内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/25

2022-01-25 07:43:51 | 日記
重症低ナトリウム血症についての総説
Clin J Am Soc Nephrol 2018; 13: 641-649

血清 Na 120 mEq/L 以下の重症低ナトリウム血症の治療については、欧州と米国との間で四半世紀以上見解が一致していない。

現在、血清 Na 100 mEq/L の重症低ナトリウム血症患者の血清 Na を補正する場合、128 mEq/L まで 6日以上かけて補正することが多いだろう。これは1980年代に行われていた補正の 10倍以上の時間をかけている。しかし、この医学的根拠は確固たるものではない。

他の電解質異常と同様に低ナトリウム血症の治療についてはランダム化比較試験が行われておらず、現行のガイドラインは生理学、動物実験、観察研究、症例報告に基づいている。

動物実験の結果から、症候性低ナトリウム血症は急性(発症48時間未満)と慢性(発症48時間以上)で治療方針が異なると考えられる。

数時間の経過で血清 Na 120 mEq/L 以下に低下させると脳浮腫が起こる。脳ヘルニアに至った場合は死の危険がある。臨床的には、精神疾患や激しい運動時の多量の飲水、「エクスタシー」の使用、手術時に多量の低張液を輸液した場合に起こり得る。この場合には、高張液で急速に血清 Na を上昇させることで、脳浮腫を改善させ、脳ヘルニアを予防することが期待できる。

脳は浸透圧の変動に適応する仕組みを備えており、浸透圧が低下すると速やかに電解質を細胞外に排出し、有機浸透物質を 24-48時間かけて排出する。一方、有機浸透物質の再吸収は一週間程度の時間がかかるので、低浸透圧に適応した脳は急激な浸透圧の上昇には適応できない。

発症から24時間未満の重症低ナトリウム血症では急速な浸透圧上昇に耐えられるが、発症から3日以上経過している場合は浸透圧の変動により脱髄を来たし得る。

急速に浸透圧を上昇させた場合、12時間以内に浸透圧を下げれば脱髄を回避することができる。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29295830/

2022/01/24

2022-01-24 11:33:50 | 日記
代替塩の脳卒中発症リスクの抑制効果を検討した非盲検クラスターランダム化比較試験 (SSaSS)
NEJM 2021; 385: 1067-1077

中国の農村に住む脳卒中の既往あり、または 60歳以上の高血圧症患者 (降圧薬内服下で収縮期血圧 140 mmHg 以上) が対象。村を介入群または対照群に 1:1 の比率で割り付けし、介入群には代替塩 (重量比で 75%塩化ナトリウム、25%塩化カリウム) を使用させ、対照群にはふつうの塩 (100%塩化ナトリウム) を使用させた。

主要評価項目は脳卒中の罹患率、二次評価項目は複合心血管イベント (非致死性急性冠症候群、非致死性脳卒中、心血管死) の罹患率および死亡率とした。

被験者の平均年齢は 65.4 歳で、72.6%に脳梗塞、88.4% に高血圧症の既往があった。

平均 4.74 年の観察期間で、代替塩使用群では脳卒中、心血管イベント、死亡の発生が有意に低下した (それぞれ HR 0.86, 95%CI 0.77-0.96; p = 0.006, HR 0.87, 95%CI 0.80-0.94; p 0.001未満, HR 0.88, 95%CI 0.82-0.95; p 0.001未満)。高カリウム血症に起因する有害事象は有意な増加を認めなかった (HR 1.04, 95%CI 0.80-1.37, p = 0.76)。

5 年弱の観察期間で、脳卒中を 14%、心血管イベントを 13%、死亡を 12%減らすのはかなりインパクトがある結果だろう。カリウムを多く含むので、腎不全患者には勧められないが、脳卒中や虚血性心疾患のリスクが高い高血圧症患者には代替塩の使用を勧めても良いかもしれない。

日本で販売されている代替塩としては、味の素の「やさしお」がある。350 g で 600円程度と塩をしては高価 (天然塩は 1 kg 400-500円) だが、臨床的な効果を考えると費用対効果は悪くないかもしれない。

本臨床試験で行った 24時間蓄尿検査の結果では、代替塩の使用によってナトリウム排泄量は 15.21 mmoL (350 mg) 減少し、カリウム排泄量は 20.64 mmoL (805 mg)増えた。

