残業で遅くなったわけではない
ホテルで彼氏と抱き合ってたわけでもない
終電になるまで ただ街をふらついてた
私の降りる駅が近づくにつれて乗客が少なくなる
快速で駅に止まらない区間が多くなると
私だけの空間が訪れる
ドアのガラスに映る 幽かな街のシルエット
目の前を瞬時に通り過ぎる灯り
電車の音以外は何も聞こえなくなる
このまま永遠に夜の闇の中を
走り続ける錯覚に陥る
色々な事に目を瞑って 言われるがままに消去して
右から左へ流すことを受け入れた毎日
トンネルに入ると
化粧で隠せない痩せこけた頬が闇夜に浮かび上がる
その時だけ
目の前に映る非力な自分を軽蔑できるのだ
あとがき
これの詩を書いたときは唯川恵の恋愛小説を読んでいた時期で、故・田辺節子の次によく読んでいました。 唯川作品は変な言い回しがなく、ストレートな表現で実にわかりやすい!
作品の中には、なんの取り柄もない普通のOLの心情がよく出てきます。 仕事帰りに電車の中でこんな風に思うことって、きっと性別関係なくあると思うんです。 私もいっとき原宿のデザイン会社に勤めていた時期があって、やりたいこととやりたくないことが上手くいかなかったり、離れたくない人が私の元から去って行ったりと、様々な思いが終電車の中で交錯していました。 今みたいに携帯がまだ普及していない頃は、仕事が終わって会社から自分の家に着くまでの間の空間(時間)って、結構普段考えないことを考える時間なのだなと思う。 今はもう終電車なんて乗る機会がないけど、たまにあの感じが懐かしくなって終電車に乗りたくなるのだ。