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バス車内風景 その一
写真㊤:車内風景
写真の画像元はいずれも http://www66.tok2.com/home2/kitouin/keisei.htm
バスに乗っていると、いろいろな風景というか光景に出くわす。最近、遭遇したものをご紹介する。今回はその一。
ガラ空きのバスの最後尾に座っていると、途中の停留所から、初老のご夫婦が乗車してきた。お二人は、仲睦まじく寄り添うように、バスの前部の席に並んで座った。時々、何やらヒソヒソと語り合っている様子。もちろん、その声までは聞こえない。
バスが終着駅の一つ手前の停留所に差し掛かる寸前になって、お二人の様子が急変した。
旦那さんは、席から立ち上がって、慌ただしく何やら‘そこここ’を見回している。奥さんの方はオロオロしながら中腰になって、旦那さんの上着の裾を頻りに引っ張っている。旦那さんがその手を邪険に振り払った。
ほどなくバスが終着駅の一つ手前の停留所に停まった。客が降りきった後、二人が運転手に必死になって話しかけている。だがその言葉は、了解不能であった。
お二人は、お気の毒に耳が不自由だったのだ。行き先の違うバスに乗ってしまったらしいことは、直ぐに察しが付いた。
運転手も必死になって、声を出しつつも手振り身振りで乗り換えを案内していた。
お二人が納得し、バス賃を払って降りようとしたところ、運転手は手を振ってバス賃の受け取りを拒んだ。旦那さんはそれでも尚払おうとしたが、頑強な拒否にあって最後は素直に従った。
二人は運転手に何度も何度も頭を下げまくって、転がるように降りていった。バスを降りた二人は再び寄り添うように
歩み、次第に遠ざかって行く姿が車窓から見えた・・・奥さんの片手は、相変わらず旦那さんの上着の裾をシッカリと握っていた。