糞ったれ大家!
写真・イラスト:江戸深川
画像元 http://www.kcf.or.jp/fukagawaedo-museum/index.html
江戸っ子の多くは長屋住まいだったが、彼らはよく「糞(くそ)ったれ大家!」と毒づく。罵詈雑言には違いないが、それにしても汚い。だけどこれにはワケがある。
大家は正しくは「家主」(いえぬし・やぬし)という。地主・家持ちの雇い人である差配だ。
年収はだいたい3両2分くらい。これが現代のカネにして幾らくらいになるかは、なかなか難しい。
1両は、米を基準にすると5万円、大工の手間賃ではかると30万円に相当するらしい。まあ、1両は10万円と想定する人が多いようだ。
大家の年収は少ない。だが副収入が多い。町役人(*)の最末端だから、店子や町人から付け届けが随分あった。この収入がバカにならない。
さらに、大家は管理人の恩典として管轄内人民が‘ひり出した’糞尿の汲み取り権を与えられていた。
長屋の共同便所の糞尿は、当時、近郊の農民がかなり高値で引き取った。農民と大家は、幾人分の排泄物、1カ年幾らと約定を交わしていた。
長屋の共同便所
手前に井戸。向かいには掃き溜め、共同便所
これは、3両2分を遙かに上回る収入だったとか。中には全然給料がなく、この臭い黄金水の代金だけで喰っていた大家もある。
それに表通りの商人よりも裏長屋の職人の糞尿の方が、値が良かった。ケチな商人より職人の方がウマイ物を喰っていたから「コク」(糞だけに「こく」か…?!)があったらしい。現代のコマーシャルなら定めし「キレとコク」だな。
だから大家も裏の収入が結構あり、それを知っている店子連中は「糞ったれ大家!」と啖呵をきることになる。
*(「ちょう役人」。「まち役人」とは読まない。これに対して奉行所の「町方役人」は、「まちかた役人」と読み、「ちょう役人」とは読まない)