虐待による死亡のニュースが流れます。心より哀悼の意を表するとともに、ご冥福をお祈りいたします。
そんなやりきれない結果を一つでも無くすために、様々な活動・施策が行われており、たくさんの人々が努力しています。
通報の件数もかなりの数となっています。よく言われることですが、虐待そのものが増えたのではなく、関心を持ち、行動する人が増えてきたということです。そして、行政も、まだまだ足りないという人は多いですが、行政なりに受け止めているからこそ、”統計”に現れてきているのです。
「通報」子どもの命と心を求めるためにはとても大切な手段の一つです。
半面、「これって通報されるのではないか?」と、おびえる保護者の方もいらっしゃいます。
何が虐待で、何が躾なのか。簡単なようで意外に難しい問題ですね。
人は、社会で生きていくことが前提となります。
『デルス・ウザーラ』(映画・本)のように、”社会”には馴染まずに、”森(自然)”の中で生きていく人もいます。その森で生きていく人は、森のルールに従わなければ、生きていけません。
同じように、社会で生きていくためには、その社会のルールやマナーを学ばなければいけません。その為には躾が必要になります。時には叱らなければなりません。また、子どもは、その子どもにとって大切な人の期待に応えたいのだと以前書きました。その期待に応えさせることが、実は子どもにとって、虐待になっている場合もあります。
考えれば考えるほど、いろいろなシチュエーションを思い起こすほど、一般的な定義などできない問題です。
子どもの気質×望み×社会からの要請×ご家族・ご親族の期待の組み合わせによって、変わってきます。
とはいえ、躾なければいけない場合、何に注意しなければいけないのでしょうか?
指示をしているのに、その通り動かない。よくあることです。
まず、その指示を子どもが理解しているかを確認してください。
★難聴ではないか?
★音は聞こえているが、その音を言葉として理解しているか?
★カクテルパーティー効果(騒がしい中でも、自分に必要な言葉を聞き分けること)が、働いているか。中には、指示と他の人のおしゃべりと同等のレベルとして捉えて、馬耳東風している子どももいます。
★自分への指示の言葉は理解しているが、興味関心が散りやすく、注意散漫で、指示通りに動く前に、他のことが気になって、指示を遂行できていないということはないか。
★指示された言葉は聞き取れているが、その意味を理解していない場合も行動には移せません。
★意味を理解していても、行動が、その子にとっては難しすぎてできないこともあります。
★言葉は聞き取れて、意味も理解し、指示した人が何を期待しているかもわかっているが、その通りにはやりたくないこともあります。これは、子どもが自分の力を試したくて、自分のやり方をやりたいこともあります。また、何らかの感情的なことがあって、やらない、やれない場合もあります。やらないのは反抗とか、感情的な諍いで、相手の指示に従いたくない場合もありますね。やれないのは、不安とか嫌悪とかの感情に書き込まれている場合もあります。
★言葉は聞き取れて、意味も理解し、指示した人が何を期待しているかもわかっているが、そもそも、その指示に意味を見出せなくて、指示を無視している場合もあります。
他にももっといろいろな理由があって、指示に従わない場合もあるでしょう。
こんな状態の時に、大声で指示に従うようにまくしたてても意味がありません。叩いたり、蹴ったりしても意味がありません。恐れをなして、一時的に指示に従うこともありますが、本当の意味で、躾になってはいません。禍根を残します。そして、親子関係以外でも、人を指示に従わさせようとするときに、大声で怒鳴ったり、暴力による方法をとります。パワハラです。社会で生きていけるように躾けているのに、本末転倒です。
なので、遠回りしているようですが、上記のような、指示に従えない理由のようなものを探り当て、対処していくことが必要です。
難聴に関しては、耳鼻科を受診していただけると嬉しいです。年齢によって、把握できる音のレベルが違うという研究が発表されています。保護者の方が把握できていない音をお子様が拾っていて、カクテルパーティ効果がうまく機能していない場合もあります。
「難聴ではない」けれど、聞き取れていないような場合、心理職に相談してみてください。お子様の困りごとに合わせた心理テストや面談・観察で、心の状態を含めた客観的な状態をして、対応策を検討しましょう。
勿論、反抗とか感情的な諍い、指示の意味への意見の相違などの場合は、お子様が相談室に来てくれないことも多いです。その場合は、保護者の方だけで十分です。
★叱るときの注意。
