人気のない町並みを、一人の少女が歩いている。
彼女の名は泉こなた。小学生といってもまったく違和感のない容貌の持ち主だが、実際には高校生である。
「それにしてもまいったねえ。まさか拉致されて殺し合いに参加させられるなんて非現実的なこと、実際に起きるとは考えてもみなかったよ」
独り言の内容の割には、彼女の顔はそれほど深刻そうには見えない。
彼女は身長が低いうえに最初の広間で後ろのほうに配置されていたため、キン肉スグルが殺される瞬間を直接見てはいなかった。
ただ、血しぶきが上がったのを確認しただけだ。
そのせいもあってか殺し合いという現状を理解はしつつも、どうしても実感が湧いてこないのだ。
(人殺しなんてしたくないし、どうしようかなあ……。とりあえず、みゆきさんかななこ先生を捜そうか。
あの二人なら、人殺しなんかせずに帰れる方法を思いつくかも知れないし)
この殺し合いに呼ばれている、彼女の知人は二人。二人しかいないというべきか、二人もいるというべきか。
とにかく、こなたは彼女たちとの合流を当面の目標に定めた。そしてやってきたのは、自分のスタート地点から一番近い施設。
「都庁って書いてあったからもしかしてと思ったけど……。本当に東京都庁だねえ……」
目の前にある建物……「都庁」を見上げながら、こなたは呟く。
二つのビルが並び立つ、特徴的な姿。埼玉県民である彼女でも知っている、東京都庁そのものだ。
しかしその建物は、彼女が知っている都庁とは大きく異なる点があった。
「けど、都庁ってこんなにボロボロだったっけ……。まあいいや、とりあえず入ってみよう」
自らが覚えた違和感を気にすることなく、こなたはその中に足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
荒れ果てた都庁の内部。そこに、一人の少女が座っていた。
まるで人形のように整った美貌の持ち主である彼女の名は、タリア。
大国シトラネウスの王女であり、同時に優れた魔術師でもある。
(いったい、どういうことなのでしょう……)
その美しい顔に憂いの表情を浮かべながら、タリアは溜め息を漏らす。
理解不能。彼女の思考を一言で表せば、こういうことになる。
あの人畜無害であったティレクが、自分たちに殺し合いをさせようとしている。しかも、自分の世界に帰ったはずの由真まで再び呼び寄せて。
何がどうなれば、こうなるというのだろうか。占いでヒントをつかもうにも、今の自分には水晶玉も沈黙の首輪もない。
(まあ、これが私のところに来たのは不幸中の幸いと言えるのでしょうけど……)
タリアは、自分の指にはまった指輪を見つめる。それは「真氷の指輪」。
タリアが本来所持する沈黙の首輪と同じく、魔神の復活と封印を司る六つの秘宝のうちの一つだ。
タリアは虚弱体質を、秘宝の魔力を体力に変換することで補っている。
それ故秘宝を手放すと一気に体力の消耗が激しくなってしまうのだが、とりあえず今のところはその心配はなさそうだ。
(さて……。この場で私はどうするべきなのでしょう……。原因がわからないとはいえ、殺し合いが始まってしまったことは事実……)
顔の前で手を組み、タリアは思考の海に沈んでいく。
(ここはやはり、旦那様を最後の一人まで生き残らせるというのが最善の策でしょうね……。
旦那様なら、きっとティレク様に願って死んだ者全てを生き返らせてくれるはず。
万が一旦那様が志半ばで命を落とされた場合は、私かムニ様が生き残れば……。
リンダさんの場合は……まあ、少なくとも旦那様は蘇生してくださるでしょう。
旦那様さえいれば、後はあの方がどうにかしてくださるはず……)
タリアの出した結論は、旦那様……すなわち由真を生き残らせるということ。
それが駄目でもデルトリアの力を知る仲間たちの誰かが生き残れば、全てを元通りにすることが出来る。
問題は、デルトリアの力を私利私欲に使おうとする人間が生き残ってしまった場合だ。
そうなれば、復活など夢のまた夢となってしまう。
(ならば、私は私利私欲に走りそうな人間を処分する役割に回りましょう……。
旦那様、この手を汚すタリアをお許しくださいませ。全ては大義のためでございます)
誰もいないというのに、泣き真似をしてみせるタリア。少々自分の世界に入ってしまっているようである。
(しかし、私の力ではそう簡単に他の方を殺せないでしょうね……。真氷の指輪で凍らせるにしても、私は戦いに関しては素人ですし……。
旦那様のように戦いに慣れている方と正面からぶつかったのでは、勝ち目はないでしょう。
……そうですわ。誰か仲間を作って、その方に戦っていただけばいいのです。
その方が亡くなられたら、また他の仲間を見つければいい。どうせ最後には生き返らせるのですから、恨まれる筋合いもありませんし。
うん、名案ですわ!)
無意識に、黒い笑みを浮かべるタリア。その直後、彼女の耳にかわいらしい声が届いた。
「誰かいませんかー?」
◇ ◇ ◇
数分後、タリアと声の主……こなたは、並んで言葉を交わしていた。
「へー、タリアさんってお姫様なんだ。すごいなー。私、本物の王族なんて初めて見たよ」
「うふふ、そんなたいしたものではありませんわ」
目を輝かせるこなたに対し、タリアは口元を押さえて笑う。
それまでの会話はほんのわずかなものだったが、それだけでタリアはこなたが無害な存在であることを察していた。
(戦力にはなりそうにありませんが……今すぐ殺す必要もなさそうですわね。
ここは仲間に引き込んでおけば、何かの役には立つでしょう)
打算を巡らし、タリアは早速こなたの勧誘に入る。
「こなたさん、私は殺し合いをしたくはありません。よかったら、私と一緒に来ていただけませんか?
きっともっと仲間を集めれば、殺し合いを中断させる方法も見つかると思うんです」
「ん、いいよー。一人より二人の方が心強いしね」
あっさりと勧誘を快諾するこなた。二人は、笑顔で握手を交わす。だがそれぞれの笑みが違う意味を持つことに、こなたは気づかない。
「ところでこなたさん、一つお聞きしたいことが……」
「ん? 何ー?」
「その格好……何か意味でも?」
「んにゃ、せっかくカバンに入ってたから、着てみないともったいないような気がして」
猫の着ぐるみに身を包んだ少女は、薄い胸を張って堂々とそう言った。
(大丈夫でしょうか、この人……)
【1日目・深夜 B-5 都庁一階】
【泉こなた@らき☆すた】
【状態】健康、緊張感の欠如
【装備】伊御特製の着ぐるみ@あっちこっち
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:みゆきかななこと合流し、無事に帰る方法を考えてもらう。
1:タリアと共に行動する。
【タリア@世界征服物語】
【状態】健康
【装備】真氷の指輪@世界征服物語
【道具】支給品一式、不明支給品0~2
【思考】
基本:由真を優勝させる。それが達成できなかった場合は、自分かムニかリンダを優勝させる。
1:他人を利用し、私利私欲のために願いを叶えそうな参加者を殺す。
2:1のために仲間を集める。
3:まずはこなたと共に行動。
※単行本1巻終了後からの参戦です。
※支給品紹介
【真氷の指輪@世界征服物語】
由真が来た当初から、魔神城に安置されていた秘宝。身につけると氷を操ることが出来る。
【伊御特製の着ぐるみ@あっちこっち】
文化祭の準備中、伊御がつみきに着せるために作った猫の着ぐるみ。顔だけが出る仕組み。
友人一同曰く、「(つみきに)似合いすぎて違和感がない」。
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