注意:残虐描写が含まれます
A-3。ここに顔の下半分を覆面で覆い隠した、怪しい男がいた。
彼の名は、犬山道節。聖女・伏姫に導かれた八犬士の一人であり、「自称」忍者である。
「くだらん……」
誰に聞かせるでもなく、道節は呟いた。彼は、このバトルロワイアルという催しに一切の興味を抱いていなかった。
最初に集められた部屋で何人か犬士の仲間を見つけたが、知ったことではない。
(あいつらなら、放っておいてもどうにかするだろう。俺はさっさと帰らせてもらう)
道節の体が、ずぶずぶと地面に沈み込んでいく。これぞ「亜空間ワープ」。
影に潜り、別の影から姿を現す道節の得意技である。技と言っていいものかは微妙だが。
とにかく、道節はこの能力により殺し合いの舞台を去った……つもりだった。
だが彼が次に姿を現したのは、最初にいた地点から数百メートルしか離れていない木の陰だった。
「なんだと……?」
予想外の事態に、道節は思わず言葉を漏らす。
彼がこの会場から脱出できなかったのはティレクによって亜空間ワープの力が大幅に弱められていたからなのだが、それを彼が知る方法はない。
絶対の自信を抱いていたおのれの力の不調に、道節は大きく動揺していた。
そのために、彼は背後から襲い来る存在に気づくのが遅れた。
「!!」
彼の右肩を、強い衝撃が襲う。攻撃に対する覚悟ができていなかった道節は、そのまま地面に倒れ込んだ。
だが彼も、八犬士の端くれ。すぐさま体勢を立て直し、攻撃が来た方向へ視線を向ける。
「貴様は……!」
自分に一撃を加えた存在を確認して、道節は眉間にしわを寄せる。
そこにいたのは、黒い服に身を包んだ一人の女性だった。
美しいと言って差し支えない顔立ちだが、道節はそんなものに気を取られてはいない。
道節が見ていたのは、彼女の額。人間にはあるはずのない、第三の目だった。
「妖怪か……」
「妖怪? ああ、人間たちから見た我々の呼称には、そのようなものもあったな」
目に冷たい光を宿し、淡々とした口調で女性は言葉を返す。
「我が名は魔界親衛隊長、三眼のランス。我が主君吉田カオル様のために、貴様には死んでもらう!」
叫びと同時に、ランスと名乗った女性の額からまっすぐに光線が放たれる。道節はとっさに跳び退き、それを回避。
光線は地面に突き刺さり、土埃をあげる。
(さっきの一撃はこれか!)
道節が理解するや否や、また新たな光線が道節目がけ飛んでくる。道節は大きく上に跳んでそれを避け、木の枝に着地した。
「あまり調子に乗るなよ。妖怪が相手ならば、こちらも容赦せん!」
木の上で、道節は胸の装甲板を開く。その下に隠された砲口から、彼はミサイルを発射しようとする。
だが、ミサイルは発射されない。「しない」のではない。「できない」のだ。
(馬鹿な……。まさか!)
慌てて、自分の状態を確かめる道節。その結果、彼は自分の現状が恐れていたとおりであることに気づく。
ミサイルの残弾はゼロ。腕から射出する針も装填されていない。体内に収納されているはずの分身・ミニ道節もなければ、最強の武器である「火遁一号」の弾丸もない。
(弾薬の類は全て取り除かれているということか……。おのれぇぇぇぇぇ!!)
おそらくそれを行ったであろう主催者に対し、道節は怒りを募らせる。だがそんな事情は、対峙するランスにとって知ったことではない。
「どうした? 反撃してこないのならば続けていくぞ!」
ランスがまたしても放った光線が、道節のいる枝を焼く。だがその時にはすでに、道節は空中に逃れていた。
(弾を使うだけが俺の技ではない! 目からビームが貴様だけの得意技と思うなよ!)
