こんな夢を見た。
ニートの限りを尽くした自分にも、年貢の納め時納めどきというものがとうとうやって来た。
就職が決まったのである。
老いた両親は涙を流して喜び、成人式の時に来た以来、ずっと洋服ダンスの中に入れていて埃をかぶってヨレヨレになったり、物理的にお腹周りの肥大によってはいらなくなってしまったスーツの代わりに新しくかってくれたりもしたのである。
昨夜は親戚一同集まって、新たなる門出を祝ってくれてたのであるが、会場となったスナック「ピンク」のママさんにはニート時代からお世話になっていて、店で働かないかと誘われたことがあったのだけど、自分は客でいたいからと断った日々を思い出したりもしたのである。
そもそも就職が決まったのも、たまたまお客さんとしてスナック「ピンク」に来ていた僕が働く事となった会社の社長と意気投合として酒を飲み交わし、相手の身分も知らずに自分はニートであると豪語すると、彼は割と名高い会社の社長あると言い出し、僕のことを気に入ったので、自分の会社で働かないかと誘ってくれたのである。
正直言えば、ニートでいる事にはもう飽きていた。
金がなければ好きな漫画もアニメのDVDも買えないし、スナック「ピンク」にも行けないのである。
ママさんは飲み代はいつか出世払いで払ってくれればいいと言ってくれて、実際にかなりツケが貯まっているのではあるが、いい加減ここらで精算しなければ店の経営に悪影響を与えかねず、ビール三杯で抑える日々にも限度があり、へべれけに酔いつぶれるほどのに気兼ね無く飲みたいと思うのは仕方のない事だろう。
だから僕はニートの日々に別れを告げる決心をしたのである。
一日一歩、三日で三歩、三歩進んで二歩戻るである。
働く事に馴染めなければ、またニートに戻ればいいだけのことである。
何も失うものはないと思えばいいのだ。
初出勤当日。
超高層ビルディングの最上階にあるというオフィスに到着する。
待ち構えていた飲み友達である初老の社長に案内されて、僕は会社の中を歩く。
なんでこの会社の社長があんな下町の路地裏にあるような薄汚い場末のスナック「ピンク」で飲んでいたのかわからないほど車内は洗練されて整然とした会社であった。
ただし、中年のおばさんが社員らしき若い男性の襟首を掴んで金を返せと叫んでいる姿も見かけたのだけど、それは見なかった事にしようと思う。
「それで社長、僕は何の仕事をすればいいのでしょうか。自慢じゃありませんが生粋のニートを十数年もやっていただけに、まともな社会人としてのスキルは全くありませんけども」
ひと段落して社長室に戻ったところで僕は社長に聞いて見た。
社長はウインクして自信満々に言うのである。
「エレベーターボーイ」
どうやら僕はエレベーターボーイになるらしかった
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