内分泌代謝内科 備忘録

内分泌代謝内科臨床に関する論文のまとめ

2022/01/20

2022-01-20 20:28:32 | 日記
糖尿病発症リスクについて、白人の BMI 30 kg/m2 に相当する BMI のカットオフ値を各人種で検討した前向きコホート研究
Lancet Diabetes Endocrinol 2021; 9: 419-426

英国の GP の診療記録から各人種 (白人、南アジア人、黒人、中国人、アラブ人) の糖尿病罹患率を計算した。対象は 18歳以上の糖尿病未発症の患者とした。

人種の構成は、白人 1333816人 (90.6%)、南アジア人 75956人(5.2%)、黒人 49349人(3.4%)、中国人 10934人(0.7%)、アラブ人 2762人(0.2%)。中央値 6.5年の観察期間で 97823人(6.6%) が糖尿病を発症した。

糖尿病の発症リスクについて、白人の BMI 30 kg/m2 に相当する BMI のカットオフ値は

南アジア人: 23.9 kg/m2 (95%CI 23.6-24.0)
黒人: 28.1 kg/m2 (95%CI 28.0-28.4)
中国人: 26.9 kg/m2 (95%CI 26.7-27.2)
アラブ人: 26.6 kg/m2 (95%CI 26.5-27.0)

だった。

https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(21)00088-7/fulltext

2022/01/19

2022-01-19 19:53:19 | 日記
胆管炎の総説
J Clin Transl Hepatol 2017; 28: 404-413

胆管炎は、1. 原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis: PSC)、2. 急性(細菌性)胆管炎(acute cholangitis: AC)、3. IgG4 関連胆管炎(IgG4 associated cholangitis: IAC)に分類される。

PSCは慢性かつ進行性の経過をたどり、胆管癌を合併することがある。またしばしば炎症性腸疾患を合併する。ACは胆管炎の原因としては最も多い。IACはしばしば膵炎を合併する。

胆管炎の治療において、胆管の画像検査(ERCP、MRCP、超音波内視鏡)と内視鏡による胆管ドレナージは中心的な役割を果たす。

PSC と AC に対しては抗菌薬治療が有効であり、IRC に対しては免疫抑制が有効である。手術は合併症が多いので、他の治療が失敗した場合に考慮する。


原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis: PSC)。

PSC は病理組織、臨床経過、治療への反応性、悪性腫瘍の発生率について不均一な病態を含んでいる。

一般には慢性進行性の経過をたどり、最終的には悪性腫瘍が生じることが多い。

近年罹患率は増加しており、北ヨーロッパでは 0.1/1000人・年である。北ヨーロッパでは圧倒的に男性が多い。あらゆる年代に発生するが、世界的に 30-70歳台での発生が多い。免疫系の異常が関与しているが、免疫抑制は有効ではない。胆管の炎症組織では制御性 T 細胞が減少しているので、免疫系の異常な活性化があるのかもしれない。

PSC 患者の 34-75% に炎症性腸疾患、特に潰瘍性大腸炎が合併する。腸内の細菌叢の異常が病態生理に関連するのではないかと考えられている。

喫煙は PSC のリスクを減らすようである。


IgG4 関連胆管炎(IgG4 associated cholangitis: IAC)。

IgG4 関連疾患として胆管炎はしばしば膵炎を合併する。高齢男性に多いが、小児でも認めることがある。

IACとPSCとはしばしば鑑別が問題になることがある。

IACはPSCよりも発症年齢が高く、膵炎を合併することが特徴である。また、IAC ではしばしば黄疸を認めるが、PSC では稀である。膵炎を合併しない場合も胆管膵管造影で膵管の狭窄を認めることがある。

血液検査では IACでは IgG4 が高値となるが、PSCでは IgM とアルブミンが高値になる。組織病理では、IACの方が細胞浸潤(リンパ球、形質細胞、好酸球)が目立ち、免疫抑制によく反応する。PSC では肝の線維化を認める。


急性胆管炎(acute cholangitis: AC)。

急性胆管炎の原因として最も多いのは総胆管結石。急性胆管炎の症状としてシャルコーの3徴(発熱、右季肋部痛、黄疸)やレイノーの5徴(シャルコーの3徴+意識障害、ショック)が知られている。

AC の診断と治療のガイドラインとして、Tokyo guideline 2013 (TG13) がある。TG13 では、臨床所見、血液所見、画像所見に基づいて診断する。また重症度(軽症、中等症、重症)に基づいて治療方針を決める。TG13 の AC の診断に対する感度は 87.6%、特異度は 77.7% と報告されている。


内視鏡的逆行性胆管膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography; ERCP)。

ERCP は胆管炎の画像診断のゴールドスタンダードである。PSC に合併する胆管癌の診断に対する感度は 97%、特異度は 65% と報告されている。胆管癌は ERCP では石灰化をともなう非対称性の胆管拡張が特徴的な所見である。

ERCP は胆管炎の治療法としても重要である。ERCPガイド下の胆管ステント挿入は胆管狭窄の治療のゴールドスタンダードである。

ERCP は入院後 24時間以内に行った方が良いと考えられている。ERCP 施行が遅れると胆管炎の再発が最大で 37%増加するという報告がある。一方で、入院後24時間以内、48時間以内、78時間以内に ERCP を行った場合の死亡率と入院期間は差がなかったという報告もある。

