リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

岐阜新聞 「鮎の12か月」 連載 2007年 12月

2008-01-01 21:34:23 | アユの12ヶ月 川面からの記録
 今年の長良川は鮎が多かった。そして天然鮎の姿も多く見られた。その理由について、こんな説明をされる方がいらっしゃる。「今年は長良川河口堰が遡上時期に開いていたからだ」というものだ。

 もし、本当にそうならば、それは素晴らしいことだ。わたしもそう思う。田植えの時期で水が必要となる春先とは言わず、秋の産卵の季節に河口堰のゲートが開いていたら鮎の仔魚が容易に海に下ることができる。鮎の稚魚の遡上能力は他の魚と比較して高いので、長良川河口堰の魚道は致命的な障害にはならないだろうとわたしは考えている。もし、たくさんの仔魚が海に下れば、長良川に上ってくる鮎の数も随分と違っていただろうと、思っている。しかしながら、河口堰のゲートは大雨の時を除いて竣工以来閉められたままである。

 ではどうして今年の長良川に天然鮎が多かったのだろう。いろいろ、その理由は考えられるのだけけれど、伊勢湾・三河湾に注ぐ川では鮎が多かったという傾向はありそうだ。愛知の矢作川では600万とも800万尾とも鮎が遡上したと地元の方に伺った。

 思い当たるのは昨年の秋から今年の春にかけて、暖冬により海水温が高かったということだ。鮎は冬を海で過ごす。その季節が静穏であったことが生き残る稚鮎を多くしたという可能性がある。サツキマスや鮭などと違って、鮎は産卵した川に戻るという習性がないから、伊勢湾の稚鮎が多ければ、長良川に上ってくる鮎が多いことは容易に想像がつく、隣接する揖斐川や木曽川と比べ、上流にダムのない長良川は春先の水温上昇も早く水も澄んでいるのだから。

 久しぶりに鮎の多い長良川。今年の川をみてつくづく思ったことがあった。鮎のいる川は美しいということだ。もちろん、鮎が清流を好むということでもあるだけれど、その意味はもう一つある。鮎が清流を造っているということだ。

 「鮎は清流を造る」そう看破されたのは、愛媛大学名誉教授の水野信彦先生だ。研究室の扉にその文字が大きく印刷されたポスターが張ってあって、「どうだ新村君。いい文句だろう。ボクが考えたのだよ」とおっしゃっていた。これも先生の受け売りだが「鮎は1日で体重の1.3倍の藻類を食べる」「3ヶ月で30倍の重さに育つ」というくらい鮎は大食漢で、ひたすら藻類、つまりは岩の上のコケを食べて、川をきれいにしてくれる魚だ。

 そして、藻類の生長を助ける澄んだ水は上流にダムがないことの証でもある。清流・鮎・長良川。これらが三位一体となって長良川のブランドになっていたのだな。そう思ったこの1年であった。(了)

 
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