会社が潰れた方が、みんなそれぞれに幸せな日々を送れるようになるという綺麗な倒産でした。
「なんだ、この先に不幸になるのは杉岡さんだけじゃないですか。選択肢があるとして、バッドエンディングに向かって迷わず向かっていて、いろんな意味でカッコイイです。滅びの美学ですね。関わりたくはありませんが」
「お嬢さん、山男には惚れるなよ? 触ったら低温火傷するぜ」
「大丈夫です。わたしはごく普通のしあわせな一般家庭で生まれ育ちましたから、自ら進んで泥沼に足を突っ込むような真似はしませんよ。幸せな一生を送るのです」
田所さんは素敵な笑顔でそういいました。
僕は田所さんが言うような、普通の幸せな一般家庭に生まれなかったのでしょう。だからそんな家庭を作ることもできませんでした。僕はとても抗議したい。僕が僕として生きられる家に生まれたかったと。
「それじゃ、そろそろ行きますね。わたしはそれなりに忙しいのです」
「そうだね。じゃあ、元気でね。僕みたいになっちゃいけないよ。僕みたいになっちゃいけないよ。僕みたいになっちゃいけいないよ。大事なことだから三回言ったからね?」
田所さんは笑いながら渋い顔をして、呪いの言葉みたいですねと言って人混みの中に消えていきました。
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