赤痢騒ぎとＮ兄弟のこと・それにＭのことです。
１年半過ぎた夏のこと、伝染病の赤痢が学園で発生し、歯ブラシやコップ・食器類の煮沸消毒から全員の検便と部屋の消毒など、それはそれは大変な騒ぎを経験しました。
あげくに騒動が収まりかけた時に、私が疑似保菌者だと言うことで、三鷹の伝染病棟に隔離になってしまったのです。
当時、連れ合いと遠距離恋愛中でしたので、入院したことを事務室で聞き即大阪から駆けつけてきてくれました。
隔離病棟なのに恐れず見舞いに病室まで来てくれたのでした。
思いがけない顔を見て、驚いたのなんのって～
無謀な行為だけれど真剣な面持ちで心配してくれる彼に強い愛を感じたことは確かでした。
翌年の３月いっぱいで退職を決意しましたものね～
ちなみに結婚式は３月２８日でした
Ｎ兄弟のことと言うのは、双子の兄弟でそれは温和で行儀の良い色白のハンサムぞろい～
良いところの坊ちゃんと言う品のある兄弟でした～
低学年の頃から学園で生活していたのですが、中学卒業後は浅草に就職を決めていたのでした。
都立高校に進学すれば後３年間は学園で生活できるけれど決まりだから仕方ないし、まもなくお別れだね～と名残を惜しんでいる時に、父親だと名乗る男が学園にＮ兄弟の面会にやってきたのです。
素顔で来ればいいのに、合わす顔がないという遠慮からかお酒を飲んでいました。
ちょっと胡散臭い感じがするのですが、兄弟は父親が迎えに来たと聞くと、そこは子どもです。
長い事この瞬間を待ち焦がれていたのですから、すぐに面会の場面になりました。
「お父ちゃんが悪かった～
すまん～ 許してくれ～」と泣いて詫びられると兄弟はすっかり許し、父親と生活するからと言うことでまもなく学園を去っていきました。
浅草は住み込みでの就職でしたから、父親とは短い期間だったはずです～
夏休みが終わった頃だったでしょうか～？
二人が学園に帰ってきたのです。
父親が給料の前借をしてドロンを決め込み、働いても二人には何もお金が入らなかったそうで、住み込みだから食事や寝泊りは確保されていたけど、父の裏切りに再度遭ってしまい、肉親のひどい仕打ちに打ちのめされていました
学園での優等生ですから、みんなに慕われていましたし、みんな我がことのように哀しみに沈んでいたのですよ～
学園で暮らす子どもたちの肉親に対する情の深さは、計り知れないものがありました～～
小学４年のＳの叔母が北海道にいて、年に一回学園にお菓子類を宅急便で送って寄越します。
女子寮の仲間にお裾分けをして、みんなにも気前良く分けてあげるのですが、Ｓにはどうしても名残り惜しくって食べる気になれないようなんです。
個人のものをしまって置く場所が無いから、ベッドにおいておき、布団の下から乾燥して干からびたガムなどが出てくることがあり、肉親を思う情の深さを思い知らされていたのでした～
三つめのＭのことですが、退職する時に中２でした。
結婚してすぐに長男が授かったので、Ｍは３年になっていました。
だれか先生に住所を聞いたのでしょう～
お祝いの品を宅配便で贈ってくれたのです。
見ると極細の白の毛糸で編んだ靴下と帽子のセットでした
当時中学生のお小遣いは毎月３００円でしたから、毛糸を買うのにお小遣いを溜めて何ヶ月がまんをしたのでしょうねえ～
それを編んで仕上げるのに何ヶ月かかったのでしょう～？
あまりにも尊く貴重すぎて、いつまでも形見のように和服ダンスにしまってありました～
Ｍの真心を汚く汚してはいけないと思ったし、真っ白はＭの真心のように見えたのです。
その後礼状を出しただけで４０年が過ぎていますが、何のお返しも出来ていません。
母を無事に看取ってから関東に行き、ぜひ、学園を訪ねてみようと強く思っているのですよ～
その時の子どもたちの動向が分かれば一目会いたいと思います。
安否の確認が出来るだけでもうれしいなあと思っています。
大きな宝物を忘れてきてしまった感じなんです～
ここが私の教師の出発点でした～
明日に続く～
