為せば成る為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり

やろうと思えば何でもできる。できないのはやろうと思わないから。やろうとすることは他人のためではなく、自分のためになる。

治療的作業の概念枠組み

2005-12-09 | 作業療法

David Nelsonは1988年にフォームと遂行との関係で作業を定義し、
治療的作業の概念枠組み」を発展させた。
Nelsonは意味微分法(SD法)を用いた作業イメージや、作業に目的を付加したり、
目的を変えることによる行為者の反応の変化について多くの論文を発表している。

【作業の定義】
作業という語は曖昧である。
用語の曖昧さは、その用語使う専門職の概念的発展を妨げる
作業という語のもつ曖昧さを取り除くために、
作業をフォーム遂行に分けて定義できる。

作業フォームOccupational Form:行為者に左右されない枠組み。
作業遂行Occupational performance:行為者が作業フォームを行うこと。

Occupational Form
○物理的側面(作業名から想定される作業の枠組み。使う物・環境・他者の存在・
時間経過に沿って進む工程を追った変化などを観察)
○社会的側面(歴史や文化的背景からその作業に付加されている意味など)

Occupational Performance
作業フォームを行うことであり、特定の環境の中で行為者が行う行為や
反応であり、多くの場合は身体運動や眼球の動きや表情として観察可能。
頭の中でパズルを解くことは直接観察できないが、次に続く行為によって
パズルを解くという作業遂行がなされた事を推察できる。

料理で例えれば…。
「Occupational Form」
物理的側面:メニュー・道具・場所
社会文化的側面:性別・年齢
「Occupational performance」
実際に調理を行うこと。   となる。

【治療的作業】
作業遂行⇔行為者⇔遂行において説明される。
作業遂行は作業フォームを行うことなので、
遂行前には何らかのフォームが想定される。
また遂行によって次に行う作業フォームが決定されることもある。
時間と共に進行し、「じゃがいもの皮をむく」という作業フォームを
行為者が遂行すると「むいた皮を片付ける」という次の作業フォームが設定される。

作業フォームは行為者にとって特定な意味を持つ

普段から料理をしている行為者にとっては、馴染があり何も感じないかも
知れないが、母親の死後間もない料理をしたことのない娘にとっては、
「自分の苦手さ」と「母を失った悲しみ」を呼び起こすかもしれない。

行為者が作業遂行をするためには目的がある。
じゃがいもをむくのは、
①肉じゃがを作るため
②肉じゃがを食べて食欲を満たすため
③他者に美味しいとほめられるため
④料理人としての修業のため
など、様々なレベルでの目的がある。
目的が1つのこともあれば複数のこともあり、ある目的が優先されることもある。

作業療法が誕生した初期から、
目的のある活動(作業)を行うことが行為者の適応を促す」とされてきた。

作業が治療になるとは。
目的意識を持つことによって行為者の機能を統合させたり、
引き出されたりすること
を示している。

「肉じゃがを作って客に楽しんでもらう」という目的があると、
意識的に機敏に動きながら皮をむいたり準備をしたりできる。

「ジャガイモの皮をむく」という遂行によって、
包丁の使い方やジャガイモの芽の探し方が上達する。
また上手くできたという自信につながる。

このように目的を持つことと、作業を遂行することが、行為者に適応という
変化をもたらすので、作業が治療になるといえる。

【作業療法士の役割】
行為者にとって意味と目的がある作業遂行を引き出すために
作業フォームを調整することである。

作業療法士は、作業の性質を吟味しつつ、
作業の治療としての力を確認して利用する。
作業療法は作業が人間の健康にとって基本的なものであり、
個々の人間のNeedsに柔軟に合わせることができるものと認識する必要がある。

人間は自分にとって意味と目的がある作業を自ら積極的に行うことで、
自らの健康や生活の質を向上させることもできる存在である。
作業療法は作業フォームを変化させることによって、このプロセスを援助するという点で独自の専門職であるといえる。

【臨床・実践での関連】:長谷川の報告による。
症例:82歳 女性
診断名:多発性筋炎
障害名:四肢麻痺
状況:セルフケアは全介助・難聴がある。言語的交流は殆どなし。
「作業フォーム」:織物(織機・糸・文化背景)
「作業遂行」:おさで糸をしめる→配色を決める
意味:母の思い出・自らの子育て時代の思い出
目的:同室者のために部屋の飾りつけ・作品を贈る
影響:色の選択や組み合わせも決定
適応:○現在の辛さばかりではなく母や若い時代への気づき
   ○対人交流・前向きな言動の増加
   ○心身機能の改善
調整:行為者が遂行できるようにフォームを選択・設定、遂行の機会を提供

「経過」
OTRとの関わりは拒否的であり、「死にたい」など悲観的発言が多い。
他患と話すこともなく、ただ寝たり泣いたりの繰り返しの毎日。
環境との関わりが著しく低下喜怒哀楽を失いつつあった。

病前は裁縫や編み物が得意であったことから、
作品の進行が目に見えやすい織物を導入した。

症例にとって織物(作業フォーム)は特別な意味(母・子育ての思い出等)があった。

織物をすること(作業遂行)通じて、他患と交流が生じ、
また症例は人を笑わせることが好きで、人の役に立ちたいと
思っていた事を思い出した。

同室の寝たきり患者のために部屋に織物作品を飾るという目的で
織物を行うようになった。

はじめよりも多くの工程を行うことができるようになり、
坐位耐久性も向上し、随意的運動範囲も拡大した。

織物は唯一症例が主体的に参加できる作業であり、いきがいとなった。
またその後も継続して行い、上肢の操作性も向上し、スプーンを用いた
食事が可能となった。

織物をしていない時は筬がしっかりと握れるように、自発的にベッド上で
手指の屈伸運動を行っている。
会話量も増加し来室者を笑わせるようになり、
見当識も正確になり、家族の面会が増えた。

「毎日が楽しく、織物も楽しいし、ご飯も美味しい。友達や家族も会いに
来てくれる。神さんに迎えに来るのはもう少し待ってねとお願いしているんです」

作業フォームと作業遂行との関係で作業を定義することで、
作業がもつ意味と目的を確認できる。


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