本作ははんちょー様(Twitter)の惑星ヤロヴィトの侵食型粘菌などの設定をストーリー化したものです。
ストーリー化や出来上がったストーリーのここへの投稿を快く許可してくださった、はんちょー様この場を借りてお礼申し上げます。
一連の文章の設定はアニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』及び『宇宙戦艦ヤマト2202』やはんちょー様の一連の設定に基づいてはおりますが、公式設定などで描かれていない部分などや個人的趣向を優先したいところは、独自設定を用いています。予めご了承ください。 拙い文章ですので過度な期待はしないでください。
「...これはすごい....新発見だ」黒い蓋のされた試験管の中に群がる血のように赤い粘菌、これは地球上には存在しない、未知の生物だった。
惑星ヤロヴィトと呼ばれる地球型惑星にドレッドノート改級航宙探査艦「ボイジャー」は、外宇宙探査の一環として訪れていた。
この植物、春の神の名を冠するこの星は美しい緑で覆われている。
しかし、大気からは酸素がほぼ検出されておらず、人類の生存には全くと言っていいほど適していない。
ここの動植物は酸素ではなく、別の気体を使い呼吸していると推測される。
しかし、そのような環境下でも生存していた粘菌を、惑星の調査のために上陸したコスモシーガル隊が持ち帰り、試験管にいれて、生物学の研究者が詰めている、第004研究室に持ち込まれた。
生物学者たちは研究を始めたが、電子顕微鏡での観察で得られた結果は、
[特徴としては、地球上に存在する細胞性粘菌と類似性が見られる]だけであった。
「ここの設備ではやはり限界があるな.....」と白衣を着た若い研究者、ミリセントは呟く。
「見てくれ、電子顕微鏡に入れてからこの粘菌の活動が低下している。」隣で同じ粘菌を研究するエドワードはPCの画面にバイタルサインをミリセントに見せる。
確かに徐々にではあるが低下しているようにも見える。
「電子顕微鏡の何かが問題なんでしょうか....」
「わからない。電子に弱いのか、はたまた真空状態に弱いのか....実に興味深いところではあるね」
「しかし気味が悪いほど血のような赤色していますね....」こころなしかついさっき見た時より粘菌が増えている気がする。いや気のせいだろう。そんな数十秒目を話しただけで急激に増殖することはないだろう。とミリセントは思う
「コーヒーでもどうです?」と黒い眼鏡をかけ同じく白衣を身にまとう研究者、イゴンが、両手に持ったコーヒーカップを二人が使っている机に置く。
「データバンクの方はどうだ?類似した生物は見つかったか?」とエドワードはイゴンに尋ねる。
「まだだ。尤も絞り込める情報があまり多く無くてな、特定にまで至っていない。」とエドワードは大型のPDA、タブレット端末を二人に見せる。
「ガミラスの持っているデータも追加するとこんな感じだ。」
約240万件。この中から類似したものを探すのは至難の業だろう。
───ピキッ。
ガラスの割れる音が小さくではあるが三人に聞こえるように鳴る。
───────ピキッピキッ
「何の音だ」とイゴンは音のする机の方を見る。
蓋のされた試験管は真っ赤に染まっていた。
「まずい.....増殖している。」とミリセントは呟く。まるでウィルスや癌細胞を彷彿とさせる。
ウィルスのパンデミックではないが、未知のこの生物が増殖して、船を覆いつくしたとき、何が起こるか分からない。
「電子顕微鏡だ...!電子顕微鏡に入れてくれ。」とミリセントは言う
「....わかった....!エドワード手伝ってくれ。この部屋には電子顕微鏡が三つある。それで処理するしかない。」
試料のケースに入れるが、この増殖具合では間に合いそうにない。
「電子を流す前から生体機能が低下している。どうやら真空状態に弱いようだ。」とイゴンは呟く。
電子顕微鏡にいれることで試験管の半分に減らすことができたが、このままではいたちごっこだ。
「仕方ない!サンプルを外に投げ捨てろ!今すぐだ!」とエドワードは言う。
ミリセントは試験管をジップロックに入れ、それを持ちながら廊下を走り、ヘルメットと生命維持装置だけを身にまとい、甲板に上がり、サンプルをヤロヴィトの大地へ投げ捨てた。
緑色の雲にかき消され、サンプルの試験管は見えなくなった。
「あれは一体.....なんなんだ.....」とミリセントは呟く。ずっと研究室にこもりがちだったミリセントに基礎体力はなく、すぐに息が切れてしまう。
さて船内に戻ろうと、ミリセントは船を見る。
船の厚い装甲板は赤い粘菌に侵食され、下地の水色が徐々に見えなくなっていた。
粘菌は試験管の中にいた物よりもさらに大型化し、最早粘菌と言うより、蟲と呼ぶべきだろう。
「緊急事態発生!緊急事態発生!未確認生物に船体が取りつかれている!」
《パルスレーザーでは対処しきれない!》
《格納庫がふさがる!コスモシーガル隊緊急発進!》
艦橋は船に突如出現した蟲に襲われ、混乱している。
「第004研究室より報告!赤い粘菌は真空に弱いと考えられる。とのことです!」とオペレーターは内線通話を読み上げる
「艦長!」と副長のアシモフは、艦長のジェームズに指示を乞う。
「全艦!最大戦速!至急宇宙空間に上がれ!」と指示する。
赤色で染められかけていたエンジンノズルは息を吹き返しアフターバーナーを勢いよく吐き出し、エンジンノズル周辺の蟲は炎上し蒸発した。
《こちら機関室!炉内温度が急激に上昇中!このままだと罐が持ちません!》
《排熱機が塞がれています!ああっ───────!》と機関室から悲痛な叫びが聞こえ、通信が途絶する。
「機関室の温度が急激に上昇中。現在摂氏300℃!」
次の瞬間艦尾で大きな爆発が起こった。
波動エンジンがオーバーヒートを起こし、暴発を起こした。
煙を噴き上げ、艦尾の穴から、赤い蟲が入り込んでいく。
「艦内電力!非常用に切り替え!」
《後部第43ブロックから第72ブロック隔壁閉鎖!》
「推進力低下!重力に引きこまれてます!」
「もはや.....ここまでか.....」とジェームズは呟く。