最近の尿ナトリウム排泄量および尿カリウム排泄量と心血管イベントとの関連を検討したメタ分析 (NEJM 2022; 386: 252-263) によると、尿ナトリウム排泄量 1000 mg 増加あたりの心血管イベント発症のリスク比が 1.18 (95%CI 1.08-1.29) であるのに対し、尿カリウム排泄量 1000 mg 増加あたりの心血管イベントのリスク比は 0.82 (95%CI 0.72-0.94) だった。

この結果から考えると、今回確認された脳卒中、心血管イベント、死亡の抑制効果は減塩以上にカリウム補充によるところが大きいと推測される。

800 mg のカリウムは食品ではバナナ2本強、ほうれん草一束弱、昆布 10 g 程度に含まれる。野菜や果物を積極的に摂取するのも良いだろうが、昆布でしっかりだしをとるようにすると、塩の使用量も減らせるので良いかもしれない。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2105675

やさしお
https://www.ajinomoto.co.jp/yasashio/

尿ナトリウム排泄量および尿カリウム排泄量と心血管イベントとの関連を検討したメタ分析
https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2109794

食品のカリウム含有量
https://www.lotte.co.jp/medipalette/2113/

2022/01/23

2022-01-23 06:21:47 | 日記
米国感染症学会によるカンジダ症の治療ガイドライン
Clin Infect Dis 2016; 15: e1-e50

好中球減少症ではないカンジダ血症の治療についての推奨

初期治療はエヒノキャンディン(カスポファンギン初回 70 mg 投与後 50 mg/日、ミカファンギン 100 mg/日、アニデュラファンギン 初回 200 mg 投与後 100 mg/日) (強く推奨、エビデンス高)。

2.
全身状態が安定していて、フルコナゾール耐性カンジダが疑われない場合は、初期治療としてフルコナゾール 初回 800 mg 投与後 400 mg/日 静脈注射または経口で開始しても良い(強く推奨、エビデンス高)。

4.
エヒノキャンディンからアゾールへの変更は治療開始から 5-7日後で、全身状態が安定していて、アゾールに感受性の株(Candida albicans など) であり、血液培養が陰性化している場合に検討する(強く推奨、エビデンス中等度)。

10.
カンジダ血症と診断されてから1週間以内に眼科で眼内感染症の検索を行え(強く推奨、エビデンス低)。

11.
カンジダ血症と診断したら、血液培養が陰性化した時期を同定するために、毎日あるいは一日置きに血液培養をくり返せ(強く推奨、エビデンス低)。

12.
遠隔病巣がないカンジダ血症の治療期間は、カンジダ血症による症状を認めず、血液培養陰性化を確認してから2週間が経過するまで(強く推奨、エビデンス中等度)。


慢性播種性(肝脾)カンジダ症の治療についての推奨

24.
初期治療としてアムホテリシンB 3-5 mg/日またはエヒノキャンディン(カスポファンギン 初回 70 mg 投与後 50 mg/日、ミカファンギン 100 mg/日、アニデュラファンギン 初回 200 mg 投与後 100 mg/日) を数週間続ける。フルコナゾール耐性株が疑わしくなければ、初期治療後にフルコナゾール 400 mg/日を継続する(強く推奨、エビデンス弱)。

25.
治療期間は通常数ヵ月。画像検査を再検し、病変が消失するまで抗真菌薬投与を続ける。治療を早期に中断するとしばしば再燃する(強く推奨、エビデンス低)。


カンジダ眼内症についての推奨

82.
好中球減少症ではないカンジダ血症患者では診断後1週間以内に眼科に眼底検査をしてもらえ(強く推奨、エビデンス低)。


硝子体炎をともなわないカンジダ網脈絡膜炎の治療についての推奨

85.
フルコナゾールに感受性の株であれば、フルコナゾール 初回 800 mg 投与後 400-800 mg/日で治療する(強く推奨、エビデンス低)。

86.
フルコナゾールに耐性の株の場合は、アムホテリシンB脂質製剤 3-5 mg/kg/日±フルシトシン 25 mg/kg 1日4回で治療する(強く推奨、エビデンス低)。

87.
病変が黄斑に及んでいる場合は、上記治療に加えてアムホテリシンB デオキシコール酸 5-10 mcg またはバリコナゾール 100 mcg を蒸留水 0.1 mL に溶解して眼内注射する(強く推奨、エビデンス低)。

88.
治療は 4-6週間は続ける。治療終了時期は眼科医が眼底検査で病変を認めなくなった時点で決める(強く推奨、エビデンス低) 。

83.
眼科医には網脈絡膜炎なのか、黄斑に病変があるのか、硝子体炎があるのか診てもらえ(強く推奨、エビデンス低)。

84.
眼内炎を抗真菌薬だけで治療するのか、硝子体手術を行うのか、感染症科と眼科でよく相談しろ(強く推奨、エビデンス低)。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4725385/

