直弼の青年時代 刻み込む
井伊掃部頭直弼(いいかもんのかみ なおすけ)=井伊大老といえば、幕末に徳川幕藩体制を支えた政治家。安政の大獄で反対派を徹底的に弾圧し、大量逮捕・処刑を断行した。ついに桜田門外において、水戸浪士の一隊に襲われ、非業の最期を遂げた幕府側の最高権力者として知られている。
井伊直弼 肖像画
一方、彦根藩井伊氏・歴代の藩主の中でも、一番の名君とされている。
波乱の生涯に戦後いち早く光をあてたのが、舟橋聖一の長編小説「
花の生涯」(昭和27年毎日新聞連載)だった。38年には、第1回のNHK大河ドラマとなり、直弼を二代目松緑が演じて大評判となった。彦根城には全国から観光客が押し寄せ、彦根藩主になる前の直弼が住んだ
埋木舎(うもれぎのや)も歴史舞台として脚光を浴びることになった。
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直弼の青年時代 刻み込む
彦根城の正門前、いろは松の通りを過ぎ、旧中堀の手前を右折する。お堀を挟んで多聞櫓(やぐら)の城壁と向かい合って、禅寺のような簡素な門構えの建物。江戸末期の大老、十三代彦根藩主の井伊直弼(なおすけ)が青年時代を過ごした埋木舎(うもれぎのや)である。
井伊直弼が青春を過ごした埋木舎。簡素な門構えの建物だ |
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埋木舎(彦根市尾末町) |
| 「世の中を よそに見つつもうもれ木の 埋もれておらむ 心なき身は」
嫡子以外の子は部屋住みになる井伊家の慣例に従って、17歳でこの家に移り住んだ直弼の詠んだ歌だ。自分を花咲かぬ埋木に例え、学問を「なすべき業」と心得て、生涯を300俵の捨て扶持(ぶち)で過ごす覚悟だった。
「-門を入ると、右に下男と下女の住居があった。そして玄関をはいって右に仏間、座禅の間、御産の間、湯殿があり、左側とその奥に座敷と居間があった。六百坪の土地に百拾坪の家であった。自分がそこに移ってから建て増したのは樹露軒と名づけた四畳半台目の茶室だけであった」
立原正秋が「雪の朝」で描いた埋木舎のたたずまいである。直弼はこの家で32歳まで過ごすが、兄直亮(なおあき)の死をきっかけに彦根藩主となり、さらに幕府の大老に昇進。心ならずも、歴史の表舞台に引き出された彼は、開国に揺れる幕政に強力なリーダーシップを発揮し、そのために桜田門外で凶刃に倒れた。
波乱の生涯に戦後いち早く光をあてたのが、舟橋聖一の長編小説「花の生涯」(昭和27年毎日新聞連載)だった。38年には、第1回のNHK大河ドラマとなり、直弼を二代目松緑が演じて大評判となった。彦根城には全国から観光客が押し寄せ、埋木舎も歴史舞台として脚光を浴びることになった。
小説は、埋木舎における国学者・長野主膳との運命的な出会いに始まり、なまめかしい三味線の師匠・村山たか女をめぐる色模様を絡めて展開する。直弼が、たか女と結ばれたのもこの埋木舎だった。後に尊王攘夷の嵐に立ち向かう直弼を助けて、主膳とともに隠密となって働くたか女を相手に「たか-私はもとの埋木舎に戻りたいよ」と、作家は直弼に語らせている。いつのまにか時代の潮に行く手を決められて生きている身を振り返って、青春の日々が刻み込まれた埋木舎を懐かしむ真情の吐露は、直弼の人間像を近しく伝えてくれる。
その埋木舎は明治4年、井伊家から直弼の家臣だった大久保小膳に寄贈され、代々大久保家で継承されており、国の特別史跡になっている。昭和59年の大雪害で一部が崩壊したのを機に、全面解体修復工事が行われ、平成3年4月から元通りの姿で公開されている。
お堀に放たれている黒鳥のつがいが、埋木舎の前まで近づいてきて餌を求めていた。水戸市からの贈り物だという。 |
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【天寧寺】井伊直弼の父である直中が建立。五百羅漢像(彦根市指定文化財)=写真右=で有名な曹洞宗のお寺だ。山門脇には直弼の供養塔とともに、長野主膳の墓、村山たか女の碑がある。城山に相対する丘にあって、彦根の町、彦根城、西江州の山並みと琵琶湖を見渡す景観も素晴らしい。拝観料400円。電話0749(22)5313(彦根市里根町)
【花の生涯碑】井伊直弼の銅像が立つ彦根城金亀児童公園にある。テレビドラマ「花の生涯」が全国放映された翌1964(昭和39)年に建立。原作者の舟橋聖一は、彦根市の名誉市民第1号となった。(彦根市金亀町)
【彦根藩湖東焼美濠美術館】江戸後期から明治の中ごろまで彦根を中心に作られた湖東焼=写真左。幕末には井伊家のバックアップもあり、数々の高級品を生産した。湖東焼の歴史を彩る逸品170点を集めて、2003年9月に開館。常時43点が展示されている。入館料300円。電話0749(24)5511(彦根市本町)
【夢京橋キャッスルロード】城内から京橋を抜けて、南へ約350メートルの通り。両側に並ぶ商店は、切り妻屋根で傾斜をそろえ、白壁と紅殻にすすがけの黒格子で統一、かつての城下町の雰囲気を醸す観光スポットだ。佐和山城の城門を移築した赤門の寺・宗安寺もある。(彦根市本町)
06.10.16
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