出世サイン(前世が野良サインの公式サイン)

2020-07-27 | 野良サイン
中野坂上駅・2019年10月
公式っぽい書式の「途中階から階段になります」

都営大江戸線・中野坂上駅の改札階にこんなサインが掲示されている。ホームに降りていくためのエスカレーターがあるのだが、エスカレーターは途中で終わってしまいそこから先は階段しかない、ということを図示している。階段の昇降を避けたい人にとっては罠のような構造だ。

実はこのサイン、以前は野良サインとして掲示されていたものだった。

中野坂上駅・2018年10月
野良サイン時代の「途中階から階段になります!!」

「公式化」前後で見比べると、文言の「!!」がなくなったり、見た目部分の細かい調整はされているが、大まかなレイアウト・テキスト内容・図の構造は完全に一致している。

こうした「出世」に気づくと、野良サインの存在が肯定されている感じがしてなんだかうれしくなる。野良サインが単なるワークアラウンドのまま終わるのではなく、サインシステム側のアップデートに繋げられているようにも思えて、なんとなく希望を感じる。



上野駅・2016年8月
方面ごとに改札口が異なるタイプの駅なので、改札外にこういう案内がある


銀座線・上野駅のサイン。柵に取り付けているあたりに野良っぽさがあるものの、平面的な見た目は東京メトロのオフィシャルのフォーマットになっている。
これも前世は野良サインだった。

上野駅・2009年9月
ビーポップの明朝体で書かれた「浅草/田原町/稲荷町」

公式化の前後で記載内容はだいぶ整理されているが、「浅草方面に行きたい人はこちらへ」という趣旨と柵本体は変わっていない。おそらくこの野良サインがなければ、上の公式サインは生まれなかっただろう……。




新橋駅・2012年
ホーム柱の注意喚起サイン

東京メトロの公式のサインらしい書体・配色だが、これも以前は野良サインだった。


新橋駅・2009年9月
ホーム柱に掲示されたビーポップの文字 (撮影者:JTC

文言や改行位置が、原作である野良サイン時代のものに忠実につくられている。
公式化にあたって、「足元にご注意ください」の行がより強調され、より適切にメッセージが伝わる様になったように見える。



自分が見た範囲で思い出せる出世サインはこの3種類だけなのですが、おそらく実際にはもっとたくさんの事例があるだろうし、多分そのほとんどには気づけていないと思う。

こうした事例に気づくためには定点観測的に同じ場所に何度も行くこと、「なんてことのない野良サイン」も記録していくことが必要なのですが、なかなか難しいですね……。

銀座線の全駅を周って野良サインをさがす

2020-07-26 | 野良サイン
東京メトロ銀座線の全駅をまわって野良サインをさがしまくる、ということを3年おきにしています。





……いきなり話が逸れるのですが、ここ数年「マニアフェスタ」という即売会イベントに何度か呼んでいただき、自分は「野良サインマニア」として出展させてもらっています。毎度ありがとうございます。

このイベントでは、出展者はみな何らかの「マニア」として参加するため「○○マニア」という呼称をつけられるのですが、実のところ初回から今に至るまでずっと「自分はマニアと呼べるほどの人間ではないが……」という気持ちを常に抱いてしまっています。



「野良サイン」という名前をつけたのは自分だし、自分の知る限りは誰よりも長く撮り集めているし、客観的に見たら違和感はないかもしれない。ただ「マニア」と呼べるほどのことを実際にしているのか……?いやーしてないですねー、となってしまう。

なにを「していない」のか。やろうと思っていてできていないことはいくつかある。
例えば「野良サイン事例を何らかの方法で分類・体系化する」ということ。なんとなくそれっぽいので憧れはあるが現状やっていない。関連するところで、「撮り集めた事例をアーカイブ的に整理・公開する」ということも身体が自由に動くうちにやっておきたい……と思っているがまだ手がついていない。
事例の集め方もあまり積極的ではない。出先でたまたま見つけたものを撮るというケースが多い。でも本当はもっといっぱい集めていきたい……。(出不精かつ無気力)

