環海異聞

「環海異聞」は仙台藩の医師大槻玄沢が1807年にまとめあげた報告書で、
1793年に仙台の廻米船若宮丸が時化にあい半年間の漂流の末ロシアまで
流され、約１０年の滞在の後にレザノフの船で世界一周をして日本まで
戻ってくる漂流記です。

私の「桂川甫周」のところでもちょいと触れましたが、築地に江戸時代の
幕府の奥医師である桂川甫周の屋敷跡という史跡があります。

この甫周が著したのが、仙台の若宮丸とは入れ違いにロシアから日本へ
帰国した大黒屋光太夫の漂流記「北槎聞略」です。しかし光太夫の仲間で
ロシアに残った人間もいたのでした。かの地に残らざるを得なくて日本語
学校の先生になったのです。若宮丸の乗り組み員たちは光太夫の事件の
ことを噂で知ってはいたのですが、まさか自分たちにも同じような災難が
降りかかるとは予期していなかったことでしょう。

彼らはイルクーツクまで連れて来られ、そこで会ったのが光太夫と共に
漂流してロシアに残った新蔵だったのです。彼はロシア人となり日本語
の教師として生活していました。後から来た若宮丸の乗り組み員たちは
さぞかし驚いて、泣いて喜んだことでしょうか。

若宮丸の乗り組み員１５名はその後８年余をロシアで過ごして、レザノフ
の船で帰国するのですが、光太夫の時と同じように、やはりロシア人と
なって残る人間もいたのです。そのうちの一人が善六でした。彼はロシア
へ着いてほどなくロシア人になることを選び、最後にはレザノフの通訳
として日本に戻る前の世界一周の旅に乗船しています。

ただし同船で日本へ向かう直前にロシアで下船しているのです。津太夫を
含む他の４人の日本人と別れねばならなかった善六の気持ちは如何ばかり
だったでしょうか。

その後違う事件でこの善六はまた歴史の表舞台に登場してきます。
もっと興味をそそるのは昭和の初めに函館に来たソ連の領事が、私は
日本人漂流民の子孫だと言ったことです。その名前はキセーリョフといい
善六のロシア名と同じだったのす。さらにこの外交官の子孫がまだ健在
らしいのですが、はたして善六と関係があるのでしょか？

ロシアに残りロシア人となった善六のその後は？　漂流の歴史の陰に
隠れた意外な事実はどう展開したのでしょう。この顛末はまたお知らせ
いたします。
　
（余談ですが、この環海異聞という本、すっごい高い本でした。
わざわざ出版元まで買いにいったのを覚えています！　でも中身の
濃い漂流記ですよ。）