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クロノ太陽・・・10

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昭和18年4月18日、山本五十六連合艦隊司令長官戦死の知らせが届いた。
この時の山本五十六の葬儀は国葬となり、その階級は大将から元帥となった。
 健一の身の回りでも微妙な変化が起こり始めていた。まず、いままでは山本長官の権威で健一にちょっかいを出す者もいなかったのが学校一のガキ大将、耕太が連日のように嫌がらせをするようになり、ここ一ヶ月くらい健一は我慢をしていた。そんな学校帰りのとき耕太とその子分二人が健一を待ち伏せて帰り道を塞いでいた。いくら中身は50過ぎのオッサンでもそろそろ我慢の限界にきていた。耕太と子分の形体は前列に子分二人、後列に耕太一人という形で健一を囃し立てて馬鹿にするような言動を吐いていた。
 健一は三人目掛けて猛烈な勢いでダッシュして、子分二人の手前でジャンプして二人の肩口を飛び越え、耕太の頭へ足刀による飛び蹴り(空手で言うところの袈裟蹴りである)を入れて、着地した後に耕太が地面で頭をうたないように大腿部で受けて意識を失いかけた耕太に耳元で50オッサンの
野太い声でこう言った。
「耕太!俺に構うな!」
一瞬、気を失った耕太に活を入れて気づかせるなり、耕太は目を丸くして立ち上がり叫んだ。
「健一に山の天狗さまが降りんさった!ワァ~。」
耕太と二人の子分たちは一目散にその場から逃げ去った。
 健一はヤレヤレといった感じで家に向かった。家から道場へ向かおうとしたとき、母が問いかけた。
「健一、最近なんかあったとね?悩みがあればちゃんと言わんといかんばい。」と、
「わかった、また帰ってからね。」と答えた。
 健一はこのところ気が重くて溜息ばかりついていた。山本長官のこともあったが、時間軸と空間軸との変化の無さにこのまま、ここにいるしかないのかと自問自答したり、これからの長崎における空襲など考え込むと気が重くなるのは当たり前のことかもしれなかった。
 そんなこんなで稽古していると、柿杉がその気迫のなさに健一にこう言った。
「健一、やる気が無いなら今日は帰れ!ついでに淳之介に話があるから家まで送っていくから。」
「すいません。先生、今僕・・・・」
「何も言うな。さあ、一緒に小椋家に行くぞ!」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。・・・・」
健一は何回も繰り返すしか言葉がなかった。
「こんばんは!淳之介いるか。健一も帰ってきたぞ。」
淳之介「柿杉どうした。まだ、稽古の時間じゃないのか?」
柿杉「とにかく、お前に話があるから上がらせろ。酒でも飲みながらな!」
淳之介「わかった。健一もご飯を食べなさい。」
柿杉「淳之介、お前と二人きりで話がしたい。」
淳之介「とにかく、中へ入ってそれからでいいだろう?」
 健一は食事へ、淳之介と柿杉は奥の部屋でそれぞれに別れた。柿杉は神妙な面持ちで淳之介にこう切り出した。
「俺は健一に黒帯をやりたいと思う。そのためには、流派の連盟理事の承認が必要になる。なにしろ、9歳の少年の初段は前例がないから演武や組手が必須条件になる。だが、今の健一は気持ちに覇気がない。山本長官のこともあるから、わからんでもないが、家でそこのところを補ってやれんか。」
淳之介「健一はそんなに強いのか?俺には稽古のことは何も言わんから分からないのだが。」
柿杉「強い!このままいけば日本空手界を制する逸材になることは間違いない。」
淳之介「だが、こんな時代じゃ、明日の日本もどうなるかわからんだろう。まして、健一がそれを望んでいるのかもわからないし。」
柿杉「じゃ、健一に聞いてみたらどうだ。」
淳之介「健一、健一、こっちへ来なさい。」
健一「分かりました。」
健一が柿杉と淳之介のもとへやって来た。
柿杉「健一、服を脱いで上半身を淳之介に見せてやれ。」
健一「ちょっと恥ずかしいけど、わかりました。」
健一は服を脱ぎその上半身をふたりに見せた。
淳之介「なんと!これが健一」
健一の大胸筋から腹筋、腕の筋肉、肩、後背筋、どれをとってもボディービルダーばりの体つき、これが9歳の体とは思えないほどに鍛え上げられていた。
淳之介「柿杉、ここまで健一を鍛えたのか!」
柿杉「淳之介、健一は自分の意思で自分の工夫でここまでの体をつくりあげたのだ。」
淳之介「健一、お前は空手で生きていくつもりなのか?」
健一「父さん、僕はまだ、9歳です。先のことは分かりませんが、今は空手を通して体と心を鍛えたいだけです。」
淳之介「確かに、学校の成績も上位だし空手が支障をきたすことはなにもないからいいのだが?」
健一「じゃー、僕はさがります。失礼しました。」
柿杉「どうだ、わかったか?」
淳之介「わかった、健一のことは何とかしよう。ちょっとした刺激剤もないわけでもないから。」
柿杉「では、そのことは頼んだぞ!じゃーとことん飲むか!」
淳之介「そうだな!飲もう。」
ふたりは夜更けまで酒で盛り上がっていた。
翌朝、淳之介は家族に横浜から親戚の家族が小椋家に疎開してくることを告げた。このころになると、東京周辺の空襲が予想され地方へと攻撃を避けるために疎開が開始されたのだ。そして、横浜から淳之介の姪にあたる鈴木芙美が単身で小椋家にやってくることになった。芙美の父は帝国陸軍の軍人でシンガポールに従軍していたので単身の疎開となったのだ。この芙美は女学校出の才女で国民学校の代用教員として健一の国民学校へ赴任予定であった。
淳之介はこの芙美が健一の刺激になって活力を与えてくれると思っていたのだ。そして、姉的な存在として健一の生活に覇気を取り戻させて空手にもよい影響をもたらす触媒となると招き入れたのだ。
 まあ、健一にとってはどうでもいいことで未だにタイムスリップしないことで悩んでいるのだから誰にも話せるはずもなかった。そうこうしているうちに芙美が小椋家にやって来た。大きなリックを背負い、髪は三つ編みでモンペ姿の
二十歳そこそこの目が切れ長一重の可愛い子であった。

続く・・・・


短編エッセイ書庫、先回まで次男のホスト体験日記を掲載してきましたが次回から短編小説を連載します。 これは後輩が目標を失い、うつ病になった時に好きなことをやるようにアドバイスした時書くことが好きと言うことで頑張って書いてくれた作品です。

処女作で手直し前ですので完成度は期待しないでください。それなりに面白い作品です。
あらすじは、現代にて仕事中気を失い目覚めると太平洋戦争中長崎のある町の雷を打たれた少年に
入れ代わり長崎原爆(戦争)を止めようと努力するも時間は着々と進んで行く・・・・・そんな作品です。


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