1988年の12月に、アメリカの物理論文速報集「フィジカル・レビュー・レターズ」に、いささかショッキングな話が掲載された。題名は「ワームホール、タイムマシン、そして弱いエネルギーの条件」という。ワームホールとは虫食い穴のことだが、宇宙のどこかに入り口から出口へかけて、特殊な条件で(SF的な言葉で言えばワープして)通り抜けられる、チューブのようなものを空想して名づけたものである。著者はカリフォルニア工科大学のキップ・ソーン博士ら3人である。
アインシュタインの相対性理論は極めて分かりにくいものだが、その要点の1つは、2人が猛スピード(等速)で離れていけば、常識的には理解できないが、互いに自分の方はどんどん年をとるのに、相手はなかなか年をとらない(特殊相対論)。一方がUターン(加速)して再会したら、Uターンの間の時間経過がのろいから、還(かえ)った方は未来の世界に到着する(一般相対論)。これをウラシマ効果という。
しかし、今回の論文はそういうことではないらしい。一方が虫食い穴を通って還れば、穴の中では時間経過がほとんど零であり、いつまでも若い相手に、つまり過去の世界に戻れるということらしい。とすると、問題はそんな穴が存在するか、あるいはつくることができるか、ということになる。現在の理論では10のマイナス33乗センチという、とほうもなく小さなものならあるかもしれないという。ただしこれを広げるには、けた違いに大きなエネルギーが必要だ。過去に行くという「因果律の破壊」は、まだまだ空想の世界ではなかろうか。
アインシュタインの相対性理論は極めて分かりにくいものだが、その要点の1つは、2人が猛スピード(等速)で離れていけば、常識的には理解できないが、互いに自分の方はどんどん年をとるのに、相手はなかなか年をとらない(特殊相対論)。一方がUターン(加速)して再会したら、Uターンの間の時間経過がのろいから、還(かえ)った方は未来の世界に到着する(一般相対論)。これをウラシマ効果という。
しかし、今回の論文はそういうことではないらしい。一方が虫食い穴を通って還れば、穴の中では時間経過がほとんど零であり、いつまでも若い相手に、つまり過去の世界に戻れるということらしい。とすると、問題はそんな穴が存在するか、あるいはつくることができるか、ということになる。現在の理論では10のマイナス33乗センチという、とほうもなく小さなものならあるかもしれないという。ただしこれを広げるには、けた違いに大きなエネルギーが必要だ。過去に行くという「因果律の破壊」は、まだまだ空想の世界ではなかろうか。
1989/06/24 北海道新聞朝刊 引用