侵襲性カンジダ症の総説
NEJM 2015; 373: 1445-1456
疫学
侵襲性カンジダ症はカンジダ血症と深部組織のカンジダ症からなる。侵襲性カンジダ症は抗真菌薬を使用した場合でも死亡率は 40%(!)である。
中心静脈栄養、術後(特に腹部手術で縫合不全がある場合)、広域抗菌薬使用はカンジダ血症のリスクである。
侵襲性カンジダ症はほとんどの場合はカンジダ血症として見つかるが、深部組織の局所感染(骨、筋肉、関節、眼、中枢神経系)が先行することもある。
かつては原因菌のほとんどは Candida albicans だったが、最近は半数程度である。C. galabrata は北部ヨーロッパ、北米に分布し、C. palapsilosis は南部ヨーロッパ、アジア、南米に分布している。菌株によって抗真菌薬への感受性が異なるので、今後地域毎にガイドラインの推奨が変わってくる可能性がある。
C. albicans、C. tropicalis、C. glabrata は病原性が高く、C. parapsilosis、C. krusei は病原性が低い。C. parapsilosis は医療機器や皮膚に定着しやすいので、院内アウトブレイクを引き起こすことがある。
診断
侵襲性カンジダ症の診断に利用できる手段としては、通常無菌の検体からの培養、代理マーカー(β-D-グルカン、カンジダマンナン抗原、カンジダマンナン抗体)、PCR がある。いずれも完璧ではないので、検査を組み合わせて診断の確からしさを確認する。
血液培養は感受性を確認できる唯一の検査だが、剖検による検討では感度は 21-71%と高くない。血行感染による深部組織カンジダ症の場合、血液培養が陰性であることが多い。
血液培養が陽性になるまでには時間がかかり、陽性が確認された時点ですでに手遅れということは多い。血液培養陽性を確認した時点で直ちに抗真菌薬投与を開始し、遠隔病巣の検索を行う。
代理マーカーの有用性については一定の見解はない。β-D-グルカンはコンタミネーションで疑陽性になるので、特異度は高くない。特に侵襲性カンジダ症の可能性が高い患者ではコンタミネーションの可能性は高くなる。β-D-グルカンについては、陰性的中率の方が利用価値がある。侵襲性カンジダ症の可能性が低~中等度の患者で、侵襲性カンジダ症を除外する目的で使用するのが良いかもしれない。
院内 PCR については妥当性や標準化が十分に検討されていない。血液培養陰性の深部組織カンジダ症の診断に対しては感度 89%だったという報告がある。
コマーシャルで利用できる PCR は 2015年の時点で、Septifast と T2Candida Panel がある。後者については1件の臨床試験で有用だったと報告されている。
抗真菌薬
フルコナゾール、バリコナゾール、カスポファンギンはアムホテリシンB に対して効果は非劣性で、毒性と治療中断が少なかった。そのため、アムホテリシンB の使用頻度は減った。ミカファンギンはカスポファンギン、アムホテリシンB と効果は同等であることが二つの臨床試験で示されている。
アニデュラファンギンとフルコナゾールの治療効果を比較したランダム化比較では、アニデュラファンギンの非劣性を検討するためのデザインではあったが、治療効果(overall responce) はアニデュラファンギンの方が優位に高かった(76% vs 60%, P = 0.01)。アニデュラファンギンの治療効果は C. albicans で特に高く、同種は一般にフルコナゾールに感受性であるにも関わらず、アニデュラファンギンは明らかに治療効果が高かった(81% vs 62%, P = 0.02)。しかし、1件のランダム化比較試験の結果をもって、エヒノキャンディンの治療効果はアゾールに勝ると結論付けて良いかについては真菌学者の間でも意見が別れている。
7件のランダム化比較試験の患者データを統合した観察研究では、エヒノキャンディンで治療した患者はトリアゾールまたはアムホテリシンB で治療した患者と比較して 30日後の死亡率が低かった。死亡率の低減効果は C. albicans と C. glabrata で特に大きかった。死亡率低減効果は APACHE II スコアで四分位の最高位以外で認めたので、重症患者のみに認めるわけではないと考えられた。さらに同研究では、カテーテルを抜去した方が死亡率が低減することが示された。