田原町駅・2009年9月

そんな中でも「やっている」と言えるほぼ唯一の活動が「銀座線の全駅を3年おきに周っている」というものだ。

はじまりは2009年9月。野良サインを撮り集めるようになった頃に「どこか1つの路線の全駅を周って野良サイン集めまくるのをやってみたい」と思いはじめた。なんとなく東京メトロ銀座線を選び、友人と全駅を周って野良サインを探しまくり、カメラを向けていく。めちゃくちゃに疲れる。

その後はしばらく、こうした「集めまくる活動」をしていなかったのだが、これといった用事のなかった休日に突然思い立って銀座線の様子を再び見に行った。それが2012年4月。以前よりも野良サインが大幅に減った感じがした。(……のだが、「なかったこと」を全然記録していなかった。惜しい)

また時が流れ、その間も積極的な活動はしていなかったのだが「今年見に行ったら3年間隔ということになるな……」と気づき再訪したのが2015年8月。こうして、「3年おき」という活動スタイルが形成された。



2015年8月の観察の時点で、そろそろ野良サインのことを何かしら形に残さないと……という焦りがあった。この活動を人々に公開することを前提に「3年おき」というわかりやすい周期を確定させた面もある。

2016年にコミティアに申し込んで制作をおこない、なんとか形にすることができた。中身のレイアウトはたいへん雑なものになったが、物理的なモノとして世に発表できたことですこし安心した。

もちろんその後も、2018年に4回目の全駅観察をした。2018年の銀座線は全駅のリニューアルが計画されていて、すでにいくつかの駅はリニューアル完了していたり、工事の真っ只中だったりした。工事中にともなう野良サインも多く見られたし、新しくなったばかりの駅に野良サインが見られたり……ということもあった。

2018年の様子は、また別の冊子としてまとめた。




自ら敷いていたレールではあるが「3年おき」というのは自分にとってはだいぶ都合がいい。もっと短くしてもいいと思うこともあるが、確実に無理なく続けられる活動として維持したい……という気持ちもあるので、身体が自由に動くうちはこのままのペースでやっていきたい。

次は2021年。「東京五輪の翌年の銀座線」を見るつもりでいたのだが気づいたらオリンピックイヤーになってしまっていた。大会の前に見に行くのか、後に見に行くのか……そもそも五輪は予定通り開催されるのか、そもそも見に行ける状況になっているのか……。なにもかも分からない状態だが、各駅を自由にウロウロしても良い状態であることを願っています。


上野駅・2016年8月





補足しておくと、マニアフェスタの場においては「○○マニア」というラベリングの良さも感じています。マニアフェスタで初めて私のことを知った人にとっては「野良サインマニア」というラベルがあると会話の糸口として機能してくれるなー、とよく思います。

これは自分が一般参加者として他の出展者と接するときにもよく思うことで、全く知らないし関心もないという状態でも会話をはじめやすい。そういう意味で間口が広がっている感じがします。コミケやコミティアの同人誌即売会とはまた違った感触。

……と書いているうちにマニアフェスタにまた出たくなってきた。従来どおりのイベント開催は難しくなってしまったけれど、どうにかいい感じに開催できるといいですね……。

大森町駅のテープ文字(2012年)

2020-05-31 | 野良サイン
テープで描かれた文字……というと「修悦体」がとても有名だと思います。今でも新宿駅などで見ることができて、とてもかっこいいんですよね。

野良サインに注目して暮らしていると、佐藤修悦さんの作だけでなく、名前のわからない様々な方のテープ文字を見かけます。その中でも強烈な印象を残している事例のひとつが、京急・大森町駅の高架化工事のときにみたテープ文字です。

大森町駅・2012年5月
ホームに設置された仮囲いの上に作られた文字

電車を降りてまず視界に飛び込んできたのがこの文字群。カラフル……そしてでかい……!