ERCP の合併症として膵炎が 1.2-4%、胆管炎が2-2.5%ある。


MR胆管膵管造影(magnetic resonance cholangiopancreatography; MRCP)。

MRCP は非侵襲的に肝内胆管、肝外胆管を観察できる点が長所である。コレステロール結石も識別できる。解像度も優れる。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5719198/

2022/01/18

2022-01-18 18:57:12 | 日記
左室駆出率が保たれた心不全 (HFpEF)に対するエンパグリフロジンの心不全入院の抑制効果を検討したプラセボ対照ランダム化比較試験 (EMPEROR-Preserved)
NEJM 2021; 385: 1451-1461

対象は左室駆出率 40%以上の心不全患者 6000人弱で、観察期間は中央値 26ヶ月。主要評価項目は心不全による入院と心血管死の複合イベントだが、実質的には心不全入院。エンパグリフロジン 10 mg 服用で、心不全入院が 27% 減った。

ディスカッションには、スピロノラクトン、カンデサルタン、サクビトリル-バルサルタンの臨床試験では、EF 40-49%の患者では効果がありそうな結果だったので、HFpEFの患者をEF 50%、60%で区切って、EF 40-50%の患者を多く組み込むように計画したと書いてある。

実際、データを見ると、EF 50%以上では HR が 1 をまたぐようになる。SGLT-2阻害薬だけでなく、スピロノラクトンや ARB、サクビトリル-バルサルタンでも EF 50%以下であれば心不全入院の予防効果があるのかもしれないし、EF 60%以上では SGLT-2 阻害薬でも心不全入院の予防効果はあまり期待できないのだろう。

https://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2107038

2022/01/17

2022-01-17 23:18:08 | 日記
Lancet のパーキンソン病の歩行障害についての動画教材。

病初期には腕の振りの左右差のみを認める。ある程度進行すると方向転換時の不安定さを認めるようになる。小刻み歩行やすくみ足、突進歩行、前傾姿勢はかなり進行しないと認めない。


2022/01/16

2022-01-16 07:47:14 | 日記
急性細菌性前立腺炎の総説
Am Fam Physician 2016; 93: 114-120

急性前立腺炎の診断はほとんどの場合は経過と身体所見に基づく。尿所見も参考になる。CT は必要ない。尿培養は必須。

多くの場合は外来で経口抗菌薬で治療できる。全身状態が悪い、自力で排尿できない、耐性菌のリスクがある場合は入院の上で広域抗菌薬静脈注射で治療する。

急性細菌性前立腺炎は市中感染が院内感染の3倍ある。臨床症状としては、排尿障害、頻尿、尿意切迫の他、尿路閉塞による症状として残尿感、尿勢低下がある。恥骨上や会陰部、直腸の疼痛、射精時や排便時の疼痛、精液への血液混入も来たし得る。

悪寒・発熱、嘔気・嘔吐などの全身症状を認めた場合は敗血症の診断基準を満たすかどうか確認する必要がある。

診察では、膀胱の尿貯留の有無を確認するために腹部を触診し、CVA叩打痛の有無を確認する。性器の視診を行い、直腸診を行う。あまり強く前立腺を触診すると菌血症の原因になり得るので、直腸診はやさしく行う。細菌性前立腺炎では、前立腺は軟らかく、腫大していて、ぶよぶよ(boggy)している。

経過と身体所見から細菌性前立腺炎を疑ったら、尿検査と尿培養を行う。体温38.4℃以上、血行感染の感染巣(黄色ブドウ球菌による心内膜炎など)が疑われる、敗血症の場合は血液培養も行う。35%以下の症例では、尿培養は陰性となる。

起炎菌で最も多いのは大腸菌。緑膿菌、腸球菌、クレブシエラ、エンテロコッカス、エンテロバクター、セラチア、プロテウスが次ぐ。性的に活動的な男性の場合は、淋菌やクラミジアが起炎菌になることがある。

治療方針は全身状態を評価して判断する。入院加療が必要になるケースは1/6 以下。外来治療に失敗した場合、敗血症が疑われる場合、経口接種できない場合、治療抵抗性が予想される場合(最近のレボフロキサシンの使用、最近の経尿道操作)は入院を検討する。

35歳未満または35歳以上で性的に活動的な男性では、淋菌とクラミジアをカバーする。耐性菌のリスクが高い患者では広域抗菌薬静脈注射で治療する。

抗菌薬治療は軽症であれば通常10-14日間(症状が残存する場合は追加で2週間)、重症では4週間。通常抗菌薬治療開始から36時間以内に解熱する。36時間後も発熱が続く場合は膿瘍の除外のために超音波検査を検討する。抗菌薬治療終了後1週間で尿培養を再検する。急性前立腺炎の13%が治療後に再燃し、11%で慢性前立腺炎に移行する。治療後も症状が持続する場合は尿培養を再検する。

合併症としては、尿閉が 10%、前立腺膿瘍が 2.7%で起こる。

https://www.aafp.org/afp/2016/0115/p114.html