コホート研究の結果から、C. Parapsilosis に対してもエヒノキャンディンの治療効果が良好だったことについては注意が必要である。同種は薬剤感受性試験ではエヒノキャンディンに対して耐性であるが、臨床的には感受性のようである。
以上の結果からは初期治療としてはエヒノキャンディンが妥当だろうと考えられる。しかし、全身状態が良好な患者では、初期治療としてフルコナゾールを使用しても良いと考える専門家もいる。
カンジダによる髄膜炎、眼内炎、尿路感染症ではエヒノキャンディンの移行性が悪いので、これらの場合はトリアゾールを選択するのは妥当かもしれない。
治療期間
侵襲性カンジダ症の治療期間やエヒノキャンディンからアゾールへの切り替え時期については十分な検討がなされていない。
エヒノキャンディンはアゾールよりも死亡率の低減効果が高いと考えられているので、エヒノキャンディンからアゾールへの切り替えは同定された種や薬剤感受性の結果よりも全身状態に基づいて判断されるべきだろう。
最近の第 IV 相臨床試験では、全身状態が落ち着いていて、血液培養の陰性化していて、アゾール耐性が疑われない状況では最短 5 日でエヒノキャンディンからアゾールへの切り替えを行うレジメンが採用されている。10日後以降に切り替えた場合と死亡率には差はなさそうではあるが、ランダム化比較試験で両レジメンの死亡率を比較していないので、正確には分からない。
予防的治療
侵襲性カンジダ症の死亡率の高さを考えると、集中治療室に入室中の患者に予防的に抗真菌薬を投与するという戦略は一考に値する。しかし、限られた状況の患者を除いては抗真菌薬の予防的投与の利益は示されていない。
腹部手術後で腸管縫合不全の患者、腸管穿孔を繰り返している患者ではフルコナゾールの予防的投与は有効だったと報告されている。しかし、抗真菌薬の予防投与はカンジダ血症の発生を 50%低下させるが、死亡率の低下は示されていない。
集中治療室入室中の患者で臨床スコアからカンジダ血症のリスクが高いと判断された患者に対し、予防的にカスポファンギンまたは偽薬を投与し、カンジダ血症(β-D-グルカン濃度または血液培養で判定)の発生率を比較したランダム化比較試験では、カンジダ血症の発生率、死亡率、抗真菌薬の使用期間、入院期間に有意差を認めなかった。
現時点では、抗真菌薬の予防投与は利益が示されている患者集団、すなわち腸管の縫合不全の患者、膵臓または小腸の移植患者、肝移植患者で特にカンジダ血症のリスクが高い患者、超低体重児でカンジダ血症のリスクが高い場合に限るべきだろう。
カテーテルの抜去
カンジダ血症は中心静脈カテーテルを抜去した場合としなかった場合の転帰を比較したランダム化比較試験はないし、今後も行われないだろう。後ろ向き観察研究の結果は一致していない。
7件のランダム化比較試験のプール患者についての多変量解析ではエヒノキャンディンの使用とカテーテルの抜去が死亡率の低下と相関していた。しかし、そもそも全身状態が悪い患者で中心静脈カテーテルを抜去するという判断はしづらいので、カテーテルの抜去と死亡との関係についてはバイアスを免れない。
現時点では、全身状態が許すなら中心静脈カテーテルを抜去する方が良さそうに見える。
耐性株
抗真菌薬への耐性は 1. もともと耐性の株が優勢になる、2. もともとは感受性の株が耐性を獲得するのいずれかによって起こる。
前者は一般的であり、フルコナゾールを使用するようになってから、Candida glabrata をよく認めるようになった。またエヒノキャンディンを使用するようになってから、Candida parapsilosis が増えた。
後者は近年報告が増えている。三次医療機関での検討では検出された Candida glabrata の数%でエヒノキャンディンに耐性だったという報告がある。
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMra1315399