「エレベーター」「エスカレーター」の丸ゴシック感はかわいいし、一方ほかの部分はふちどりがなされていて派手。

大森町駅・2012年5月
改札付近の誘導サイン


改札の近くには、下りホームへのサインとしてテープ文字が作られていました。オフィシャルのサインも取り付けられているので二重説明ではあるのですが、ここでもまた色が派手で圧倒的な目立ち方です。

氵(さんずい)部分の3画目の「はね」が長くのびているのが特徴的!

大森町駅・2012年5月
「空」の字の一部

カーブをつくるためにテープの隅を丸く切りとって、そのときの端材も活用してカーブを完成させる……というのは佐藤修悦さんの字でよく見られる技法なのですが、それがここでも使われています。

時期的には修悦体が一度話題になった後ではあるので、大森町で作字された方も少なからず意識はしていたのかもしれない……。

大森町駅・2012年5月

サインだけでなく、工事現場らしい標語のようなものも作字されていました。これもやっぱりカラフル、そして袋文字も。

大森町駅・2012年5月

「交」の字、なんだかかっこいい造形をしていて気になる。

ひらがなの「あんしん」もこれはこれでだいぶ雰囲気は違うがかわいい……。「ん」の上には……ミニトマト!?


「DIY路線図」の世界

2020-05-31 | 野良サイン
「インディーズ路線図」というものをご存知でしょうか。

これは『たのしい路線図(グラフィック社)』という本で紹介されている「オフィシャルではない路線図」のことなのですが、私はこの「インディーズ路線図」という名前をみただけで「野良サインを違った切り口から見たやつだ……!」となり興奮しました。

この本には、「インディーズ路線図」を更に細かく2つのジャンルに分けて掲載されています。
  • 施設オリジナル!「電車でお越しの方路線図」
  • 駅員さんによる「DIY路線図」
前者の「電車でお越しの方路線図」は、商業施設・学校・マンションなど、いろんな施設が独自に作った路線図のこと。本書の共著者である井上マサキさんはこれをめっちゃ集めていて、ネット記事にしたり同人誌も出されているほど。
そして後者「DIY路線図」については、わたしが「野良サイン」として集めているものとだいたい合致……!というわけで、この記事では私が発見した「DIY路線図」を紹介してみます。


『たのしい路線図』の「DIY路線図」のページ。どれも良い〜!





後楽園駅・2019年5月
改札入ってすぐの頭上に掲示されていた

ラベルプリンター・サインプリンターなどを使って、壁面に駅名を羅列して路線図を描いてしまう、というケースを時々みます。
丸ノ内線をあらわす赤いテープを貼り、その上から駅名のシールを貼りつけ。一点物の路線図だ。配色が落ち着いた感じで、見たときの違和感があまりない。これだけたくさんの駅名を印刷してきれいに貼っていく作業、結構大変そうですね……。


四ツ谷駅・2010年6月
トイカメラか何かで撮ったんですか……?みたいな画質ですみません

ひろびろとした壁にたすき掛けするように路線が走っており、空間の使い方が贅沢な路線図。ビーポップ(マックスのサインプリンター)で刷ったものと思われるシールで路線図を構成。

後楽園駅の事例とは違って配色は適当な感じ。南北線カラーのテープやラベルってあんまりなさそうだし、仕方ない感じもしますね……。でも南北線の部分は黄色で、直通運転先の埼玉高速鉄道の部分は白いシールに変えていて、明確に区別をしている。

※この写真はiPhone 3GSという当時最先端だった携帯電話で撮りました。でかいカメラで撮らなかったこと、だいぶ悔やんでいます。


上野駅・2008年12月

プラスチックっぽい板に手で書き込まれた手作りの路線図。公式のサインっぽいレイアウトでもある。

駅のところに振られている番号は、現在の駅番号(H-01, H-02…)ではなく、「上野駅から何駅目か」を示しているだけのもの。




上野駅・2009年9月


上野駅・2009年9月

2009年の上野駅は黄色やオレンジのテープに印字された野良サインで溢れていて、その流れで路線図……のようなものもありました。

この通路の左右にはそれぞれ改札口があるのですが、どちらの改札を通るかによって電車の行き先が異なってしまう。そのため改札に入る手前で正しい選択をしてもらう、という意図のサインがこうして設置されている。