宙を舞う道節の目に、不自然な光が宿る。その直後、その目から二筋の光線が放出された。
「何!?」
思わぬ反撃に、ランスの反応が遅れる。とっさに身をよじって直撃は回避したランスだが、完全には避けられず脇腹を少し焼かれてしまった。
「ちっ、私としたことが……。貴様も同類だったか!」
近くに着地した道節をにらみつけながら、ランスは叫ぶ。その言葉に、道節は怒りをあらわにする。
「この俺を、妖怪と一緒にするな!」
叫び返しながら、道節は右手をかざした。すると手が腕の中に収納され、代わりにそこから輝く長剣がせり出してくる。
「だったら、なぜそんな人間離れしたことができる!」
「忍者だからだ!」
「そんな忍術聞いたことがないぞ!」
「忍術に不可能はない!」
接近戦を行いながら、同時に二人は言葉もぶつけ合う。
もっとも接近戦とはいっても、ランスはそれに向いた武器を支給されていないがゆえに道節が一方的に攻撃しているのだが。
本来剣士であるランスは、道節の太刀筋を見切り回避を続ける。しかし攻撃をしないのでは、いずれ追いつめられるであろうことは自ずと明らかだ。
(このままでは勝ち目はない……。だが距離を取ったところで、飛び道具はあちらにもある。どうすれば……)
劣勢を覆すためには、どうすればいいか。ランスは考える。その時、一瞬ではあるが彼女の動きが鈍る。
その隙を、道節は見逃さなかった。
「もらった!」
一閃。
血しぶきが上がり、ランスの体が崩れ落ちる。
「くっ……。うう……」
「まだ息があったか。俺は妖怪相手に情けをかけるほど甘くはない。しっかりと止めを刺してやるから、待っていろ」
必死に体を起こそうとするランスに、道節は一切の情けを見せることなく剣を振り下ろそうとする。
だがその瞬間、ランスの体が爆発的に躍動する。その両手は道節の右腕をつかみ、自分に剣が振り下ろされるのを阻止する。
「なに!?」
「こんなところで……」
驚く道節をよそに、ランスは息も絶え絶えに呟く。
「死んでたまるかー!」
そして絶叫と共に、道節の体を投げ飛ばした。
「ハア、ハア……。私は……まだ死ねないんだ!」
生への執着を、ランスはためらわず声に出す。
自分はまだ死ねない。忠義を誓った彼を、この殺人遊戯から解放するまでは。
彼以外の参加者を全て打ち倒し、彼を優勝させるまでは。
「死ね……ないんだーっ!」
魂を振り絞るような叫びと共に、ランスは体を起こそうとする道節の顔面を殴りつける。
だが、道節もこの程度で倒れるような柔な男ではない。
「貴様の事情など知ったことか!」
道節の胸が開き、そこからグローブをはめたマジックハンドが飛び出す。それはランスの胸に刻まれた傷を、したたかに打ち付けた。
「がはっ!」
冗談にしか見えないような攻撃でも、今のランスにとっては笑っていられないダメージだ。
傷口から血をまき散らしながら、ランスは後ずさる。だが、決して膝はつかない。
「……ッ!」
歯を食いしばりながら、ランスは額の第三の目からビームを放つ。だがランス本人のダメージが反映されているのか、そのビームに勢いはない。
道節はたやすくビームを回避し、ランスとの距離を今一度詰めるべく一歩を踏み出す。
その直後、道節の胸を「もう一つの光線」が貫いた。
(何……?)
後ろに向かって倒れながら、道節はしっかりと見た。ランスの手に握られた、一丁の銃を。
「一撃目は……囮か……」
「ああ、ビームを撃てる私が光線銃を持っていても役に立たないと思っていたが……。こういう使い方もあるのだな。とっさに思いついて助かった」
「助かっただと……? この程度で勝ったつもりか!」
頭だけを起こし、ランスに向かってビームを発射しようとする道節。だがビームが放たれるよりも一瞬早く、ランスの銃が放った光線が道節の額を貫いた。
「は……ま……じ……」
最愛の妹の名前を呟いたのを最後に、道節は動かなくなる。だが、ランスはそれでも気を緩めない。
銃口を道節の頭に密着させ、今一度引き金を引く。さらに銃口の位置をずらし、もう一度。
それを何度も繰り返し、道節の顔を穴だらけにしたところでようやくランスはその手を止める。
(終わったか……)
道節が完全に死んだことを確認し、ランスは安堵の溜め息を漏らす。
同時に緊張が解けたことで、極度の集中で和らいでいた痛みが一気に襲ってくる。
その痛みで倒れそうになるランスだが、どうにか踏みとどまった。
(傷は決して浅くない……。今後問題なく行動するためには、治療を施す必要があるな。
たしか病院があったはず……。おそらく都合よく医者がいることはないだろうから、応急処置ぐらいしかできないだろうが……。
それでも何もしないよりはましだ)
病院の位置を確認するべく、ランスは自分の荷物から地図を取り出してそれを眺める。
(あった、D-1か。遠くはないが、かといって近くもないか。そこにつくまで、この男のような手練れと会わないことを祈るしかないな)
そんなことを考えつつ、ランスは道節が身につけていたマントをはぎ取り、包帯代わりに傷口に巻き付ける。
衛生面を考えればベストな選択とは言い難いが、まず出血を抑えることを優先したための選択である。
作業を終えた彼女は、今度は道節が残した荷物に使えるものがないか調べ始めた。
(死体の荷物あさりか……。魔界の親衛隊長ともあろうものが、地に落ちたものだ)
自嘲の笑みを浮かべながらも、ランスは手を休めない。やがて、彼女は一振りの日本刀を見つけ出した。
(悪くないな……)
その日本刀を、腰に差すランス。ついでに行きがけの駄賃とばかりに、道節の荷物を全て自分のデイパックに移す。
作業を全て終えると、彼女は立ち上がりふらつく足取りで歩き始めた。
(道は険しいが……。やらなければならない。全ては、魔王カオル様のために!)