「通信長。第004研究室のデータを基幹ネットワークにアップロードしてくれ。」
「はっ。」通信長はコンソールを操作し、データをアップロードする。
「この船はもうだめだ。最後に君たちのような方々と星の旅を共にできて良かった。」とジェームズは呟く。
「───────艦長より全乗組員に次ぐ総員退艦。」とジェームズは重々しく言う。
「残存シーガルは何機だ」
「2機です。しかしそのうち1機は蟲が回っているためあとどのくらい持つか....」
「被害状況はどうだ?」
「艦尾はもう駄目です…艦首はまだ大丈夫ですが、いつまで持つかは……」
「とりあえず、生き残っている乗組員を艦首へ、コスモシーガルはその乗組員の回収を、あれなら無理すれば50人近くは乗れるはず。」とジェームズは指示を出す。
「台船の格納庫はどうだ?出れるか?」
「こちら艦橋。作業用装載艇格納庫、応答願います。 こちら艦橋。作業用装載艇格納庫、応答願います。」とオペレーターは確認を取るが、応答がない。
「片方のエンジンでスラスターを全開にしろ、シーガルの収容が終わるまで持ちこたえるんだ。」とジェームズは言う
《……こちら作業用装載艇格納庫。現在台船及び、内火艇を出撃させています。》
《しかし、台船1隻、内火艇はすべてエンジンまで蟲が回ってます、出せるのは台船2隻だけです。》
「わかった…。2隻で生き残った乗員の救出に当たってくれ」
《はっ…!》
「あとは…君達も退艦してくれ。ここからは私が君たちの脱出を援護する。これは艦長命令だ」とジェームズは艦橋にいるクルーに言う。
「.......全員命令違反で軍法会議送りのようですな」と副長は珍しく軽口を叩く。
「残念ながら、この船は軍事法廷行きじゃない。あとこの船ができることは、軍人でない研究者にも明日を与えることだ。」
「俺たち軍人には明日はありませんよ。ただ未来を夢見ることだけはできます。」と航海長は言う
「救難信号を打ってくれ、そしてもう一言、」
「もう一言でありますか」
「船で長い時間近づくな、だ。」
「了解。」
ふとジェームズはモニターに表示された総員離艦安全守則を見る。
[・あわてるな。
・宇宙服を着用せよ。
・気密を確認せよ
・早く艦から遠ざかれ。
・集団を作れ。
・脱出艇から離れるな。
・爆発及びスペースデブリに注意せよ。]
《こちらコスモシーガル隊、収容可能人数を収容。これより船より離れます。》
残った艦橋クルーはノーマルスーツを着用し、最後まで船を制御し続けていた。
艦橋の外壁は剥がれ落ち、持ち前の重装甲はもはや残っておらず、船はもはやスラスターでギリギリ浮いている程度だった。
スラスターの炎は薄くなり、赤くなってきた。
もう長くはもたない。
スラスターを徐々に絞りながらも着実にボイジャーは地表に墜ちつつある。
そして、スラスターの炎は完全に消え失せ重力のまま、ドレッドノート改級航宙探査艦は地表に墜ちた。
ボイジャーの救難信号は宇宙に響き渡り、銀河中で受信された。
同じく外宇宙探査に出ていた探査船、ラボラトリー・アトランティスもその中の一つであった。
「コバーン艦長。友軍艦の救難信号を受信しました。」とオペレーターは言う。
「どこからだ?」と白髪が目立つコバーン艦長は尋ねる。
「惑星ヤロヴィトの探査船ボイジャーです。」
「惑星ヤロヴィトか……」
「ヤロヴィトに一番近い船はどれだ?」とコバーンは訊く
「我が艦です.....」
「緊急ワープの準備を。」と指示を出す。
「しかしながら艦長。その後に一文奇妙な文章が…」
「《舩デ長イ時閒近ヅクナ》とのことです。」
「船で長い時間近づくな....?どういうことだ」
「救難信号を出す直前に基幹ネットワークにヤロヴィトの原生生物についてのデータがアップロードされていました。」
「なにも何らかの条件下で活性化して増殖すると考えられる生物とのこと。現状の対処法は真空状態に置けば、活動が不活化するとだけしかわかっていません。」
「あの船は重装甲艦であったから脱出の時間を稼げたようだが、この船の装甲では耐えられないか.....」とコバーンは呟く。
「流石にこの船を真空状態にさせるわけにもいかないですしね.....」と副長のウォルフは言う
「ああ....あそこから真空状態で地球に帰れはしないからな。」
「本当はこういう任務はユラ―レンの船なら持ち前の艦載機搭載能力を生かしてうまくやっていたんだろうが.....」
「アルセウスですか...」
「とりあえずヤロヴィトへ長距離ワープだ。救助というのは、昔から時間との勝負なんだ。」
「イエッサー。」
《全艦ワープ準備》
「電力、非常用に切り替え!」
「ワープドライブ起動。座標入力完了。誤差修正0コンマ2」
《全艦に告ぐ。本艦はこれより本来の任務を一時中断し、国際法の規定に則り、救命活動に従事する。》とコーバンは内線で艦内に伝える
《全乗組員は非常時に備え、宇宙服を着用してください》
《ワープまで残り1分》
段々と船が加速している。
《ワープまで残り30秒。》
《ワープ。》
浮遊感が乗組員の身体を震わせ、直後に重圧感が襲う。
窓に凍てつく氷のような結晶は剥がれ去り、緑色の美しい星を見せる。
《ワープ終了。各班チェック急げ。》
「どうやって救助を行うつもりですか?」と副長は訊いてくる。
「ある種賭けに近いが....いい案がある。」
「.....いい案でありますか」
「機関長。エンジン出力を一時的でいいバッテリーに回してくれ」と無線機で機関室に指示を出す。
「艦内電源は非常用のままにしてくれ」
「100式空偵とコスモシュービルに発進準備を指示、コンテナは3番でだ。」
「パイロットや衛生兵は常時の軽装宇宙服ではなく、完全に機密した宇宙服にしてくれ」「そして一度宇宙に出してコスモシュービル3番コンテナの気密室をきちんと気密した状態で.....」
「機内及びコンテナ内の空気を抜いて真空状態にしてくれ。」と指示を出す。
「真空状態でありますか...」
「効果が実証されているわけでは無いが、しないに越したことはない。」
