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江戸情緒あふれる・“高橋”のとせう
(写真:「伊せ喜」)
江東区を流れる小名木川にかかる橋の名前が、「高橋」という。「たかばし」と濁って読む。
「とせう」は、やはり濁って「どじょう」と読む。昔は「とせう」「どぜう」と書いた。漢字で書くと「泥鰌」。
両国方面から来る「清澄通り」が「森下町」の交差点で「新大橋通り」と交差し、さらに東京湾の方へ少し南下すると、この橋がある。都営地下鉄の新宿線の「森下町駅」または大江戸線の「清澄白川駅」から歩いてすぐの距離である。
この高橋の手前、ちょうど橋と森下町の交差点の間辺りに「伊せ喜」という「とせう(泥鰌)屋」がある。「伊せ喜」の「喜」の字は、「森」という字が「木」を三つ重ねるように、本当はカタカナの「ヒ」の文字を三つ重ねた文字である。だが変換出来ないから、「喜」の字で勘弁して欲しい。下記のイラスト画像をご覧いただきたい。
この「伊せ喜」へ、先日、知人と久しぶりに行って来た。この知人は、「伊せ喜」の大ファンである。小生は、両国橋の傍の「桔梗家」(ききょうや)も大好きだ。
「桔梗家」と「伊せ喜」を比べると、基本的な違いがある。先ず、丸鍋にする泥鰌の大きさが違う。後者の方が泥鰌が大きくて丸まるとしている。前者の泥鰌は、どちらかといえば、ほっそりとして小体な感じであり、江戸っ子好みだ。
「伊せ喜」では、さらにこの中から大振りな泥鰌を選んで、「泥鰌の蒲焼き」や「泥鰌蒲焼き丼」…通称「ど蒲丼」という珍しい丼を喰わせる。
どぜう蒲焼き
次に、タレの味が「伊勢喜」の方が薄味であるという点だ。味が薄いから、泥鰌そのものの味は、よくわかる。
いずれにしても、どっちを好むかは、人それぞれの好みである。
店構え・入り口は、「伊せ喜」の自慢だ。入り口の大きさは、大したことはないが、中へ入ると、この店は奥へ奥へと広い。かなり広い。江戸時代の構えそのままだ。今も時代劇の撮影に使われているそうだ。広いから、従業員数も多い。
この店の嬉しいことは、お銚子を頼むと、猪口を杯洗に入れて持ってきてくれることだ。
杯洗
落語の『浮世床』じゃないが「♪トントンてチンチロリン、トントントンてチンチロリン」の世界だ。
高級割烹や料亭ならいざ知らず、このような大衆的な店で、杯洗にお目にかかれるのは、とくに嬉しい。
もひとつ、酒の燗が「人肌」のちょうど塩梅の良いのを持ってくる。大衆的な店で、こんなところは、今は少ない。
この辺りは、時代小説の舞台によく出てくる。藤沢周平などの江戸を舞台にした小説には、必ず「高橋」「森下町」界隈の地理、江戸深川の地理が克明に出てくる。店の作りといい、杯洗といい、酒の燗の塩梅といい、まだまだこの辺りには、江戸が残っているという気がしてならない。
あ、そうそう、夏に「伊せ喜」に行くと、客全員に店名を染め抜いた独特の形をした団扇をくれる。小生などは、毎年この団扇で涼をとっている。今年も、貰った。
どうです? 一度足を運んでみませんか?
平成17年2月2日