「不当敗訴判決」を受けての弁護団声明
2015年12月21日
安永訴訟全国弁護団
弁護団長 弁護士 河西 龍太郎
弁護団事務局長 弁護士 星野 圭
1 福岡高等裁判所の判決について
本日、福岡高等裁判所第3民事部は、安永健太さん死亡事件について遺族が提訴した国家賠償請求訴訟(以下、「安永訴訟」という。)について、遺族の控訴を棄却する「不当敗訴」判決を言い渡した。
安永訴訟とは、2007年9月25日、知的障害のある安永健太さん(当時25歳)が5人の警察官に取り押えられた直後に急逝した事件の真相解明を求める訴訟である。第一審である佐賀地方裁判所は、警察官らの行為に何ら問題はなかったとして、遺族の請求を棄却していたが、福岡高裁は、警察官にはその職務の相手方の言動等から知的障害等の存在が推認される場合にはその障害特性を踏まえた適切な対応をすべき一般的注意義務があると判断したものの、本件の具体的事情を前提とすると、かかる義務を怠ったとまで評価することはできないとして第一審と同様に、遺族の控訴を棄却した。
2 本判決の評価
本判決は、警察官らが仮に知的障害等を認識していたとしてもパニック状態に陥った健太さんの自傷他害のおそれを解消するにはその動きを制止するしかなかったという佐賀県の主張を排斥し、警察官は、職務の相手方が知的障害者であることを認識している場合はもちろん、認識していない場合においても、相手方の言動等から知的障害等の存在が推認される場合においては、その特性を踏まえた適切な対応をすべき注意義務を認め、穏やかに話しかける等の適切な対応がなされていれば健太さんの死を回避することができたと考える余地があるとした点においては、地裁判決から一歩前進したものと評価できる。
障害者権利条約に関する政府レメ[トが作成されている現在、本訴訟では、障害のある市民に対するわが国の人権意識が問われていたところである。かかる時期において一般的とはいえ注意義務が認められたことの意義は大きい。
しかしながら、具体的当てはめにおいて、本件取押え前後の健太さんの言動は事後的に考察すればその知的障害等に起因するものと認めながら、健太さんの当時の言動等から知的障害等が推認される場合には当たらないとして、警察官の注意義務を否定した点において、不当との非難を免れないものである。
健太さんの遺族、支援者及び弁護団は、同様の悲劇が二度と起こらず、誰もが安心して暮らせる社会を実現するために、警察官らの対応の誤りを指摘してきたところであるが、本判決の示す基準に基づいて注意義務の有無が判断されるならば、本件の再発を防止することはできないと言わざるを得ず、結果的には障害者権利条約の趣獅v却してしまうものであり、その点が強く危惧されるところである。
3 佐賀県及び佐賀県警に求めること
佐賀県及び佐賀県警察は、「知的障害等を認識していたとしても、本件においてはその動きを制止するしかなかった」との主張が本判決によって明確に排斥されたことを重く受けとめ、知的障害をはじめコミュニケーションに何らかの障害を持つ市民に適切な配慮をするよう、改めて認識の周知を徹底しなければならない。
また、警察官を含むすべての公務員が、障害のある市民に対し常にあるべき対応をなしうるよう十分かつ適切な研修を実施するなどの対応を直ちに実施すべきである。かかる対応は、障害のある市民が社会参加を果たすためにも不可欠のものである。行政機関が障害のある市民の社会参加に対する障壁とならないよう、強く求める。
以 上
※判決内容を伝える西日本新聞記事(12月22日付)
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