《コスモシュービル,100式空偵発艦準備。コンテナは3番。気密室のロックは確認してください。パイロットは宇宙服を着用し、命綱やシートベルトをつけた状態で出撃してください》とオペレーターは通達する。
コスモシーガルの2倍の全長を誇っているこの機体はサンダーバード2号を彷彿とさせる姿をしており、コンテナを取り替えることで様々な任務に対応することができる。
《コンテナ3番を装備。気密室のロックを確認》とコスモシュービルのコックピットから無線で報告が来る。
《一時的にクレーンのまま船外に出す。乗員のシートベルトの着用を確認したのち、気密室以外の扉を全開にして機内を真空状態にしてくれ。》とCATCCから指示が入る。
前代未聞だ。空気が吸い出されない為に、気密してあるにも関わらず、それを抜けというのだ。
「了解……。」
《理由は色々だ。今回の惑星はとてもイレギュラーでな。》と管制官は、こちらの困惑した雰囲気を察して解説を入れる。
「了解。全員、全物資シートベルト及びアンビリカブルケーブルを接続した。」
《了解一度クレーンで船外へ出す。そのままハッチを開けてくれ。》
格納庫の大きなハッチはシャッターの要領で重々しく、口を開ける。
大柄なコスモシュービルを釣り上げたクレーンは宇宙へと機体を誘う。
「宇宙に出たか。」ともう一人のパイロットの一人は呟く
《クレーン、延長完了。指定のプロトコルに則り、気密を解除してください。》と管制官は指示する。
「了解。6番以外のエアロックをすべて開放する。」とパイロットは計器のスイッチを操作する。
無酸素の宇宙空間でエアロックを開放するという行為に、SIDは耳障りな警報音と共に警告を発する。
コスモシュービルは警告を無視し、ハッチを開放し、その開放した大きな穴から空気が雪崩のように吸い出されていき、やがて計器に書かれている気圧は0になり、計器は赤く光り、警告を発する。
「これでいいのか?管制官。」
《ああ。これでいい。ハッチを閉めてくれ、しまって気密が行われたら、クレーンを収容する。》
「了解。ハッチを閉鎖し、気密を確認する」
開放されたハッチはすべて閉じられ、計器のランプが機内の気密を報せる。
それを知らせるとクレーンは宇宙からラボラトリー・アトランティスの艦内へと機体を戻す。
そして横のハッチが一度閉まる。
大気圏突入時にもあいていると、何が起こるかわからない。
《艦橋、こちらCATCC。作戦第一段階完了。機体、減圧しました。》
「了解」
「これより、作戦を第2段階へ。」
「ヤロヴィトの大気圏に突入する。大気圏に突入次第、波動防壁を全体展開、作戦行動時間は40分とする」コバーンは指示する。
ヤロヴィトには酸素がないようで、摩擦による発火はなく、ただ船がガタガタ武者震いするだけだ。
「高度40000フィート。100式空偵を展開します。」
右舷側から100式空間偵察機が飛び立つ。
コックピットのSIDが表示する活動限界時間は7分。
この間に、ボイジャーの残骸と生存者を見つけ出さなければいけない。
ラボラトリー・アトランティスは救難信号の発信源の近くに降下したが、それでも多少の誤差はある。
「あれか……?」とパイロットはつぶやく。
人工物など一切ない密林に、赤い船のような残骸がある。
「カメラで地表を撮影してくれ」とパイロットは後部座席に座る乗組員に言う
「了解。」高性能なカメラが地表の残街を写す。その周辺にはコスモシーガル、そして宇宙服を着たヒトと思われる物体が写っていた。
「見つけましたあそこです。」と乗組員は指を指す。
「こちら偵察隊。ターゲットを確認。正確な座標データを送信する。」とパイロットは言う
《了解。受け取った。偵察隊は直ちに帰還せよ。》と管制官は言う。
SIDが表記する活動限界時間は残り3分だった。
《CATCCよりコスモシュービル。ターゲットの座標を送信する。生存者と思われる人影も確認している。直ちに救助へ向かえ。》と管制官は言う。
「了解直ちに発進する。ハッチを開けてくれ。」と操縦士達は計器を操作する。
発艦前のチェックは念入りにしなければ、この状況、何処で命取りになるかはわからない。
ハッチが重々しく開き、クレーンは惑星へ誘導する。
「コスモシュービル発艦する。」大柄な機体は、マグネットを解除し、偵察機が送ってきた座標へと飛ぶ。
「コンテナは大丈夫か?ワックサー。」
「ええ。快適なフライトですよ。」
「尤も…酸素があればな」と同じく乗組員のボイルが言う
「残念ながら、酸素はファーストクラスの特権だ。」と副操縦士はジョークで返す
「あれか…」と操縦士は呟く。
目の前に血のような赤で染まったドレッドノート級があった。
「着陸する。速やかに脱出した乗員を収容してくれ。」とコンテナの乗組員6名に対して言う。
コスモシュービルは大柄な体をシーガルの近くの緑色の地面につける。
シーガルの近くにいるボイジャーの乗組員たちは心なしか喜んでいる。
コンテナのメインハッチを開けれるように、機体を上に上げる。
「救助可能時間は15分だ。それ以降はこの機体が持たない」と副操縦士は言う
《了解。救助活動を始める。》
「我々は地球防衛宇宙海軍所属、探査船ラボラトリーアトランティスの者です。あなた方を助けに来ました。」とシュービルの乗組員の一人、リッジは言う。
その声を聞き、生き残った乗組員の中には泣き出すものもいた。
「詳しい話は後です。とりあえずシュービルに乗ってください。生存者はここにいる人だけですか?」と尋ねると乗組員達は首を振る。
「おそらく艦橋にまだ艦長達が残っています」と乗組員の一人は赤い艦橋を指差す。
「わかりました…とりあえずあなた方はコスモシュービルに。この中に歩けない方はいますか?」
「いいえ全員歩けます。」
「とりあえず乗り込んでください。艦橋の生存者は必ず助け出します。」とリッジは言い、生存者をシュービルに乗せる。
「ワックサー、ボイル。あの先にあるボイジャーの艦橋にまだ生存者が残っているらしい。シュービルで甲板まで送る。行って生存者を確認してくれ。」
「サーイエッサー」と二人は口を揃える
コスモシーガル、台船で脱出した生存者は全員収容したら、もうコスモシュービルのコンテナはかなり詰められていた。