2022/01/22

2022-01-22 06:12:12 | 日記
侵襲性カンジダ症の総説
NEJM 2015; 373: 1445-1456

疫学

侵襲性カンジダ症はカンジダ血症と深部組織のカンジダ症からなる。侵襲性カンジダ症は抗真菌薬を使用した場合でも死亡率は 40%(!)である。

中心静脈栄養、術後(特に腹部手術で縫合不全がある場合)、広域抗菌薬使用はカンジダ血症のリスクである。

侵襲性カンジダ症はほとんどの場合はカンジダ血症として見つかるが、深部組織の局所感染(骨、筋肉、関節、眼、中枢神経系)が先行することもある。

かつては原因菌のほとんどは Candida albicans だったが、最近は半数程度である。C. galabrata は北部ヨーロッパ、北米に分布し、C. palapsilosis は南部ヨーロッパ、アジア、南米に分布している。菌株によって抗真菌薬への感受性が異なるので、今後地域毎にガイドラインの推奨が変わってくる可能性がある。

C. albicans、C. tropicalis、C. glabrata は病原性が高く、C. parapsilosis、C. krusei は病原性が低い。C. parapsilosis は医療機器や皮膚に定着しやすいので、院内アウトブレイクを引き起こすことがある。


診断

侵襲性カンジダ症の診断に利用できる手段としては、通常無菌の検体からの培養、代理マーカー(β-D-グルカン、カンジダマンナン抗原、カンジダマンナン抗体)、PCR がある。いずれも完璧ではないので、検査を組み合わせて診断の確からしさを確認する。

血液培養は感受性を確認できる唯一の検査だが、剖検による検討では感度は 21-71%と高くない。血行感染による深部組織カンジダ症の場合、血液培養が陰性であることが多い。

血液培養が陽性になるまでには時間がかかり、陽性が確認された時点ですでに手遅れということは多い。血液培養陽性を確認した時点で直ちに抗真菌薬投与を開始し、遠隔病巣の検索を行う。

代理マーカーの有用性については一定の見解はない。β-D-グルカンはコンタミネーションで疑陽性になるので、特異度は高くない。特に侵襲性カンジダ症の可能性が高い患者ではコンタミネーションの可能性は高くなる。β-D-グルカンについては、陰性的中率の方が利用価値がある。侵襲性カンジダ症の可能性が低~中等度の患者で、侵襲性カンジダ症を除外する目的で使用するのが良いかもしれない。

院内 PCR については妥当性や標準化が十分に検討されていない。血液培養陰性の深部組織カンジダ症の診断に対しては感度 89%だったという報告がある。

コマーシャルで利用できる PCR は 2015年の時点で、Septifast と T2Candida Panel がある。後者については1件の臨床試験で有用だったと報告されている。


抗真菌薬

フルコナゾール、バリコナゾール、カスポファンギンはアムホテリシンB に対して効果は非劣性で、毒性と治療中断が少なかった。そのため、アムホテリシンB の使用頻度は減った。ミカファンギンはカスポファンギン、アムホテリシンB と効果は同等であることが二つの臨床試験で示されている。

アニデュラファンギンとフルコナゾールの治療効果を比較したランダム化比較では、アニデュラファンギンの非劣性を検討するためのデザインではあったが、治療効果(overall responce) はアニデュラファンギンの方が優位に高かった(76% vs 60%, P = 0.01)。アニデュラファンギンの治療効果は C. albicans で特に高く、同種は一般にフルコナゾールに感受性であるにも関わらず、アニデュラファンギンは明らかに治療効果が高かった(81% vs 62%, P = 0.02)。しかし、1件のランダム化比較試験の結果をもって、エヒノキャンディンの治療効果はアゾールに勝ると結論付けて良いかについては真菌学者の間でも意見が別れている。

7件のランダム化比較試験の患者データを統合した観察研究では、エヒノキャンディンで治療した患者はトリアゾールまたはアムホテリシンB で治療した患者と比較して 30日後の死亡率が低かった。死亡率の低減効果は C. albicans と C. glabrata で特に大きかった。死亡率低減効果は APACHE II スコアで四分位の最高位以外で認めたので、重症患者のみに認めるわけではないと考えられた。さらに同研究では、カテーテルを抜去した方が死亡率が低減することが示された。

