主に入浴中、眠る前、食後のコーヒータイム、そういう零細時間に読んだ。
学術的なものや純文学作品を細切れに読むのは気が引けるし、理解を阻害する。そういう意味では、気楽に読めて、更には未知の歴史の挿話を知り、内心「へぇー」の連発だった。例えるなら、大河ドラマを朝ドラみたいに15分ずつ観るような日々なのだが、それが心のリフレッシュになっているらしく、読んでいないときよりは、やや気持ちが清々しい。
こんな清涼感を与えてくれるのも、先に記したように、しっかりした文体のおかげであり、また著者の歴史学者並のバッグボーンゆえだろう。噛んですぐに味気がなくなるガムではなく、滋味溢れるスルメ。そういう作品に仕上がっている。
ただ、ちょっと自分の勉強不足が怖くなり、挿話を鵜呑みにしてしまう危うさには不安を覚えた。例えばニコライⅡ世について、私は名前を知るのみであり、司馬遼太郎の描く人物像をそのまま疑念なく、まるで歴史的事実のように受け取ってしまう。ある程度、比較検討するだけの知識があれば防げる(或いは客観視できる)ことなのだろうが、それができないのは怖いことだ。
面白いし、納得づくで読ませてしまう説得力。無自覚に、これを歴史教科書にしてしまう読者は少なくないだろう。
と、考え過ぎては作品を楽しめないかもしれない。でもとりあえずは、こうしたことを念頭において、一歩引いて読む態度が必要かもしれない。とはいえ、秋山兄弟の身の処し方には気持ちが引き締まり、少しだけ初心に還れた気がする。
