迷走する枕茶屋

格子の中



夏休み前の終業式の日 わたしはわざと遅刻をした 

校庭で校長先生の退屈な話を聞く生徒たちを 校舎の窓から眺めている 

今更出て行って列に並ぶ気にはなれなかった

私はこの3年間 苦痛で仕方がなかった

将来やりたいことも なりたい職業も何もない私は

先生や親に毎日せっつかされ 

そのうち夢がないことが欠陥人間のように思い始めた

私の中身はきっと 風船のように空っぽなのだ

必死で夢を持とうとがんばったけど やはり無理だった

授業が終わってもすぐに家に帰らず

教室の窓から夕方まで ただボ〜ッと校庭を眺めていた

この格子の窓枠から外を眺めている時だけが

なぜか気持ちが落ち着けた

まるで牢屋の中にいるみたいで すごく落ち着く

私は来年卒業したら 隣町の寂れた工場の事務員に就職が決まっている

そしたら家を出てアパートを借りるつもり

私なんかでいいのなら きっと大した仕事じゃない

そこでなら味気無くてつまらない毎日が送れそう

夢のない私にはぴったりの居場所になる



その工場 格子の窓 あるかなぁ


2018 3月の投稿 再掲載



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