よく「〇〇・□□方面」という書き方を見かけると思うのだが、そこに含まれない駅名も案内したい……となり、結果的に全駅リストアップし、路線図のような状態になってしまったのではないか、と想像しています。


東梅田駅・2017年8月

東梅田駅は一時期キラキラのパーティモールで囲われたサインが複数出現していて、とてもにぎやかで良かった思い出があります。その中にDIY路線図もありました。

これも上野駅の例といっしょで、改札が二手に分かれている場所。乗客が間違った改札から入らないよう、サインを目立たせようという工夫がなされている。この駅構造はどうしても野良サインが生まれやすいですね……。


品川駅(JR)・2019年11月

田町駅(JR)・2019年11月

山手線・京浜東北線が工事のため運休になった日に掲示されていたサイン。どの区間の電車が止まっているのかを端的にあらわすために路線図が使われていて、わかりやすい。

品川駅では人間の背丈よりも大きいサイズに引き伸ばしたものが使われていました。手作りの路線図がこんなに大きく印刷されることある?!となり、発見した時は驚きましたね……。


曳舟駅・2013年2月

ここまで1つの路線のみを描いた路線図がほとんどでしたが、最後に複数の路線が絡み合う「ザ・路線図」といった感じの事例を。

地下鉄の路線図なら既存のものがいくらでもありそうなところですが、会社が異なるせいか手作りのものが掲示されていました。

構造(駅と駅の結びつき)は正しいけど地理的な配置とは大きく異る……例えば東西線(水色)の東側は概ね東にのびていく描かれ方をすることが多いのですが、ここではぐにゃりと折りたたまれてしまっている……なんてことを思ってしまうのですが、そこまで配慮して作り出したらそれはそれで大変ですよね。

点と点をつなげていってネットワークが組み上がってく感じは、作っていて楽しそうだな〜という気持ちにもなるし、なんだか自分でもPowerPointとかで路線図を組んでみたくなってしまう……。

東京メトロ京橋駅 「出口1」の長寿野良サイン

2020-05-31 | 野良サイン
東京メトロ銀座線の全駅(浅草駅〜渋谷駅の19駅)に降りて、それぞれの駅にある野良サインを撮り集めまくる、という活動を時々やっています。

この全駅チェックを最初にやったのは2009年で、その後は2012年・2015年・2018年……と3年おきに実施。はじめからこうしようと考えていたわけではなく、2015年にやったことで「3年毎」が確立してしまったという感じです。

観察活動を行う中で出会った野良サインで印象的だったもののひとつが、京橋駅にある「出口1」と書かれた貼り紙です。


京橋駅・2009年

プリンタで印刷した感じじゃなくて、ハサミとかカッターで黄色い紙を切って作ったような文字。ちょっといびつな感じがかわいい。


京橋駅・2012年

2009年時点でもだいぶ年季が入っているように見えたが、2012年にも残存。

京橋駅・2015年

2015年の訪問時もまだあった!ここまでくるとだんだん「ずっとなくならないでほしい」という気持ちになる。が、下の方に同内容の新しい張り紙が登場。世代交代の前触れかな……?


京橋駅・2018年

2018年、改装工事の影響で自販機が「←出口1」サインの前に……!殆ど見えない状態になってしまったけどまだ掲示はされている。2015年のときに見た新人野良サインは剥がされた跡がありますね……。強い意志をもって残しているような気もしてました。

このまま改装工事を乗り切ってくれるのだろうか…… とても気になるところです。



その後、私はまだ見に行けていないのですが、Twitterで「2019年4月時点ではまだあった」ということを教えてもらいました。(感謝…!)

自販機が移動してまた見えやすい状態になったみたい。去年の話とはいえ、ちょっと安心しました。