Race to the bottom

2012-04-15 22:32:00 | 本・論文の紹介(看護)
  'Race to the bottom' の意味は、「底辺への競争」。経済学で使われる。どんどん低水準に収れんしていく状態。グローバルな自由競争を加速させるために、減税や規制緩和などのインセンティブを与えるのだが、労働環境や自然、社会福祉などが、最低の水準に向けてどんどん低下していくことである。

 この言葉を看護の文献で見た。先日触れたが、IOMレポートThe Future of Nursingのバックグラウンドペーパーの一つで、法学研究者の立場から、看護、特に高度実践ナース(アメリカではAPRNという)の実践の範囲について述べた論文の中でである。筆者は、Barbara J. Safrietで、論文のタイトルは、"Federal Options for Maximizing the Value of Advanced practice Nurses in Providing Quality, Cost-Effective Health Care"である。

 医療職者の規制は、日本と異なりアメリカでは州ごとの規制だが、APNではそれが特に問題だとし、連邦レベルでの一括規制の必要性をこの論文は主張している。

 現在アメリカでは、APNの実践について「医師の指示や監督」を必要としない州は16州とワシントンDCになる。これらの州ではAPNは自分の裁量で実践できる。1970年代から徐々に数を増やしてきたAPNであっても、残りの州では医師の指示あるいは監督が必要である。

 問題は、実践の範囲が制限されていない州で実践していたAPN(NPなど)が隣の州に移動して仕事をしようとすると、前の州で許可されていたのに今度の州では医師の監督がなければできないことが起こることである。処方・紹介・出生/死亡証明はできるけど処方箋や診断書は医師の名前でしなければならなかったり、保険請求も医師の名前でないとできない等、多くのことをリストアップできる。そうした制限や禁止を理由に近隣の医師やその団体から開業を妨害されたりしているという。
 
 このように州ごとで一貫しない規制では、世の中の傾向としてrace to the bottom、つまり一番レベルの低い状況に合わせる方向に振れやすく、より厳しい規制や禁止に向かう。しっかりと教育を受け資格認定しても、その力が発揮されず能力が十分に使われることなく、その結果、一般社会はAPNのケアを享受できない。大きな経済的損失になる。さらに、そのような規制/法律ではAPNが不十分だというイメージを強化してしまう。

 それと全く対照的なのが医師である。医師は、別の州に移っても実践範囲は変わらない。医師には医療の業務独占が認められ、実践の範囲は包括的で、州が変わっても、禁止や制約はなく、いつでも同様にすべてのことが実践でき、医療職者への監督にまでその権限は及ぶ。

 長引いた風邪も治まり咳も出なくなった(まだ心配だが)。前に言っていたSafreitの論文紹介を続ける。
                                つづく  
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