古書店の岩波文庫コーナーで見つけて即断、珍しく積読せずにすぐ読んだ。私の興味が山に向いているからだろう。著者の名も、本書の存在も知らなかったが、そこは岩波文庫、安心して、期待して手にできる。
多くの青年を、芸術家を山にいざなった、それほど影響力のある作品だという。遅咲きの山好きだが、私も今更ながらと、この先達の書く山々を追体験した。
山の名に疎い私は、どこをどう縦走して、そこからどこの雪渓を登って、という旅の解説には感情移入できなかったが、ひとつひとつを楽しげに、美しい思い出を味わい尽くす文には惹きつけられた。山とはこれほどまでに人を感動させるものなのかと、知らなかった私を残念に思うとともに、遅くなったが山に関わり始めた幸運を喜びながら読んだ。
思わず付箋を貼った一節は、解説者も引用していた。
【こういう風にしていること数年で、私は非常な親しみを山に見出すようになって来た。私はこう思った。山に登るということは、絶対に山に寝ることでなければならない。山から出たばかりの水を飲むことでなければならない。なるべく山の物を喰わなければならない。山の嵐をききながら、その間で焚火をしながら、そこに一夜を経る事でなければならない。そして山その物と自分というものの存在が根底においてしっくり融け合わなければならないと。】
良い本に、良いタイミングで出会えたなと思う。トレイルランニングから山に触れ始めた私は、最近になってキャンプしつつ走る“ファストパック”という楽しみ方に興味を抱き、テントやシュラフを買ったところだったのだ。
想像がふくらむ。この本と、ウィスキーをバックパックにしのばせて、ひとり夜の山を味わうのを夢想して、既に楽しい気持ちになっている。
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