トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

ミュージック・ビデオに見る米国倫理観

2009-01-04 20:20:14 | 音楽、TV、観劇
 若い頃、同じ洋楽ハードロックでも、重くて暗めのブリテッシュより底抜けに明るいアメリカンの方が好みだった。中でもお気に入りバンドはヴァン・ヘイレン。ボーカルが2代目サミー・ヘイガーに変わってからつまらなくなったが、デイブ・リー・ロスがいた頃は派手でよかった。個人的には、母がインドネシア系のため東洋的な風貌のエディ・ヴァン・ヘイレンが好きだったが、とかくデイブはビジュアル面で目立つ存在だった。ヴァン・ヘイレンのミュージック・ビデオで一番好きなのが『オー・プリティ・ウーマン』。便利なことにYou Tubeでも紹介されている。しかし、性的差別とかなり非難された映像でもあった。

『オー・プリティ・ウーマン』はヴァン・ヘイレンのオリジナルではなく、ロイ・オービソンの'64年発表曲のカバー。ヴァン・ヘイレンがカバーしたのが'82年で、これもヒットした。画像を見ると、鎧兜のサムライに扮したメンバーも登場、必勝と書かれた日の丸の鉢巻が裏返しに巻かれているのには笑えるが、ガンマンやターザン、ナポレオン姿のメンバーの映像は傑作であり、今You Tubeで見直しても楽しい。

 このビデオが女性差別とされたのは、手を縛られた美女の脚を2人の小人がやたら触りまくるからなのだ。当時、セクハラなる言葉こそなかったが、脚に触れ、ミニスカートの中に手を入れるのは悪ふざけだし、いささかそのシーンが長めなのは否めない。だが、最後にメンバーにより解放された美女は金髪のかつらを脱ぎ、実は男だったことが分る。悪人から美女を救出、というテーマは映画でも定番だが、捕われた女があわやという時に限り、ヒーローが現れる…というのもお決まりの筋書きである。“プリティ・ウーマン”が男だったとのオチで、むしろコメディに私は感じた。

 差別との非難に、デイブ・リー・ロスは演じているのは男なのに…とコメントしていた。いくらでも無名の女性タレントはいるのにも係らず、男を使ったのは予めその類の非難を予測していたからだろう。にも係らず、性差別の糾弾から免れなかった。デイブ・リー・ロスはソロアルバムで『カリフォルニア・ガールズ』(ビーチ・ボーイズのカバー)も歌っており、有難いことにこれもYou Tubeでプロモーション・ビデオが見られる。水着姿の金髪美人が大勢登場するという愉快な画像だが、これまた性差別と言われたのだから、分からなくなってくる。

 ならば、プロモ・ビデオに美女は出ず、バンドメンバー全員が女装すれば問題なしと思いきや、これまた違う。イギリスのロックバンド、クイーンの『I Want To Break Free』のビデオはメンバー全員女装で登場、当時話題となった作品。本国や日本ではお笑いとして見られたが、アメリカでは悪趣味と非難され、バンドの評判を落とす結果となった。バンドのドラマー、ロジャー・テイラーも「イギリス人は笑って見てくれたのに…」と困惑を表明している。彼のコメントを聞いた時、私はアメリカ人ってずいぶん頭が固いと思った。

 性には開放的なイメージのあるアメリカだが、その一方、清教徒的な厳格な性倫理が存在するのも事実である。保守的な地方では一部にせよ、黒人音楽のジャズを排斥、その要素を取り入れたロックを好ましからぬもの、と見る者も居るほど。こうして見ると、ミュージック・ビデオへの潔癖にちかいような倫理基準も、当然の帰結だろう。何しろ“正義”を国是とするお国柄だ。大統領とホワイトハウス実習生との不倫スキャンダルを、連日トップニュースで取り上げられた騒動も記憶に新しい。キリスト教圏でも国の指導者の性的問題を執拗に取り上げるのは、他にせいぜいイギリスくらいかもしれない。