コホート研究の結果から、C. Parapsilosis に対してもエヒノキャンディンの治療効果が良好だったことについては注意が必要である。同種は薬剤感受性試験ではエヒノキャンディンに対して耐性であるが、臨床的には感受性のようである。

以上の結果からは初期治療としてはエヒノキャンディンが妥当だろうと考えられる。しかし、全身状態が良好な患者では、初期治療としてフルコナゾールを使用しても良いと考える専門家もいる。

カンジダによる髄膜炎、眼内炎、尿路感染症ではエヒノキャンディンの移行性が悪いので、これらの場合はトリアゾールを選択するのは妥当かもしれない。


治療期間

侵襲性カンジダ症の治療期間やエヒノキャンディンからアゾールへの切り替え時期については十分な検討がなされていない。

エヒノキャンディンはアゾールよりも死亡率の低減効果が高いと考えられているので、エヒノキャンディンからアゾールへの切り替えは同定された種や薬剤感受性の結果よりも全身状態に基づいて判断されるべきだろう。

最近の第 IV 相臨床試験では、全身状態が落ち着いていて、血液培養の陰性化していて、アゾール耐性が疑われない状況では最短 5 日でエヒノキャンディンからアゾールへの切り替えを行うレジメンが採用されている。10日後以降に切り替えた場合と死亡率には差はなさそうではあるが、ランダム化比較試験で両レジメンの死亡率を比較していないので、正確には分からない。


予防的治療

侵襲性カンジダ症の死亡率の高さを考えると、集中治療室に入室中の患者に予防的に抗真菌薬を投与するという戦略は一考に値する。しかし、限られた状況の患者を除いては抗真菌薬の予防的投与の利益は示されていない。

腹部手術後で腸管縫合不全の患者、腸管穿孔を繰り返している患者ではフルコナゾールの予防的投与は有効だったと報告されている。しかし、抗真菌薬の予防投与はカンジダ血症の発生を 50%低下させるが、死亡率の低下は示されていない。

集中治療室入室中の患者で臨床スコアからカンジダ血症のリスクが高いと判断された患者に対し、予防的にカスポファンギンまたは偽薬を投与し、カンジダ血症(β-D-グルカン濃度または血液培養で判定)の発生率を比較したランダム化比較試験では、カンジダ血症の発生率、死亡率、抗真菌薬の使用期間、入院期間に有意差を認めなかった。

現時点では、抗真菌薬の予防投与は利益が示されている患者集団、すなわち腸管の縫合不全の患者、膵臓または小腸の移植患者、肝移植患者で特にカンジダ血症のリスクが高い患者、超低体重児でカンジダ血症のリスクが高い場合に限るべきだろう。


カテーテルの抜去

カンジダ血症は中心静脈カテーテルを抜去した場合としなかった場合の転帰を比較したランダム化比較試験はないし、今後も行われないだろう。後ろ向き観察研究の結果は一致していない。

7件のランダム化比較試験のプール患者についての多変量解析ではエヒノキャンディンの使用とカテーテルの抜去が死亡率の低下と相関していた。しかし、そもそも全身状態が悪い患者で中心静脈カテーテルを抜去するという判断はしづらいので、カテーテルの抜去と死亡との関係についてはバイアスを免れない。

現時点では、全身状態が許すなら中心静脈カテーテルを抜去する方が良さそうに見える。


耐性株

抗真菌薬への耐性は 1. もともと耐性の株が優勢になる、2. もともとは感受性の株が耐性を獲得するのいずれかによって起こる。

前者は一般的であり、フルコナゾールを使用するようになってから、Candida glabrata をよく認めるようになった。またエヒノキャンディンを使用するようになってから、Candida parapsilosis が増えた。

後者は近年報告が増えている。三次医療機関での検討では検出された Candida glabrata の数%でエヒノキャンディンに耐性だったという報告がある。

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMra1315399

2022/01/21

2022-01-21 08:31:56 | 日記
Staphylococcus hominis の分子遺伝学的検討
PLoS ONE 2013; 8: e61161

Staphylococcus hominis は compromised host の菌血症の原因として コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の中で3番目に多い。

血液培養から分離された Staphylococcus hominis 21株について、細菌学・分子遺伝学的解析を行った。その結果、48%の菌株はバイオフィルムを形成する能力が高く、81%は mecA 遺伝子(メチシリン耐性遺伝子)を持っていた。70%以上の株がアンピシリン、エリスロマイシン、トリメトプリルに耐性だった。

https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0061161