バスの停留所

2014-12-25 23:23:38 | ポエム

バスの停留所

渡辺 蓮

時間に来ないバスを

苛々しながら待って いる。

もう10分も経っているのに

遠くの方にも姿が見えない。

気になりだすと度々、

バスの来る方角を窺い始める。

それでもバスの姿は見えない。

この時間ならとっくの昔に駅に着いている。

だけど、今から歩くのも癪に障る。

気持ちはどんどん苛立ちはじめる。

隣のおじさんの顔を一瞥してみた。

平気な顔をして平然と微動だにしない。

『バスはあてになりませんね』

と言うと

『バスを待つときはあてにしては

いけませんよ。あてにするから

苛々するのですよ、私はもう30年以上

待っていますよ』

と話してきた。

怪訝そうな顔でおじさんの話を

聴いていたら、

『来るか、来ないか、解からないバスを

待っていると時間は無駄に過ぎてゆくが、

必ず来ると信じて待っているとバスはいつしかちゃんと現れますよ。

そんな思いで私は30年経ってしまったのです。』

 

このおじさんは、まさか三十年も来ないバスを待っているのだろうか。

そんなことはあり得ない。

そのうち、バスの方向指示器の音がした。

『ほうら、来たでしょう。』

しかし、もう20分も経っていた。

時間通りに来なかったけど、

バスはちゃんと現れた。

 


風の精・雪の精

2014-12-23 09:12:21 | ポエム

 

 

 

 

 

 

風の精、雪の精

渡辺 蓮

夜の帳が降りる頃、

森や山は月明かりに照らされて

静かに風の精が遠い空から舞い落ちる。

胸騒ぎの様なざわめきが、

辺り一面に繋がってゆく。

木々の葉を揺らし、

草叢を撫でながら、

湖水に波紋を伝え

風の精がやってきた。

淋しい季節の装いを

月明かりを頼りに

丹念に拵えてゆく。

葉影の虫はじっと堪えて

静かに息を潜めている。

風の精は時々、ため息をついて

立ち止まる。

出来栄えが気になって仕方がない。

淋しい色や艶やかな色が

月明かりの下で一緒に見える。

色の違いをどうやって出せるのだろうか

悩んでしまう。

最初はきっとまだ分かりづらい。

翌朝、陽の光に照らし合わせ

その晩に少しづつ、色を重ねて

淋しい季節を織りなしてゆく

そして、日ごとに寒くなり

陽の射す時は短くなって

深まりゆく淋しい季節の様子が

とても見事に完成しました。

風の精はまた、急いで

遠い空に帰ってゆきました。

残された淋しい風景は

どんどん色褪せて、

荒涼としてきます。

仕舞には木枯らしが吹き始め、

やがて、

白い季節に変わります。

夕暮れの街の明かりが、

ぽつん、ぽつんと灯る頃、

野山には雪の精が舞い降り始めます。