左手の上に置いています。右手はお客様。左手の自分たちは常にお客様を支え、お客様のためにいるんだ、と。」(大西さん談)





■安部龍太郎さん(作家) 2013年2月20日(水)放送
安土桃山時代の絵師、長谷川等伯の波乱と求道の人生を描いた「等伯」で第148回直木賞を受賞。1955年福岡県生まれ。国立久留米高専卒。東京都大田区役所職員などを経て2000年「血の日本史」でデビュー。05年「天馬、翔ける」で中山義秀文学賞。ほかに「信長燃ゆ」「関ケ原連判状」「天下布武」「恋七夜」など著書多数。
 annex ~『直木賞作家が薦める本』 ~
「花見ぬひまの」
諸田玲子著(中央公論新社)
《お薦めの理由》
「花見ぬひまの」は、数々の時代小説を手掛けてきた諸田玲子さんの短編集。激動の幕末に、密かに恋の花を咲かせ激しく生きた女たちを描きます。
高杉晋作とその愛人をかくまった尼僧の野村望東尼や、女流俳人の田捨女・・・実在の人物と、恋と、仏の教えとが織りなす彩り豊かな物語。安部龍太郎さんはこの短編集が諸田さんの「新たな境地だ」と高く評価します。
「恋は普遍的で、仏教もある程度普遍的なもので」「(登場する女性たちが)仏教の教えがふっと胸に落ちるのは、激しい恋をしているからなんですね」
この本を薦めたい人は?
「この世の中で生きているのに、恋を忘れた人でしょうかね」



■ジェームス三木さん(脚本家) 2012年12月26日(水)放送
1935年、旧満州奉天(瀋陽)生まれ。55年テイチク新人コンクールに合格、歌手デビュー。67年「月刊シナリオ」のコンクールに入選。野村芳太郎監督に師事、脚本家となる。85年放送のNHK連続テレビ小説「澪つくし」で第7回日本文芸大賞脚本賞、87年放送のNHK大河ドラマ「独眼竜政宗」でプロデューサー協会特別賞受賞。99年に第50回NHK放送文化賞。舞台演出や小説、エッセイなども手がける。テレビ東京新春ワイド時代劇「白虎隊~敗れざる者たち」(2013年1月2日夕方5時から放送)の脚本を執筆。
 annex ~『ドラマのネタにしたい本』 ~
「病気の日本近代史 幕末から平成まで」
秦郁彦著(文藝春秋)
《お薦めの理由》
数々の人間ドラマを描き、ヒット作を生み出してきた脚本家のジェームス三木さん。選んだ本は「病気の日本近代史」(秦郁彦著)でした。著名な歴史学者の秦郁彦さんが、幕末から平成まで、日本人が戦ってきた病気の歴史をひもときます。この本には「ドラマのネタみたいなものがいっぱいある」とジェームス三木さんは語ります。
心の病に悩んできた数多くの著名な日本人たち。夏目漱石、太宰治などの名前が並びます。特にジェームス三木さんの心をとらえたのは「芦原将軍」。明治を生きた誇大妄想患者の芦原金次郎は、自分を将軍と信じ、病院の中でも将軍の格好をして、なんと周りからも将軍のように扱われたといいます。
芦原将軍を「ドラマにしたいと思った」というジェームス三木さん。「この世の中に、自分は将軍だと思っている人はいっぱいいる。『自分は正しい、自分は間違っていない』と」「(心の病には)誰でもなり得る」と語ります。
さらに、この本には「考えて読む」楽しみがあると言います。「(病気に対する)考え方がちょっと変わる。考える楽しみがある」「喜怒哀楽のうち一番大切なのは『楽』、楽しみだと思う。どんな本を読んでも自分でそれを感じるかどうか、自分の中で『楽しみの種』を植えられるかどうかが大事」




 
■佐々木則夫さん(サッカー 日本女子代表監督)2012年12月12日(水)放送
1958年山形県生まれ。NTT関東サッカー部でMFとして活躍。98年大宮アルディージャ監督。2006年にサッカー日本女子代表コーチ、翌年監督に就任。08年の北京五輪で4位入賞、11年FIFA女子ワールドカップで優勝を果たした。12年ロンドン五輪で銀メダルを獲得。11年のFIFA女子年間最優秀監督賞受賞。
 annex ~『僕自身まだまだ小僧』 ~
「人生生涯小僧のこころ」
塩沼亮潤著(致知出版社)
《お薦めの理由》
なでしこジャパン監督として4年間チームを率いた佐々木則夫さん。ロンドン五輪が終わったあと、実は女子サッカーの監督を辞めるつもりだったと言います。「この4年間、精一杯やった」と思っていた佐々木監督の考えを変えたのは、塩沼亮潤さんの著書「人生生涯小僧のこころ」でした。
僧侶の塩沼さんが挑んだ「千日回峰行」。往復48キロの山道を、毎日16時間かけて歩く・・・これを千日、およそ9年間毎日続ける修行です。塩沼さんは、人生という試合の相手は『自分自身です』と言い切ります。「(女子サッカーから)逃げていたのかもしれない。この本を読んで、『僕も次に戦うのはまた自分自身だ』と再確認した」(佐々木監督)
本の題名にもなっている「人生生涯小僧のこころ」という言葉は、塩沼さんが行を終える1日前に記した言葉です。小僧のように、謙虚な気持ちであり続けたい...。
「僕自身も女子サッカーにとってはまだ小僧じゃないか、という気持ちになった」「そのとき、最初に監督を引き受けたときと同じ気持ちになれると自分で確認できた。それで(続投を)引き受けた」
そんな佐々木監督は、「まだまだ僕自身、修行中ですよ」と、笑いながら語るのでした。