「よし全員乗ったな。ハッチを閉鎖、離陸する。」と操縦士はコンテナのハッチを閉め、シュービルの機体にコンテナを格納し、離陸する。
コンテナの接地面についた土はこぼれ落ち、スラスターの推力で彼方へと舞う。
「艦橋に近づく、フックショットで乗り込んでくれ。迎えはシーガルが来る」
「了解しました」とワックサーは言う
エアロックがベルとともに開き、ワックサーはサブマシンガンにつけたフックショットをボイジャーの船体に撃ち込み、そのワイヤーを伝って乗り込む。
先にボイルが乗り込み、靴に仕込まれた磁石は船体に付着する。
そしてそれに続きワックサーは、フックショットを巻き取りながらターザンの如く乗り込んだ。
それを見届け、シュービルはラボラトリーアトランティスに帰還する。
「しかし、こうも蟲が酷いか…」二人は壁を伝い、艦橋横の観測所に降り立つ。
ここに艦橋に上がる非常用階段や、エレベーターへのアクセスするエアロックがあるはずだった。
しかしその扉にも蟲がへばりついており、開けられる状態ではない。
「蟲は嫌いか?」とボイルは尋ねる
「いいや。そういうわけじゃない。」
「わかっているさ。尤も、ジオレジアのヒト型の蟲は少々気持ち悪かったがな」とワックサーは言う
「こいつを開けるにはこの蟲をどうにかする必要がある」
「俺に名案がある。」とワックサーは手に持った、89式機関短銃を扉に向ける
「やると思ったよ。」ワックサーは引き金を引き、肥大化した蟲を蹴散らす。
「流石軍艦の扉だ。びくともしねえ」
ボイルは蟲の粘液がついたままの扉のノブを回し、二人は船内へと入る。
船内は荒れており、電灯はついておらずとても暗く、ヘルメットのライトを付けないと歩くのは危険だった。
「エレベーターは動いてないと見ていいだろう。」とボイルは消灯したエレベーターのボタンを見ながら言う。
「となると非常用階段を登ることになる。」
「ああ」
非常用階段も薄暗く、ただ随所随所にある赤い非常灯が階段を照らす。
その階段を二人は駆け上がる。
「俺たちいつも楽しい任務だよな」とワックサーは聞いてくる
「こんなの序の口よ」と二人は艦橋の前の扉に辿り着く。
「本当のお楽しみはこれからさ」と長く開けていないであろう重い扉を開ける。
艦橋の中も荒れ果て、窓のガラスは割れ、モニターにもヒビが入って中の回路が見れる状態になっている。
そして5人の生存者は二人を見て目を見開いている。
「我々は地球防衛宇宙軍、ラボラトリー・アトランティスの者です。あなた方を助けに来ました」
「アトランティス……コバーンの船か」
「ええ」
「そうか……どうやらまた死にぞこなったようだな」とジェームズはつぶやく。
「えぇ。貴方にはまだ生きてもらわないとなりません」
「まもなくコスモシーガルが迎えに来ます。」
「全員歩けますか?」
「大丈夫です。」と副長は答える。
「では階段で甲板に降りましょう」
体力の消耗が激しい5人を甲板へ降ろすのは苦労が無かったというわけではなかったが、無事、甲板に下ろすことができ、その頃にはコスモシーガルも到着していた。
「さあどうぞこちらへ」とワックサーはジェームズ艦長らをコンテナの座席に案内する。
「全員乗りましたね」とパイロットは確認する
「ええ」
「さて上昇しましょう」とシーガルはヤロヴィトの地表を離れる。SIDが刻む、アトランティスの残り活動時間は1:30、戻れるかギリギリだ。
「飛ばしますよ。捕まってくださいね」とシーガルはアフターバーナーを噴き出し、加速する。
それを横目に、ジェームズはコンテナの窓から自分の乗っていた船を眺める。
「さようなら……。ボイジャー。」と呟いだが、加速の騒音でそれも掻き消された。
アトランティスに着艦する頃にはタイマーは0になっている。波動防壁が切れており、あまり時間をかけるとこの船もバラバラになる。
コスモシーガルを収容し、格納庫のハッチが閉まる。
「任務完了です。艦長。」と副長はコバーンに報告する。
「よろしい全艦最大戦速で大気圏をりだっ」
轟。と艦尾で爆発音が響く。
「第4補助エンジンで爆発発生!」とオペレーターは報告する。
「機関長!すぐさま当該エンジンへの回路閉鎖!」《大気圏離脱まで残り40!》
「大気圏離脱まで持つか……?」とコバーンは呟く。
《20》
《離脱! 依然活動は衰えはするも、まだ活動を行っています……!》と報告が入る。
「一か八かだ。全艦ワープ用意。」とコバーンは指示を出す。
「ヤマトの航海では未確認生物をワープを使って凪払っている。それを模倣して行う。」
「了解。全艦緊急ワープ用意。」
《緊急ワープを行う。》《エネルギー充填開始》
「計算完了。目標エンドリケ星系にセット」
「加速開始」
「加速開始」と航海長は復唱する
《残り10秒》
《9,8,7,6,5,4,3,2》
《1》
「ワープ」ラボラトリー・アトランティスは空間を切り裂き、乗組員に浮遊感を与えると同時に船に貼り付いた蟲はその時間に耐えきれず時間に置き去りにされる。
《ワープ終了。各班チェック急げ》
「蟲の方はどうだ。」
「スキャンの結果、該当する生体パターンはありません。消滅しました…成功です。」
モニターにはラボラトリーアトランティスの船体が表示されているがそこに粘菌の固有生体パターンはめっきり消えている。
「そうか……」とコバーンはぐったりと艦長席に座り込む。
「進路を地球へ向けろ。ボイジャーの乗組員を送り届ける。」コバーンは指示を出し、ラボラトリー・アトランティスはヤロヴィトに背を向け、地球へと舵を切る。
さよなら。ボイジャー。
どうか安らかに。
ヤロヴィトの大地を詳しく捜索すれば、様々な星間文明の船が沈んでいることだろう。
彼らは同じように粘菌が肥大化した蟲に食い荒らされていた。
その多くは星からの脱出も叶わず。船は墓標となった。
ヤロヴィトという西スラブの神はスラヴ神話のヤリーロと言う神と同一と考えられている。
一般的に名前の起源はギリシア神話の神から来ていると考えられているが、「荒れ狂う」という意味のヤールィから来ていると考える説も存在している。
その文字通り。
この星はその美しさとは裏腹に、
荒れ狂っていた。
