仮面ライダーディケイド、
いままでのあらすじ
「なんか爆発して、爆発したらいいなーと思いました。……作文!?」
俺たちがバイクによる移動を開始してから、およそ一時間。俺たちは海東から教えられた貸倉庫の前に到着していた。
「ここか……」
「いかにも、って感じだな」
そんな事を呟きながら、士さんとユウスケさんはバイクから降りる。俺と長門も、それに続いてバイクの後部座席から飛び降りた。
「キョンくん、長門さん、君たちはここで待っててくれ。俺たちが……」
ユウスケさんは俺たちの方に向き直り、ここに止まるよう指示を出すつもりだったようだ。
だがその言葉は、途中で遮られてしまう。
なぜかと言えば、倉庫の中から怪物の皆様がわらわらと出てきたからだ。
この程度の大きさの建物に、よくもまあこれだけ詰め込んだものだと言いたくなるような数の怪物が登場してくる。
日常生活では目にする事のない奇妙な姿の方々が勢揃いしているシーンは、俺の常識が激しく揺さぶられそうである。
「またわらわらと……。面倒だな」
愚痴を呟きつつ、士さんは再びベルトを腰に巻く。そして手にしたカードをベルトにセットしようとするが、何を思ったかそれをユウスケさんが手で制した。
「なんのつもりだ」
「たぶん、こいつらはただの前座だ。奥にはもっと強いやつが控えてるに違いない。
士はそいつに備えて、戦力を温存しておいてくれ。ここは、俺が引き受ける」
驚きを隠せない士さんに対して、ユウスケさんはきっぱりとそう言ってしまった。
たしかにユウスケさんが並大抵の強さでない事は、俺もこの目でしっかりと確認している。
だが、相手だって人間の域を超えているであろう化け物の皆さんだ。しかも、数が半端じゃない。
いくらユウスケさんでも、一人で相手するのは無理があると思うのだが……。というか、二人でも厳しいのではないだろうか。
「大丈夫、あれを使う」
俺の心配をよそに、ユウスケさんは自信満々に言った。
なんなんだ、その「あれ」っていうのは。この状況で自信を持てるほどすごいものなのか?
「あれか……。たしかにこの人数もなんとかなるだろうが……。制御できるのか?」
士さんは、「あれ」の正体を知っているらしい。期待半分、不安半分といった感じの表情である。
「心配無用さ。もうあの力は、完全に俺のものになってる」
親指を立てる仕草で、ユウスケさんはさらに自信をアピールする。だから、なんでそんなに強気なんだ。
「わかった。お前に任せるぞ、ユウスケ」
「ああ、いいところ見せてやるさ! 変身!」
俺の困惑をよそに、士さんとユウスケさんは二人で話を進めていた。そしてユウスケさんが、さっきのようにポーズを決める。
そしてやっぱり先程のように、ユウスケさんの外見が大きく変化した。
と思っていたのだが、その時起きた出来事に俺は思わず間抜けな声を漏らしてしまっていた。
たしかに基本的な姿は、さっきあの人がした変身と同じだった。
だが、まばゆい。まばゆすぎる。それもそのはず、赤が大部分を占めていたはずのその体は、黄金に輝いていたのである。
頭の角も以前より大きくなっているようで、豪華さの演出に一役買っている。
「なんじゃありゃ……」
「仮面ライダークウガ・ライジングアルティメット。あれがユウスケの持つ、最強の力だ」
開いた口がふさがらないでいた俺に、士さんがご丁寧に解説してくれた。
「ライジングアルティメット」とはまたハルヒと趣味が合いそうなネーミングであるが、この際それは重要ではない。
「強いんですね?」
「ああ、強い」
俺の問いに士さんが答えるのとほぼ同時に、爆発音が上がる。
見るとユウスケさんが手から謎のビームを発射し、怪物の皆さんを手当たり次第になぎ倒しているではないか。
朝比奈さんのビームもあれはあれで恐ろしかったが、攻撃範囲が広い上に連射可能とあってすさまじい戦果を上げている。
これはたしかに強い。あれだけの自信を持てるのもうなずけるというものだ。
この人が敵でなくてよかったと、心の底から思わざるをえない。
「今だ! 行け、士!」
「わかってる! 後は任せたぞ、ユウスケ!」
ユウスケさんのビーム乱れ撃ちで出来たスペースに、士さんは陸上選手もかくやというダッシュで駆け込む。
そういう俺も、士さんと同じく貸倉庫の入り口目がけて突き進んでいた。
もっとも俺の場合は、長門に手を取られて引っ張られているのと言うのが格好の付かない点なのだが。
「なんだ、お前たちも来るのか?」
「ここは乱戦になる。むしろ建物の中に入った方が、あなたも守りやすい」
「なるほど、それもそうか」
当然の疑問を俺たちに投げかけてくる士さんであったが、長門の返答であっさり納得してしまう。
いちおう俺たちの命を預かってる身として、そう簡単に認めてしまっていいのであろうか。
とは言っても、そちらの方が俺としてはありがたい。
この状況下で、とてもおとなしく正義の味方のお帰りを待っている気にはなれなかったからな。
まあ何度も確認しているとおり、俺ごときが行ったところで何の役にも立たない事は間違いない。
だがどういうわけか、俺の本能は行かなければならないと告げている。
