第5話-28

　海の映像に大きな波が映って、サーフボードを抱えた金髪の男とビキニの女が手をつないで走って行く。近藤の視線は画面に釘付けだ。坂野は「サムだ。確変くるぞ！」と呟いた。大竹は山崎に寄り添われて、幸せそうな顔で牛丼を食べている。「金はまだ？あんまり待たせると、僕だって怒るぞ」忌々しそうに、拗ねた子供のように田村が言った。

　山崎はお客様達にもうすぐ助けが来ることを伝えたいが、大竹の熱い視線と犯人グループの異常な雰囲気に押されて、声を掛けることができない。「大丈夫ですから。絶対助けがきますから」とＯＬらしい女性を励ます中沢に冷ややかな視線を送って、山崎は大竹が座っているソファに座った。２人の体重を合計するとかなりの重量になるから、ソファはギシッと音を立ててたわんだ。
　もうすぐ屋上に下りた謎のレンジャーが、山崎達を解放してくれる。それまで待てばいいだけなのに、夏休みに彼氏とハワイに行くことになっているらしいＯＬは泣き出した。助けが来ているのを知っているのは行員だけだ。それを伝えられないのが悔しくて、「メソメソするんじゃないわよ！」と山崎は怒鳴った。

　銀行の内部放送用のスピーカーから、「海が見えてきました」と温かい声が聞こえた。