ストーリー化や出来上がったストーリーのここへの投稿を快く許可してくださった、はんちょー様この場を借りてお礼申し上げます。
一連の文章の設定はアニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』及び『宇宙戦艦ヤマト2202』やはんちょー様の一連の設定に基づいてはおりますが、公式設定などで描かれていない部分などや個人的趣向を優先したいところは、独自設定を用いています。予めご了承ください。 拙い文章ですので過度な期待はしないでください。
「...これはすごい....新発見だ」黒い蓋のされた試験管の中に群がる血のように赤い粘菌、これは地球上には存在しない、未知の生物だった。
惑星ヤロヴィトと呼ばれる地球型惑星にドレッドノート改級航宙探査艦「ボイジャー」は、外宇宙探査の一環として訪れていた。
この植物、春の神の名を冠するこの星は美しい緑で覆われている。
しかし、大気からは酸素がほぼ検出されておらず、人類の生存には全くと言っていいほど適していない。
ここの動植物は酸素ではなく、別の気体を使い呼吸していると推測される。
しかし、そのような環境下でも生存していた粘菌を、惑星の調査のために上陸したコスモシーガル隊が持ち帰り、試験管にいれて、生物学の研究者が詰めている、第004研究室に持ち込まれた。
生物学者たちは研究を始めたが、電子顕微鏡での観察で得られた結果は、
[特徴としては、地球上に存在する細胞性粘菌と類似性が見られる]だけであった。
「ここの設備ではやはり限界があるな.....」と白衣を着た若い研究者、ミリセントは呟く。
「見てくれ、電子顕微鏡に入れてからこの粘菌の活動が低下している。」隣で同じ粘菌を研究するエドワードはPCの画面にバイタルサインをミリセントに見せる。
確かに徐々にではあるが低下しているようにも見える。
「電子顕微鏡の何かが問題なんでしょうか....」
「わからない。電子に弱いのか、はたまた真空状態に弱いのか....実に興味深いところではあるね」
「しかし気味が悪いほど血のような赤色していますね....」こころなしかついさっき見た時より粘菌が増えている気がする。いや気のせいだろう。そんな数十秒目を話しただけで急激に増殖することはないだろう。とミリセントは思う
「コーヒーでもどうです?」と黒い眼鏡をかけ同じく白衣を身にまとう研究者、イゴンが、両手に持ったコーヒーカップを二人が使っている机に置く。
「データバンクの方はどうだ?類似した生物は見つかったか?」とエドワードはイゴンに尋ねる。
「まだだ。尤も絞り込める情報があまり多く無くてな、特定にまで至っていない。」とエドワードは大型のPDA、タブレット端末を二人に見せる。
「ガミラスの持っているデータも追加するとこんな感じだ。」
約240万件。この中から類似したものを探すのは至難の業だろう。
───ピキッ。
ガラスの割れる音が小さくではあるが三人に聞こえるように鳴る。
───────ピキッピキッ
「何の音だ」とイゴンは音のする机の方を見る。
蓋のされた試験管は真っ赤に染まっていた。
「まずい.....増殖している。」とミリセントは呟く。まるでウィルスや癌細胞を彷彿とさせる。
ウィルスのパンデミックではないが、未知のこの生物が増殖して、船を覆いつくしたとき、何が起こるか分からない。
「電子顕微鏡だ...!電子顕微鏡に入れてくれ。」とミリセントは言う
「....わかった....!エドワード手伝ってくれ。この部屋には電子顕微鏡が三つある。それで処理するしかない。」
試料のケースに入れるが、この増殖具合では間に合いそうにない。
「電子を流す前から生体機能が低下している。どうやら真空状態に弱いようだ。」とイゴンは呟く。
電子顕微鏡にいれることで試験管の半分に減らすことができたが、このままではいたちごっこだ。
「仕方ない!サンプルを外に投げ捨てろ!今すぐだ!」とエドワードは言う。
ミリセントは試験管をジップロックに入れ、それを持ちながら廊下を走り、ヘルメットと生命維持装置だけを身にまとい、甲板に上がり、サンプルをヤロヴィトの大地へ投げ捨てた。
緑色の雲にかき消され、サンプルの試験管は見えなくなった。
「あれは一体.....なんなんだ.....」とミリセントは呟く。ずっと研究室にこもりがちだったミリセントに基礎体力はなく、すぐに息が切れてしまう。
さて船内に戻ろうと、ミリセントは船を見る。
船の厚い装甲板は赤い粘菌に侵食され、下地の水色が徐々に見えなくなっていた。
粘菌は試験管の中にいた物よりもさらに大型化し、最早粘菌と言うより、蟲と呼ぶべきだろう。
「緊急事態発生!緊急事態発生!未確認生物に船体が取りつかれている!」
《パルスレーザーでは対処しきれない!》
《格納庫がふさがる!コスモシーガル隊緊急発進!》
艦橋は船に突如出現した蟲に襲われ、混乱している。
「第004研究室より報告!赤い粘菌は真空に弱いと考えられる。とのことです!」とオペレーターは内線通話を読み上げる
「艦長!」と副長のアシモフは、艦長のジェームズに指示を乞う。
「全艦!最大戦速!至急宇宙空間に上がれ!」と指示する。
赤色で染められかけていたエンジンノズルは息を吹き返しアフターバーナーを勢いよく吐き出し、エンジンノズル周辺の蟲は炎上し蒸発した。
《こちら機関室!炉内温度が急激に上昇中!このままだと罐が持ちません!》
《排熱機が塞がれています!ああっ───────!》と機関室から悲痛な叫びが聞こえ、通信が途絶する。
「機関室の温度が急激に上昇中。現在摂氏300℃!」
次の瞬間艦尾で大きな爆発が起こった。
波動エンジンがオーバーヒートを起こし、暴発を起こした。
煙を噴き上げ、艦尾の穴から、赤い蟲が入り込んでいく。
「艦内電力!非常用に切り替え!」
《後部第43ブロックから第72ブロック隔壁閉鎖!》
「推進力低下!重力に引きこまれてます!」
「もはや.....ここまでか.....」とジェームズは呟く。
「通信長。第004研究室のデータを基幹ネットワークにアップロードしてくれ。」