まさか偉大なる団長様をこの手で助けなければならないなどと、義憤に駆られているわけでもあるまい。
そこまでSOS団に忠誠を誓った覚えはない。
まあここまで来て引き返すわけにもいかないだろう。今ひとつすっきりしないものはあるが、このまま突撃するべきなのだろうな。
そんなわけで頭の中で下手の考え休むに似たりを地でいく思考を巡らしながら、俺は士さんや長門と共に貸倉庫の中へ足を踏み入れたのであった。
◇ ◇ ◇
「貴様は……門矢士!」
「お前たちは……たしかドクトルGとカイだったか?」
倉庫への突入を敢行した俺たちを待ちかまえていたのは、豪勢な兜を付けたひげ面のおっさんといかにも逆上するとたちが悪そうな面構えをしたお兄さん、そして粗末なベッドに寝かされたハルヒだった。
ハルヒは意識がないらしく、俺たちが突入してもまったく反応を示していない。
「なぜだ! なぜ貴様がここにいる!」
「悪のあるところ、仮面ライダーは必ず現れる。そういう事だ。さあ、観念してそのハルヒとかいうのを返してもらおうか」
「おのれ、こうも早く仮面ラーイダに発見されるとは……」
「だから俺は、もっとわかりにくいアジトにした方がいいって言ったんだよ……」
うむ、実にわかりやすい正義の味方と悪の幹部の会話だ。などと一人で納得している場合ではない。
俺はほんのわずかだけ我が心の内にある勇気を振り絞って、士さんがドクトルGと呼んだおっさんに話しかけてみる事にした。
「おい、おっさん! ハルヒをさらってどうしようっていうんだ?
そいつはおっさんたちの役に立つような人間じゃないと思うんだが?」
「どうするかだと? 知れた事! こやつが持つ力は、神にも等しきもの!
この力を利用して、大ショッカーの再建を為す! そして、全ての世界を手中に収めるのだ!」
いい歳した大人が「全ての世界を手中に収める」などと真顔でほざいているのは正直どうかと思うのだが、彼にとってはそれが当たり前の事なのだろう。
住む世界が違えば、常識も違う。異文化交流とはかくも難しきものである。
いや、だからそんな事を考えている場合ではないのだ。
「悪いが、それは無理ってもんだ。ハルヒは自分の力の事なんかこれっぽっちも気づいてない。
仮にそれを自覚させる事に成功したとしても、自分を無理矢理さらった人間の要求に従うようなやつじゃないぜ、そいつは」
「ふん、その程度障害になどならぬわ!」
親切心に溢れた俺の忠告を、おっさんは鼻で笑いやがった。
当然俺としてもそれなりの怒りを覚えたわけだが、続くおっさんの一言はそんな些細な怒りなど吹き飛ばすようなものだった。
「こいつには改造手術を行い、我が大ショッカーに仕える怪人となってもらう。
脳を改造してしまえば、我々の命令に忠実に従う操り人形にするなど造作もない事だ」
怪人……? 脳を改造……? つまりは何か? ハルヒを現在進行形でユウスケさんにぶっ飛ばされている皆様の仲間にしてしまおうって話か?
その話を聞いた俺の胸には、たとえようのない激情が湧き上がってきていた。
そしてその激情は、まっすぐにおっさんに向かって突進するという愚行を俺に取らせてしまったのである。
後から冷静になって考えてみればなぜそこまで感情的になってしまったのかはよくわからないのだが、やってしまったものはもうどうしようもない。
一直線に突っ込んでくるただの男子高校生など、おっさんからしたら格好の的だったのだろう。
おっさんは手にしていた斧を、俺目がけて投擲した。鋭利な刃が、回転しながら俺の顔面に迫る。
やばい、死ぬ。
俺の凡庸な脳みそでは、この危機にもそんな当たり障りのない事しか考えられなかった。
そんな役に立たない俺を守ろうと、長門が俺の前に飛び出す。
その律儀さには感謝の言葉をいくら並べても足りないと言えよう。しかし今回に関しては、長門の献身は意味をなさなかった。
長門が何かをする前に、どこからともなく飛来した銃弾に斧が撃ち落とされたからである。
「まったく、危なっかしいなあ、君は。僕がいたことに感謝したまえ」
高い位置から、心理的にも上から目線と思われる声が聞こえてきた。
声の方向を見ると、そこには例の趣味がいいとは言えないヒーロー姿になった海東が立っていたのであった。
ちょっと待て、こいつ「来ない」と言っていなかったか?
「海東、なんでお前がいるんだ?」
士さんも俺と同じ事に思い至ったのだろう。憮然とした表情で、海東に尋ねる。
「来ないと思わせておいて、ここ一番で登場する。かっこいいだろ?」
海東の回答……いや別にダジャレではないのだが、とにかくやつの答えはふざけているとしか思えないものであった。
少なからず不快感は感じているのだが、いちおう命を助けられた手前ストレートに罵倒するわけにはいかない。
ここでの俺はとりあえず、沈黙という選択肢を選ぶ事で場を荒れさせない事を選んだ。
まあ無難な判断と言えるだろう。
「おのれ、ディエンドまで現れるとは……。表の連中は何をやっている!」
「怪人たちなら、クウガに圧倒されてるよ。あの調子なら、後10分もすれば全滅じゃないかなあ」
マジか!? ユウスケさんすげえ!!