狂的なまでの忠誠心を胸に、ランスは進む。敬愛して止まない、主君のために。
【犬山道節@里見☆八犬伝 死亡】
【残り47人】
【一日目 深夜 A-3 平原】
【ランス@それじゃあ吉田くん!】
【状態】上半身に刀傷、左脇腹に火傷
【装備】光線銃@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル、蒼氷@ツバサ
【道具】支給品一式×2、不明支給品0~4
【思考】
基本:吉田以外の参加者を皆殺しにし、吉田を優勝させる
1:病院に向かい、怪我を治療する
※単行本2巻終了後からの参戦です。
※支給品紹介
【光線銃@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル】
CLAMP学園に潜伏した宇宙犯罪者が、ユウキを襲撃した時に用いた武器。
鉄の扉を貫通するレベルの威力がある。
【蒼氷@ツバサ】
桜都国で黒鋼が購入した長刀。特殊な力はないが、黒鋼の全力戦闘に耐えられる銘刀である。
前の話
次の話
A-3。ここに顔の下半分を覆面で覆い隠した、怪しい男がいた。
彼の名は、犬山道節。聖女・伏姫に導かれた八犬士の一人であり、「自称」忍者である。
「くだらん……」
誰に聞かせるでもなく、道節は呟いた。彼は、このバトルロワイアルという催しに一切の興味を抱いていなかった。
最初に集められた部屋で何人か犬士の仲間を見つけたが、知ったことではない。
(あいつらなら、放っておいてもどうにかするだろう。俺はさっさと帰らせてもらう)
道節の体が、ずぶずぶと地面に沈み込んでいく。これぞ「亜空間ワープ」。
影に潜り、別の影から姿を現す道節の得意技である。技と言っていいものかは微妙だが。
とにかく、道節はこの能力により殺し合いの舞台を去った……つもりだった。
だが彼が次に姿を現したのは、最初にいた地点から数百メートルしか離れていない木の陰だった。
「なんだと……?」
予想外の事態に、道節は思わず言葉を漏らす。
彼がこの会場から脱出できなかったのはティレクによって亜空間ワープの力が大幅に弱められていたからなのだが、それを彼が知る方法はない。
絶対の自信を抱いていたおのれの力の不調に、道節は大きく動揺していた。
そのために、彼は背後から襲い来る存在に気づくのが遅れた。
「!!」
彼の右肩を、強い衝撃が襲う。攻撃に対する覚悟ができていなかった道節は、そのまま地面に倒れ込んだ。
だが彼も、八犬士の端くれ。すぐさま体勢を立て直し、攻撃が来た方向へ視線を向ける。
「貴様は……!」
自分に一撃を加えた存在を確認して、道節は眉間にしわを寄せる。
そこにいたのは、黒い服に身を包んだ一人の女性だった。
美しいと言って差し支えない顔立ちだが、道節はそんなものに気を取られてはいない。
道節が見ていたのは、彼女の額。人間にはあるはずのない、第三の目だった。
「妖怪か……」
「妖怪? ああ、人間たちから見た我々の呼称には、そのようなものもあったな」
目に冷たい光を宿し、淡々とした口調で女性は言葉を返す。
「我が名は魔界親衛隊長、三眼のランス。我が主君吉田カオル様のために、貴様には死んでもらう!」
叫びと同時に、ランスと名乗った女性の額からまっすぐに光線が放たれる。道節はとっさに跳び退き、それを回避。
光線は地面に突き刺さり、土埃をあげる。
(さっきの一撃はこれか!)