■小林武史さん(音楽プロデューサー) 2012年4月4日(水)放送
今年デビュー20年を迎える人気ロックバンドMr.Childrenをプロデュース。この20年を振り返って小林さんは「本当に紆余曲折があって、僕とぶつかったりすることも色んな段階ではありました。今は本当にぶれることなく、ただ本当に楽しいだけでやれているようなところがあります」と話す。小林さんは、このほか小泉今日子やサザンオールスターズ、My Little Loverをプロデュースしてきた。一方で農業に強い関心を持ち、農業生産法人やレストランを運営し、食もプロデュースする。
 「annex ~「贈る」が未来を変える~」
 「日本の文脈」
内田樹、中沢新一(角川書店)
《お薦めの理由》
小林さんは、著者の中沢さんからこの本をもらったという。大震災と原発事故の後に日本人はどう生きるか、日本の未来はどうなるのか、日本を代表する2人の思想家の対談を通じて考える一冊。この本の中で、日本の未来を読み解くキーワードが「贈与」。誰かに何かをしたい、届けたいという思い(贈与)が日本の社会と経済を変え始めているという。
「おたがいのあいだに『贈与』の原理にもとづく人間関係を生み出したいという気持ちが、わきあがり始めている。地域の活力を高めて、いまよりも幸福感の高い社会をつくるためには、経済のかたちを変えていかなければならないという考えに、いままでになかったようなリアリティが生まれ始めている。危機のさなかに、かすかな光が見え始めてもいるのだ」(日本の文脈より)
小林さんは「見返りからは始まらない。『届くといいな』と思って僕らも頑張るわけだし。大震災の後に、この国の人たちも『届ける』という思いが強くなった。しかも贈るというのは何か自分に返ってくるものがある、上手く言えないけれど」という。


■石井正さん(外科医) 2012年3月14日(水)放送
石巻赤十字病院で災害救護の責任者を務めるとともに、東日本大震災の1ヵ月前に宮城県の災害医療コーディネーターに就任。大震災で石巻市は4000人近い死者と行方不明者を出し、行政とほとんどの医療機関が機能麻痺に陥った。石井さんは全国から支援に駆けつけた医療チームによる「合同救護チーム」を作ることを決断。震災後の極限状況の中で、地域の22万人の命を守るため、この「合同救護チーム」を指揮した。その奮闘の記録を「今後の減災のために役立てて欲しい」と、先月「石巻災害医療の全記録」(講談社)として出版した。
 annex ~指揮官の心得~
「竜馬がゆく」
司馬遼太郎(文春文庫)
《お薦めの理由》
幕末の動乱の中で、薩長連合と大政奉還を成し遂げた坂本竜馬の一生を生き生きと描いた、司馬遼太郎の長編小説。石井さんは中学時代に初めて読んだという。
「竜馬は、議論しない。議論などは、よほど重大なときでないかぎり、してはならぬ、と自分に言い聞かせている。もし議論に勝ったとせよ。相手の名誉をうばうだけのことである。」(「竜馬がゆく」より)
石井さんが指揮した「合同救護チーム」には、立場も意見も違う関係者が集まっていた。多くの被災者を救うためにどう組織を動かすか。そのときに思い出したのが「竜馬は議論しない」という一節だった。「『すべき論』とか『役所がやるべき』とか理屈をこねてもしょうがないので、あんまり相手を理屈で打ち負かさないで、『そこはなんとか』という方向で持っていったほうが、結局みんながwinwinになる。物事が動いていく」(石井さん)
また、大政奉還をめぐって「武力行使しかない」と主張する中岡慎太郎に対し、竜馬が「しかない、はない。人より一尺高く物事を見れば道は常にいくつもある」と答える部分にも石井さんは影響を受けたという。危機の中、指揮官として「俯瞰して物事を見るようにしていた」と石井さんは話す。