野叟(やそう)とは、田舎の老人の意味です。解嘲(かいとう)とは、人のあざけりに対して弁解することです。杉田玄白の「野叟独語」「犬解嘲」という著作から合成しました。現役引退した老いぼれ医者が、自分の体を材料に、症状の解説や療養のコツについて私見を公開します。
後生畏るべしといいますが、1年も違うと、知識の量も質も大きく変わります。ずいぶん昔の話で恐縮ですが、学生の頃、免疫学の教科書が一級後輩のものと比べたら、同じ名前の教科書なのに、厚さが倍以上になっているのに驚いたことを覚えています。ちょうど、日本人が免疫学の領域でノーベル賞を受賞したころでした。数十年前ででさえ、そんな状況でしたが、近頃はさらに凄まじい速さで医学は進歩しています。到底、老人は追いつけず、新しい知識では若者に敵いません。しかし、どんなに時間が経っても、若者が老人に追いつけないことがあります。それは、年を取ることそのもの、そして体力が衰え、様々な病気を経験することです。ハンディキャップと思われますが、どれも若者には理解できません。昔、テレビの報道番組で、長崎市内で核兵器反対の署名活動をしている女子高生に向かって、お年寄りが「何もわからんくせに!」と罵倒する場面が放送されました。解説者が、「戦争を経験したものでなければ、反戦を主張してはいけないということはないだろう」と言ったことが強く記憶に残っています。人間には想像力というものがあるし、共感するということもあるだろうと思ったものです。何事も、経験しなければ分からないというのでは困りますが、残念ながら、その年になって、初めて分かることというものがあることも事実だと、この年になって感じるようになりました。
年は取りましたが、まだ患者さんを診察している医師として、自分の症状を、自分なりに、医学的に解説していこうと思います。若いお医者さん達が、患者さんの訴えを理解する参考にしてもらえることを期待します。
医療関係者以外の方には、用語が分かり難いことと思いますが、若い医師を対象とした話ですのでご了承ください。