道節が理解するや否や、また新たな光線が道節目がけ飛んでくる。道節は大きく上に跳んでそれを避け、木の枝に着地した。
「あまり調子に乗るなよ。妖怪が相手ならば、こちらも容赦せん!」
木の上で、道節は胸の装甲板を開く。その下に隠された砲口から、彼はミサイルを発射しようとする。
だが、ミサイルは発射されない。「しない」のではない。「できない」のだ。
(馬鹿な……。まさか!)
慌てて、自分の状態を確かめる道節。その結果、彼は自分の現状が恐れていたとおりであることに気づく。
ミサイルの残弾はゼロ。腕から射出する針も装填されていない。体内に収納されているはずの分身・ミニ道節もなければ、最強の武器である「火遁一号」の弾丸もない。
(弾薬の類は全て取り除かれているということか……。おのれぇぇぇぇぇ!!)
おそらくそれを行ったであろう主催者に対し、道節は怒りを募らせる。だがそんな事情は、対峙するランスにとって知ったことではない。
「どうした? 反撃してこないのならば続けていくぞ!」
ランスがまたしても放った光線が、道節のいる枝を焼く。だがその時にはすでに、道節は空中に逃れていた。
(弾を使うだけが俺の技ではない! 目からビームが貴様だけの得意技と思うなよ!)
宙を舞う道節の目に、不自然な光が宿る。その直後、その目から二筋の光線が放出された。
「何!?」
思わぬ反撃に、ランスの反応が遅れる。とっさに身をよじって直撃は回避したランスだが、完全には避けられず脇腹を少し焼かれてしまった。
「ちっ、私としたことが……。貴様も同類だったか!」
近くに着地した道節をにらみつけながら、ランスは叫ぶ。その言葉に、道節は怒りをあらわにする。
「この俺を、妖怪と一緒にするな!」
叫び返しながら、道節は右手をかざした。すると手が腕の中に収納され、代わりにそこから輝く長剣がせり出してくる。
「だったら、なぜそんな人間離れしたことができる!」
「忍者だからだ!」
「そんな忍術聞いたことがないぞ!」
「忍術に不可能はない!」
接近戦を行いながら、同時に二人は言葉もぶつけ合う。
もっとも接近戦とはいっても、ランスはそれに向いた武器を支給されていないがゆえに道節が一方的に攻撃しているのだが。
本来剣士であるランスは、道節の太刀筋を見切り回避を続ける。しかし攻撃をしないのでは、いずれ追いつめられるであろうことは自ずと明らかだ。
(このままでは勝ち目はない……。だが距離を取ったところで、飛び道具はあちらにもある。どうすれば……)
劣勢を覆すためには、どうすればいいか。ランスは考える。その時、一瞬ではあるが彼女の動きが鈍る。
その隙を、道節は見逃さなかった。
「もらった!」
一閃。
血しぶきが上がり、ランスの体が崩れ落ちる。
「くっ……。うう……」
「まだ息があったか。俺は妖怪相手に情けをかけるほど甘くはない。しっかりと止めを刺してやるから、待っていろ」
必死に体を起こそうとするランスに、道節は一切の情けを見せることなく剣を振り下ろそうとする。
だがその瞬間、ランスの体が爆発的に躍動する。その両手は道節の右腕をつかみ、自分に剣が振り下ろされるのを阻止する。
「なに!?」
「こんなところで……」
驚く道節をよそに、ランスは息も絶え絶えに呟く。
「死んでたまるかー!」
そして絶叫と共に、道節の体を投げ飛ばした。
「ハア、ハア……。私は……まだ死ねないんだ!」
生への執着を、ランスはためらわず声に出す。
自分はまだ死ねない。忠義を誓った彼を、この殺人遊戯から解放するまでは。
彼以外の参加者を全て打ち倒し、彼を優勝させるまでは。
「死ね……ないんだーっ!」
魂を振り絞るような叫びと共に、ランスは体を起こそうとする道節の顔面を殴りつける。
だが、道節もこの程度で倒れるような柔な男ではない。
「貴様の事情など知ったことか!」
道節の胸が開き、そこからグローブをはめたマジックハンドが飛び出す。それはランスの胸に刻まれた傷を、したたかに打ち付けた。
「がはっ!」
冗談にしか見えないような攻撃でも、今のランスにとっては笑っていられないダメージだ。
傷口から血をまき散らしながら、ランスは後ずさる。だが、決して膝はつかない。
「……ッ!」
歯を食いしばりながら、ランスは額の第三の目からビームを放つ。だがランス本人のダメージが反映されているのか、そのビームに勢いはない。
道節はたやすくビームを回避し、ランスとの距離を今一度詰めるべく一歩を踏み出す。
その直後、道節の胸を「もう一つの光線」が貫いた。
(何……?)