 日本の元首相もファンのエルビス・プレスリーはアメリカを代表するロックミュージシャンだが、彼はアメリカ国内でPTAや宗教団体から激しい中傷や非難を浴びせられたこともあった。保守的な'50年代に黒人音楽を取り入れた曲を歌うだけで白眼視されがちだったが、さらに彼は歌唱中に腰を揺らすスタイルでひんしゅくを買った。現代はロック歌手が腰を振るのは珍しくもないが、当時は性行為を連想させると責められ、ロックは青少年に悪影響を及ぼすもの、と保守派の糾弾に口実を与えることになる。エルビスが死亡した'77年の映画雑誌『ロードショー』にも、ヴァチカンも彼を「悪魔の使者」と呼んたことが載っていた。

 一般に日本人が鷹揚だと見ているアメリカ人は、性に関してはある点、日本人以上に頑迷、保守的な面があると思われる。私もトラックバック記事で初めて日本のアニメ『カードキャプターさくら』が、アメリカで問題視されたことを知った。私はこのアニメ自体の名すら知らなかったが、その理由を「原作者は同性愛嗜好の強い作風なので、アメリカ人は嗅ぎとったのでしょう」とのコメントを頂いた。
 アメリカが迷惑なのは自国のみで通用する価値観や倫理観を、他国にも強要することだ。トラバ元のブロガー氏は萌えアニメの大ファンだが、この手のアニメを敵視し、その包囲網を築きつつあるのがアメリカである。

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2 コメント

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片腹痛し (のらくろ)
2009-01-04 21:59:15
>大統領とホワイトハウス実習生との不倫スキャンダルを、連日トップニュースで取り上げられた騒動も記憶に新しい。

この点はより正確を期せば、「歴代大統領に妻以外に愛人のいなかった者を探すことはできないが、大統領執務室に“愛人”を連れ込んでコトに及んでいたのは」こいつだけということが非難の対象となったということです。

>キリスト教圏でも国の指導者の性的問題を執拗に取り上げるのは、他にせいぜいイギリスくらいかもしれない。

ところがこの2国(イギリスについては、旧連邦、すなわちカナダやオセアニア2国を含む)が、他の大陸欧州系国家よりも強姦犯が多いのだから恐れいる。

>アメリカが迷惑なのは自国のみで通用する価値観や倫理観を、他国にも強要することだ。トラバ元のブロガー氏は萌えアニメの大ファンだが、この手のアニメを敵視し、その包囲網を築きつつあるのがアメリカである。

全くそのとおりなのだが、この点ではイギリス及び周辺国も負けていない↓
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1195307.html

mugiさんもそうだと思うが、私にしてみれば「IRAって何でしたっけ?」と揶揄のひとつもしてみたいものだ。

タチが悪いのが、こういう「外野の騒音」に唯唯諾諾とする「出羽のカミ」。例の児童ポルノ規制の推進メンバーにアグネス・ちゃんころが名を連ねていたのはもう驚かない(チベット問題について、あいつは「話したくない」と最後までノーコメントだった)が、森山真弓という元法務大臣までもがガン首揃えてお出ましとは↓
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1102308.html

ま、もと労働省高級官僚だったことを思えば「さもありなん」というところか。

おそまつでした。今年もよろしくお願いします。
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外野の騒音 (mugi)
2009-01-05 21:45:58
>のらくろさん

 何故、 大統領執務室に“愛人”を連れ込みコトに及んだのがダメなのか、よく分りません。執務室は神聖なる場所なのでしょうか?大統領としてやるべきことをしていれば問題ないと思いますが、アメリカ人の考えは不明です。

 何しろあのネルソン提督さえ、人妻と不倫関係にあっただけで、国王が謁見を拒んでいます。清教徒式モラルが異様に重視されたビクトリア時代こそ帝国主義全盛で、植民地でイギリス人は強姦やりまくり。性的厳格さを求めるのは、そうでもない限り野放図になる可能性があったこともあるのかも。

ご紹介された「痛いニュース」、私も昨年に見ていました。アイルランドも日本の隣国の某半島とまったく同じ傾向があります。反英感情が強く、息をするように宗主国の悪口を言いながら、より良い生活を求めイギリスに移住し、居住している。そのくせ、国際会議となればイギリスの提灯持ちをやり、植民地ではイギリス人以上に現地人に威張りくさり粗暴でした。

 シナ女のアグネスはともかく、森山の類が児童ポルノ規制の推進メンバーとは、労働省高級官僚のレベルが知れて絶句させられます。官僚に限らず、日本の学会も「外野の騒音」にひれ伏す「出羽の神」の巣窟でもあります。

こちらこそ、今年もよろしくお願い致します。!
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