「クッ、あの役立たずどもが……」
「あーあー、こりゃやばい状況だねえ。ここまで追いつめられるとさすがに不愉快だぜ。
なあ、俺ってそういう顔してるだろ?」
「貴様の顔など知った事か!」
この危機的状況を前にして、悪の幹部二人は仲違いとも取れる会話を繰り広げ始めた。
あれ? ひょっとしてこれってハルヒを奪い返すチャンスなのか?
「さて、それじゃあさっさと片づけようか。僕が援護するから、突撃してくれ、士」
俺がそんな事を考えている間に、いつの間にか海東は階段を降りてすぐそこにまで来ていた。
海東の言葉に対し士さんは無言でうなずくと、ベルトとカードを取り出す。
『KAMEN RIDE DACADE』
「変身!」
ベルトから流れる電子音声と士さんの声が重なり、再びあの奇抜な鎧が彼の体を覆っていく。
何回見ても強烈なインパクトだが、まあそれはこの際置いておこう。
というか、さっきから俺はなぜこうも余計な事ばかり考えてしまうのだろうか。
「ふん、このドクトルGを舐めるなよ、ラーイダども!」
一方のおっさんは、何を考えているのか突然蟹とレッサーパンダのぬいぐるみを取り出した。
追いつめられて奇行に走ったのかとも思ったが、真剣な表情を見るとそういうわけでもないらしい。
「蟹、レッサー……。カニレーザー!!」
気合いの入った叫びと共に、おっさんの姿は化け物へと変貌を遂げた。
なるほど、「変身」が出来るのはヒーローだけではないという事か。
まあ変身と言っても顔が蟹の化け物になっただけで、首から下は先程までとほとんど変わっていないのだが。
何とも微妙な変化といえよう。もっともこれまでさんざん怪物を見せつけられてこなかったら、その異形に恐れおののいて硬直していたのだろうが。
しかしそれはあくまで仮定の話であって、実際の俺は恐れおののいてなどはいない。
そうは言っても、だからといって警戒心がないわけでもない。
こいつらがどれだけ俺の常識を超越した存在であるかは、これまでに充分学習しているからだ。
すでに頭に上った血は降りてきている。もう無策で突っ込むなどという愚行は犯すまい。
ここは士さんたちに戦ってもらっている間に、なんとか隙を見てハルヒを奪還するのが上策というものだろう。
などと思考している間に、士さんはカニレーザーとやらに向かって走り出していた。
しかしカニレーザーの頭部から発射されたレーザー光線が、その進路を阻む。
なるほど、カニレーザーだからレーザーを撃てるわけか。理にかなっていると言えるだろう。
これが頭に水鉄砲でも付いていたのなら、そいつはカニレーザーではなくカニ水鉄砲と名乗らなければなるまい。
いや、だからそんな与太話に思考を割いている場合ではないだろう、俺!
「そう貴様らの都合のいいようにはさせぬわ! カイ! 貴様は涼宮ハルヒを連れて逃げろ。
こいつらの足止めは私が引き受ける」
「あっそう。それじゃあ、そうさせてもらおうかな」
蟹の言う事にあっさりと従い、カイと呼ばれた青年は未だ気絶したままのハルヒを担いでその場から立ち去ろうとする。
ふざけるな、そんなことさせてたまるか!
再び頭に血が上りそうになった俺であるが、完全に上りきる前にこちらサイドに動きがあった。
動いたのはこの男、海東だ。
「僕たちが、みすみす逃走を許すと思うのかい?」
相変わらずの癇に障る口調で喋りながら、海東は手にした銃に一枚のカードをセットした。
『KAMEN RIDE KIVA』
士さんのベルトと同じものと思われる電子音声が響き、海東の銃から光が放たれた。
そしてその光は……ちょっと待て、なんでこっちに向かって……! うおお!!
「な、なんだ? 当たったと思ったら、痛くも何とも……」
謎の現象にぶち当たり、俺は狐につままれたような気分になっていた。
だがそんな気分になっていたのは俺だけではなかったようで、周囲も何やら不思議なものを見る目で俺を見ている。
「馬鹿な……。こんな事が起きるはず……」
海東でさえ、動揺をあらわにして呟いている。ええい、どういう事だ! 俺にいったい何が起きている!
「あれ……」
長門が、倉庫内のある一点を指さす。そこには、大きめの鏡が無造作に放置されていた。
なるほど、あれに俺の姿を映して見ろという事だな。
さっそく俺は、鏡に自分の姿を映るよう位置を調整する。
その結果、俺は我ながら情けないと思える声をあげてしまう事となった。
「な……なんだこりゃあ!」
鏡に映ったもの。それは、士さんやユウスケさんのような「仮面ライダー」になってしまった俺の姿だった。
Bパートに続く