後ろに向かって倒れながら、道節はしっかりと見た。ランスの手に握られた、一丁の銃を。
「一撃目は……囮か……」
「ああ、ビームを撃てる私が光線銃を持っていても役に立たないと思っていたが……。こういう使い方もあるのだな。とっさに思いついて助かった」
「助かっただと……? この程度で勝ったつもりか!」
頭だけを起こし、ランスに向かってビームを発射しようとする道節。だがビームが放たれるよりも一瞬早く、ランスの銃が放った光線が道節の額を貫いた。
「は……ま……じ……」
最愛の妹の名前を呟いたのを最後に、道節は動かなくなる。だが、ランスはそれでも気を緩めない。
銃口を道節の頭に密着させ、今一度引き金を引く。さらに銃口の位置をずらし、もう一度。
それを何度も繰り返し、道節の顔を穴だらけにしたところでようやくランスはその手を止める。
(終わったか……)
道節が完全に死んだことを確認し、ランスは安堵の溜め息を漏らす。
同時に緊張が解けたことで、極度の集中で和らいでいた痛みが一気に襲ってくる。
その痛みで倒れそうになるランスだが、どうにか踏みとどまった。
(傷は決して浅くない……。今後問題なく行動するためには、治療を施す必要があるな。
たしか病院があったはず……。おそらく都合よく医者がいることはないだろうから、応急処置ぐらいしかできないだろうが……。
それでも何もしないよりはましだ)
病院の位置を確認するべく、ランスは自分の荷物から地図を取り出してそれを眺める。
(あった、D-1か。遠くはないが、かといって近くもないか。そこにつくまで、この男のような手練れと会わないことを祈るしかないな)
そんなことを考えつつ、ランスは道節が身につけていたマントをはぎ取り、包帯代わりに傷口に巻き付ける。
衛生面を考えればベストな選択とは言い難いが、まず出血を抑えることを優先したための選択である。
作業を終えた彼女は、今度は道節が残した荷物に使えるものがないか調べ始めた。
(死体の荷物あさりか……。魔界の親衛隊長ともあろうものが、地に落ちたものだ)
自嘲の笑みを浮かべながらも、ランスは手を休めない。やがて、彼女は一振りの日本刀を見つけ出した。
(悪くないな……)
その日本刀を、腰に差すランス。ついでに行きがけの駄賃とばかりに、道節の荷物を全て自分のデイパックに移す。
作業を全て終えると、彼女は立ち上がりふらつく足取りで歩き始めた。
(道は険しいが……。やらなければならない。全ては、魔王カオル様のために!)
狂的なまでの忠誠心を胸に、ランスは進む。敬愛して止まない、主君のために。
【犬山道節@里見☆八犬伝 死亡】
【残り47人】
【一日目 深夜 A-3 平原】
【ランス@それじゃあ吉田くん!】
【状態】上半身に刀傷、左脇腹に火傷
【装備】光線銃@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル、蒼氷@ツバサ
【道具】支給品一式×2、不明支給品0~4
【思考】
基本:吉田以外の参加者を皆殺しにし、吉田を優勝させる
1:病院に向かい、怪我を治療する
※単行本2巻終了後からの参戦です。
※支給品紹介
【光線銃@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル】
CLAMP学園に潜伏した宇宙犯罪者が、ユウキを襲撃した時に用いた武器。
鉄の扉を貫通するレベルの威力がある。
【蒼氷@ツバサ】
桜都国で黒鋼が購入した長刀。特殊な力はないが、黒鋼の全力戦闘に耐えられる銘刀である。
前の話
次の話