「はっ。」通信長はコンソールを操作し、データをアップロードする。
「この船はもうだめだ。最後に君たちのような方々と星の旅を共にできて良かった。」とジェームズは呟く。
「───────艦長より全乗組員に次ぐ総員退艦。」とジェームズは重々しく言う。
「残存シーガルは何機だ」
「2機です。しかしそのうち1機は蟲が回っているためあとどのくらい持つか....」
「被害状況はどうだ?」
「艦尾はもう駄目です…艦首はまだ大丈夫ですが、いつまで持つかは……」
「とりあえず、生き残っている乗組員を艦首へ、コスモシーガルはその乗組員の回収を、あれなら無理すれば50人近くは乗れるはず。」とジェームズは指示を出す。
「台船の格納庫はどうだ?出れるか?」
「こちら艦橋。作業用装載艇格納庫、応答願います。 こちら艦橋。作業用装載艇格納庫、応答願います。」とオペレーターは確認を取るが、応答がない。
「片方のエンジンでスラスターを全開にしろ、シーガルの収容が終わるまで持ちこたえるんだ。」とジェームズは言う
《……こちら作業用装載艇格納庫。現在台船及び、内火艇を出撃させています。》
《しかし、台船1隻、内火艇はすべてエンジンまで蟲が回ってます、出せるのは台船2隻だけです。》
「わかった…。2隻で生き残った乗員の救出に当たってくれ」
《はっ…!》
「あとは…君達も退艦してくれ。ここからは私が君たちの脱出を援護する。これは艦長命令だ」とジェームズは艦橋にいるクルーに言う。
「.......全員命令違反で軍法会議送りのようですな」と副長は珍しく軽口を叩く。
「残念ながら、この船は軍事法廷行きじゃない。あとこの船ができることは、軍人でない研究者にも明日を与えることだ。」
「俺たち軍人には明日はありませんよ。ただ未来を夢見ることだけはできます。」と航海長は言う
「救難信号を打ってくれ、そしてもう一言、」
「もう一言でありますか」
「船で長い時間近づくな、だ。」
「了解。」
ふとジェームズはモニターに表示された総員離艦安全守則を見る。
[・あわてるな。
・宇宙服を着用せよ。
・気密を確認せよ
・早く艦から遠ざかれ。
・集団を作れ。
・脱出艇から離れるな。
・爆発及びスペースデブリに注意せよ。]
《こちらコスモシーガル隊、収容可能人数を収容。これより船より離れます。》
残った艦橋クルーはノーマルスーツを着用し、最後まで船を制御し続けていた。
艦橋の外壁は剥がれ落ち、持ち前の重装甲はもはや残っておらず、船はもはやスラスターでギリギリ浮いている程度だった。
スラスターの炎は薄くなり、赤くなってきた。
もう長くはもたない。
スラスターを徐々に絞りながらも着実にボイジャーは地表に墜ちつつある。
そして、スラスターの炎は完全に消え失せ重力のまま、ドレッドノート改級航宙探査艦は地表に墜ちた。
ボイジャーの救難信号は宇宙に響き渡り、銀河中で受信された。
同じく外宇宙探査に出ていた探査船、ラボラトリー・アトランティスもその中の一つであった。
「コバーン艦長。友軍艦の救難信号を受信しました。」とオペレーターは言う。
「どこからだ?」と白髪が目立つコバーン艦長は尋ねる。
「惑星ヤロヴィトの探査船ボイジャーです。」
「惑星ヤロヴィトか……」
「ヤロヴィトに一番近い船はどれだ?」とコバーンは訊く
「我が艦です.....」
「緊急ワープの準備を。」と指示を出す。
「しかしながら艦長。その後に一文奇妙な文章が…」
「《舩デ長イ時閒近ヅクナ》とのことです。」
「船で長い時間近づくな....?どういうことだ」
「救難信号を出す直前に基幹ネットワークにヤロヴィトの原生生物についてのデータがアップロードされていました。」
「なにも何らかの条件下で活性化して増殖すると考えられる生物とのこと。現状の対処法は真空状態に置けば、活動が不活化するとだけしかわかっていません。」
「あの船は重装甲艦であったから脱出の時間を稼げたようだが、この船の装甲では耐えられないか.....」とコバーンは呟く。
「流石にこの船を真空状態にさせるわけにもいかないですしね.....」と副長のウォルフは言う
「ああ....あそこから真空状態で地球に帰れはしないからな。」
「本当はこういう任務はユラ―レンの船なら持ち前の艦載機搭載能力を生かしてうまくやっていたんだろうが.....」
「アルセウスですか...」
「とりあえずヤロヴィトへ長距離ワープだ。救助というのは、昔から時間との勝負なんだ。」
「イエッサー。」
《全艦ワープ準備》
「電力、非常用に切り替え!」
「ワープドライブ起動。座標入力完了。誤差修正0コンマ2」
《全艦に告ぐ。本艦はこれより本来の任務を一時中断し、国際法の規定に則り、救命活動に従事する。》とコーバンは内線で艦内に伝える
《全乗組員は非常時に備え、宇宙服を着用してください》
《ワープまで残り1分》
段々と船が加速している。
《ワープまで残り30秒。》
《ワープ。》
浮遊感が乗組員の身体を震わせ、直後に重圧感が襲う。
窓に凍てつく氷のような結晶は剥がれ去り、緑色の美しい星を見せる。
《ワープ終了。各班チェック急げ。》
「どうやって救助を行うつもりですか?」と副長は訊いてくる。
「ある種賭けに近いが....いい案がある。」
「.....いい案でありますか」
「機関長。エンジン出力を一時的でいいバッテリーに回してくれ」と無線機で機関室に指示を出す。
「艦内電源は非常用のままにしてくれ」
「100式空偵とコスモシュービルに発進準備を指示、コンテナは3番でだ。」
「パイロットや衛生兵は常時の軽装宇宙服ではなく、完全に機密した宇宙服にしてくれ」「そして一度宇宙に出してコスモシュービル3番コンテナの気密室をきちんと気密した状態で.....」
「機内及びコンテナ内の空気を抜いて真空状態にしてくれ。」と指示を出す。
「真空状態でありますか...」
「効果が実証されているわけでは無いが、しないに越したことはない。」
《コスモシュービル,100式空偵発艦準備。コンテナは3番。気密室のロックは確認してください。パイロットは宇宙服を着用し、命綱やシートベルトをつけた状態で出撃してください》とオペレーターは通達する。
