「まあ、素敵な青いお数珠。」
法事に出向いた折、高齢の御夫人から声をかけられた。
ジュエリーデザイナーのkawamuraさんにお願いして作っていただいたもの。
ラピスラズリのブレスレット。
ずっと愛用していたお気に入りの逸品のループが切れて珠が飛び散ってしまった。
馬小屋でボロ取りの最中だった。
オガ粉や藁の中に沈んだ珠を夢中で拾い集めたものの一個足りない。
取り置きしてあった珠を足して、ホームセンターで細いワイヤーと留め具を入手して復活させることができた。
かつてインドを旅した時、タジマハルの霊廟の大理石の壁に象嵌されたラピスの青い石に魅せられて
現地で買い求めたことがある。ストーン・パワーとか誕生石とか無縁だが、いつしか油絵の基本色となった。
インドから持ち帰った石は、砕いて磨りつぶしポピーオイルと混ぜて油絵具を作った。
天然のマリンブルー絵の具を使うのが密やかな楽しみだった。
「ねぇあなた、私のサンゴの帯どめ知らない。」
「あぁそれなら、砕いて絵の具になったよ。」
知人の日本画家の夫婦の会話だ。
顔料をにかわと混ぜれば岩絵の具となり、ポピーオイルと混ぜると油絵具ができる。
我が家には高価な石などないから心配はないけれど、
石や砂や瓦から手製の絵の具をつくるのも楽しい。
デザイナーの手を煩わせることなく
再生されたブレスレットは今も手元で碧く光っている。