コスモシーガルの2倍の全長を誇っているこの機体はサンダーバード2号を彷彿とさせる姿をしており、コンテナを取り替えることで様々な任務に対応することができる。
《コンテナ3番を装備。気密室のロックを確認》とコスモシュービルのコックピットから無線で報告が来る。
《一時的にクレーンのまま船外に出す。乗員のシートベルトの着用を確認したのち、気密室以外の扉を全開にして機内を真空状態にしてくれ。》とCATCCから指示が入る。
前代未聞だ。空気が吸い出されない為に、気密してあるにも関わらず、それを抜けというのだ。
「了解……。」
《理由は色々だ。今回の惑星はとてもイレギュラーでな。》と管制官は、こちらの困惑した雰囲気を察して解説を入れる。
「了解。全員、全物資シートベルト及びアンビリカブルケーブルを接続した。」
《了解一度クレーンで船外へ出す。そのままハッチを開けてくれ。》
格納庫の大きなハッチはシャッターの要領で重々しく、口を開ける。
大柄なコスモシュービルを釣り上げたクレーンは宇宙へと機体を誘う。
「宇宙に出たか。」ともう一人のパイロットの一人は呟く
《クレーン、延長完了。指定のプロトコルに則り、気密を解除してください。》と管制官は指示する。
「了解。6番以外のエアロックをすべて開放する。」とパイロットは計器のスイッチを操作する。
無酸素の宇宙空間でエアロックを開放するという行為に、SIDは耳障りな警報音と共に警告を発する。
コスモシュービルは警告を無視し、ハッチを開放し、その開放した大きな穴から空気が雪崩のように吸い出されていき、やがて計器に書かれている気圧は0になり、計器は赤く光り、警告を発する。
「これでいいのか?管制官。」
《ああ。これでいい。ハッチを閉めてくれ、しまって気密が行われたら、クレーンを収容する。》
「了解。ハッチを閉鎖し、気密を確認する」
開放されたハッチはすべて閉じられ、計器のランプが機内の気密を報せる。
それを知らせるとクレーンは宇宙からラボラトリー・アトランティスの艦内へと機体を戻す。
そして横のハッチが一度閉まる。
大気圏突入時にもあいていると、何が起こるかわからない。
《艦橋、こちらCATCC。作戦第一段階完了。機体、減圧しました。》
「了解」
「これより、作戦を第2段階へ。」
「ヤロヴィトの大気圏に突入する。大気圏に突入次第、波動防壁を全体展開、作戦行動時間は40分とする」コバーンは指示する。
ヤロヴィトには酸素がないようで、摩擦による発火はなく、ただ船がガタガタ武者震いするだけだ。
「高度40000フィート。100式空偵を展開します。」
右舷側から100式空間偵察機が飛び立つ。
コックピットのSIDが表示する活動限界時間は7分。
この間に、ボイジャーの残骸と生存者を見つけ出さなければいけない。
ラボラトリー・アトランティスは救難信号の発信源の近くに降下したが、それでも多少の誤差はある。
「あれか……?」とパイロットはつぶやく。
人工物など一切ない密林に、赤い船のような残骸がある。
「カメラで地表を撮影してくれ」とパイロットは後部座席に座る乗組員に言う
「了解。」高性能なカメラが地表の残街を写す。その周辺にはコスモシーガル、そして宇宙服を着たヒトと思われる物体が写っていた。
「見つけましたあそこです。」と乗組員は指を指す。
「こちら偵察隊。ターゲットを確認。正確な座標データを送信する。」とパイロットは言う
《了解。受け取った。偵察隊は直ちに帰還せよ。》と管制官は言う。
SIDが表記する活動限界時間は残り3分だった。
《CATCCよりコスモシュービル。ターゲットの座標を送信する。生存者と思われる人影も確認している。直ちに救助へ向かえ。》と管制官は言う。
「了解直ちに発進する。ハッチを開けてくれ。」と操縦士達は計器を操作する。
発艦前のチェックは念入りにしなければ、この状況、何処で命取りになるかはわからない。
ハッチが重々しく開き、クレーンは惑星へ誘導する。
「コスモシュービル発艦する。」大柄な機体は、マグネットを解除し、偵察機が送ってきた座標へと飛ぶ。
「コンテナは大丈夫か?ワックサー。」
「ええ。快適なフライトですよ。」
「尤も…酸素があればな」と同じく乗組員のボイルが言う
「残念ながら、酸素はファーストクラスの特権だ。」と副操縦士はジョークで返す
「あれか…」と操縦士は呟く。
目の前に血のような赤で染まったドレッドノート級があった。
「着陸する。速やかに脱出した乗員を収容してくれ。」とコンテナの乗組員6名に対して言う。
コスモシュービルは大柄な体をシーガルの近くの緑色の地面につける。
シーガルの近くにいるボイジャーの乗組員たちは心なしか喜んでいる。
コンテナのメインハッチを開けれるように、機体を上に上げる。
「救助可能時間は15分だ。それ以降はこの機体が持たない」と副操縦士は言う
《了解。救助活動を始める。》
「我々は地球防衛宇宙海軍所属、探査船ラボラトリーアトランティスの者です。あなた方を助けに来ました。」とシュービルの乗組員の一人、リッジは言う。
その声を聞き、生き残った乗組員の中には泣き出すものもいた。
「詳しい話は後です。とりあえずシュービルに乗ってください。生存者はここにいる人だけですか?」と尋ねると乗組員達は首を振る。
「おそらく艦橋にまだ艦長達が残っています」と乗組員の一人は赤い艦橋を指差す。
「わかりました…とりあえずあなた方はコスモシュービルに。この中に歩けない方はいますか?」
「いいえ全員歩けます。」
「とりあえず乗り込んでください。艦橋の生存者は必ず助け出します。」とリッジは言い、生存者をシュービルに乗せる。
「ワックサー、ボイル。あの先にあるボイジャーの艦橋にまだ生存者が残っているらしい。シュービルで甲板まで送る。行って生存者を確認してくれ。」
「サーイエッサー」と二人は口を揃える
コスモシーガル、台船で脱出した生存者は全員収容したら、もうコスモシュービルのコンテナはかなり詰められていた。
「よし全員乗ったな。ハッチを閉鎖、離陸する。」と操縦士はコンテナのハッチを閉め、シュービルの機体にコンテナを格納し、離陸する。
コンテナの接地面についた土はこぼれ落ち、スラスターの推力で彼方へと舞う。
「艦橋に近づく、フックショットで乗り込んでくれ。迎えはシーガルが来る」
「了解しました」とワックサーは言う
エアロックがベルとともに開き、ワックサーはサブマシンガンにつけたフックショットをボイジャーの船体に撃ち込み、そのワイヤーを伝って乗り込む。
先にボイルが乗り込み、靴に仕込まれた磁石は船体に付着する。
そしてそれに続きワックサーは、フックショットを巻き取りながらターザンの如く乗り込んだ。
それを見届け、シュービルはラボラトリーアトランティスに帰還する。
「しかし、こうも蟲が酷いか…」二人は壁を伝い、艦橋横の観測所に降り立つ。
ここに艦橋に上がる非常用階段や、エレベーターへのアクセスするエアロックがあるはずだった。
しかしその扉にも蟲がへばりついており、開けられる状態ではない。
「蟲は嫌いか?」とボイルは尋ねる
「いいや。そういうわけじゃない。」
「わかっているさ。尤も、ジオレジアのヒト型の蟲は少々気持ち悪かったがな」とワックサーは言う
「こいつを開けるにはこの蟲をどうにかする必要がある」
「俺に名案がある。」とワックサーは手に持った、89式機関短銃を扉に向ける
「やると思ったよ。」ワックサーは引き金を引き、肥大化した蟲を蹴散らす。
「流石軍艦の扉だ。びくともしねえ」
ボイルは蟲の粘液がついたままの扉のノブを回し、二人は船内へと入る。
船内は荒れており、電灯はついておらずとても暗く、ヘルメットのライトを付けないと歩くのは危険だった。
「エレベーターは動いてないと見ていいだろう。」とボイルは消灯したエレベーターのボタンを見ながら言う。
「となると非常用階段を登ることになる。」
「ああ」
非常用階段も薄暗く、ただ随所随所にある赤い非常灯が階段を照らす。
その階段を二人は駆け上がる。
「俺たちいつも楽しい任務だよな」とワックサーは聞いてくる
「こんなの序の口よ」と二人は艦橋の前の扉に辿り着く。
「本当のお楽しみはこれからさ」と長く開けていないであろう重い扉を開ける。
艦橋の中も荒れ果て、窓のガラスは割れ、モニターにもヒビが入って中の回路が見れる状態になっている。
そして5人の生存者は二人を見て目を見開いている。
「我々は地球防衛宇宙軍、ラボラトリー・アトランティスの者です。あなた方を助けに来ました」
「アトランティス……コバーンの船か」
「ええ」
「そうか……どうやらまた死にぞこなったようだな」とジェームズはつぶやく。
「えぇ。貴方にはまだ生きてもらわないとなりません」
「まもなくコスモシーガルが迎えに来ます。」
「全員歩けますか?」
「大丈夫です。」と副長は答える。
「では階段で甲板に降りましょう」
体力の消耗が激しい5人を甲板へ降ろすのは苦労が無かったというわけではなかったが、無事、甲板に下ろすことができ、その頃にはコスモシーガルも到着していた。
「さあどうぞこちらへ」とワックサーはジェームズ艦長らをコンテナの座席に案内する。
「全員乗りましたね」とパイロットは確認する
「ええ」
「さて上昇しましょう」とシーガルはヤロヴィトの地表を離れる。SIDが刻む、アトランティスの残り活動時間は1:30、戻れるかギリギリだ。
「飛ばしますよ。捕まってくださいね」とシーガルはアフターバーナーを噴き出し、加速する。
それを横目に、ジェームズはコンテナの窓から自分の乗っていた船を眺める。
「さようなら……。ボイジャー。」と呟いだが、加速の騒音でそれも掻き消された。
アトランティスに着艦する頃にはタイマーは0になっている。波動防壁が切れており、あまり時間をかけるとこの船もバラバラになる。
コスモシーガルを収容し、格納庫のハッチが閉まる。
「任務完了です。艦長。」と副長はコバーンに報告する。
「よろしい全艦最大戦速で大気圏をりだっ」
轟。と艦尾で爆発音が響く。
「第4補助エンジンで爆発発生!」とオペレーターは報告する。
「機関長!すぐさま当該エンジンへの回路閉鎖!」《大気圏離脱まで残り40!》
「大気圏離脱まで持つか……?」とコバーンは呟く。
《20》
《離脱! 依然活動は衰えはするも、まだ活動を行っています……!》と報告が入る。
「一か八かだ。全艦ワープ用意。」とコバーンは指示を出す。
「ヤマトの航海では未確認生物をワープを使って凪払っている。それを模倣して行う。」
「了解。全艦緊急ワープ用意。」
《緊急ワープを行う。》《エネルギー充填開始》
「計算完了。目標エンドリケ星系にセット」
「加速開始」
「加速開始」と航海長は復唱する
《残り10秒》
《9,8,7,6,5,4,3,2》
《1》
「ワープ」ラボラトリー・アトランティスは空間を切り裂き、乗組員に浮遊感を与えると同時に船に貼り付いた蟲はその時間に耐えきれず時間に置き去りにされる。
《ワープ終了。各班チェック急げ》
「蟲の方はどうだ。」
「スキャンの結果、該当する生体パターンはありません。消滅しました…成功です。」
モニターにはラボラトリーアトランティスの船体が表示されているがそこに粘菌の固有生体パターンはめっきり消えている。
「そうか……」とコバーンはぐったりと艦長席に座り込む。
「進路を地球へ向けろ。ボイジャーの乗組員を送り届ける。」コバーンは指示を出し、ラボラトリー・アトランティスはヤロヴィトに背を向け、地球へと舵を切る。
さよなら。ボイジャー。
どうか安らかに。
ヤロヴィトの大地を詳しく捜索すれば、様々な星間文明の船が沈んでいることだろう。
彼らは同じように粘菌が肥大化した蟲に食い荒らされていた。
その多くは星からの脱出も叶わず。船は墓標となった。
ヤロヴィトという西スラブの神はスラヴ神話のヤリーロと言う神と同一と考えられている。
一般的に名前の起源はギリシア神話の神から来ていると考えられているが、「荒れ狂う」という意味のヤールィから来ていると考える説も存在している。
その文字通り。
この星はその美しさとは裏腹に、
荒れ狂っていた。
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