急に大きな声で怒鳴りつけると、子どもがパニックになって、暴れ、泣きわめくことが多いです。そこに、さらに、保護者が大声で指示を出す。虐待を疑われるのではないかと言う修羅場は、こんな感じが多いです。この時に、大声でやりあっても、お互い疲れ、嫌な気持ちが募るだけです。売り言葉に買い言葉。もっと子どもがパニックに陥っているときは、頭も心も真っ白なので、何を言っても入りません。人は大人でも、表情>語気の順で反応し、言葉の内容理解はほんの少しなのだそうです。対処の仕方としては、以前投稿した「暴れる?」をご参照ください。
そんな事態にならないように、指示を出したいときは警告・警告・ドカンと怒鳴り声の方が良いです。指示を聞き取れていて、意味も理解できていることが前提です。わかっちゃいるけれど、今やっていることが止まらないなどの時に有効です。警告は、できるだけ低い声で穏やかにやってほしい指示をできるだけ短文で伝えます。長いと、そもそも他に気を取られている状態なので、覚えていられません。2回目の警告は、1回目よりドスの聞いた声だと有効です。そんな声出せない場合は、お子様の正面に陣取り、お子様の目を見て警告します。この警告の時点で、指示に従ったら、誉めてあげて下さい。それでも、無視をしたら、ドカンと怒鳴り声です。これも単文です。かえって怖いです。怒鳴りつつも、警告で従えなかった理由は考えて下さい。ひょっとしたら、無理な指示を出していた、お子様なりの理由があったかもしれません。お子様になぜ指示に従えなかったのか、どうしたら従えたのかを聞いて、次回に役立てるのもいいですね。
★子どもが泣き止まないとき。
なんだかわからないけど、子どもが泣き止まないこともありますね。
様々な工夫がネットで配信されています。参考になさってください。ただ、これをすればという方法はないようです。〇か月の時に有効だった方法が、成長につれ効かなくなったなんてことはよくあることです。
心理職からは、こんなこともあるということをお伝えしたいです。保護者の方が、泣きたい感情を我慢していると、お子様がそれに反応して泣き出すことがよくあるのです。お子様が泣き出して、保護者の方が困り切って泣きたくなっているとき、お子様に対して怒りを感じているときも、その保護者の方の泣きたい気持ち・怒っている気持ちに反応して泣いていることもあります。だから、一緒に泣いて発散してしまうか、気持ちを切り替えて、保護者の方の中の泣いている/怒っているインナーチャイルドとお子様を「よしよし」となだめてしまった方が、早く泣き止んだりします。試してみてください。
★「ペアレントトレーニング」と言う方法もあります。
親が子どもにするトレーニングです。つい、叱ってしまうことが多く、お子様の自尊心が下がって、悪い循環が起きていることが多い状況を変えようという方法です。私が考えたものではなくて、研究会もある、既存の、有効性が立証できている方法です。
詳しいことはいずれこのブログで説明しようと思いますが、気になる方は、本も出版されていますし、ググれば説明が出てきますので、ご覧ください。
ここでは、25%ルールを説明します。
できれば、叱るよりも誉めて育てたい。保護者の方の願いではないでしょうか。でも、褒められるくらいに完璧にできるのを待っていたら、多くのお子様は誉められません。誉められることが少ないと自尊心が下がってしまいます。
そこで、100%できてから誉めるのではなく、25%でもできていたら誉めるというルールです。何が25%なのか。厳密な規格はありません。指示に従おうとしたとか、失敗してしまった全体像ではなく、一部だけでもうまくいったところを誉めるなどを目安にしていただけたらよいかと思います。尤も、「誉めて、相手(お子様)を動かそう」という意図が見え見えの場合、かえって、「やりたくない」になるので、注意が必要です。
★他にも、「トークンエコノミー法」など、様々な方法が開発されています。
最後に、
「自分は子どもを愛せない」「かわいく思えない」という保護者の方もいらっしゃいます。少なくないです。
親子にだって相性はあります。親御様にも、「過去」があり、「今」があり、「未来」がある。その中で、お互いいろいろな感情を持って、しかるべきです。親子は親子だけで存在しているのではありません。ご夫婦関係が親子関係に影響を与えている場合もあります。ご親族や地域の方、ママ友・パパ友、勤め先、様々な関係の中で生きています。それぞれの影響の中、本当はこうしたくないのにという言動をとってしまっている場合もあります。
特に、学生時代から、努力家な方が、完璧主義の罠に陥りやすいです。学業も仕事も、それなりにご自分の工夫や努力でどうにかしてきた。なのに、この目の前の子どもは、自分の思い通りにならない。秒を惜しんでいるときに、癇癪を起す。怒りマックスになりますよね。
誰かに縋りたいとき、縋ってくる存在。それも子どもゆえですが、鬱陶しい気持ちになるのも人間として当然湧き上がる気持ち。
お子様が感情の塊で全身で表現するように、
そんなときのご自分やお子様にだけ、焦点を当てないでください。かわいくて、愛おしい時もあるでしょう。一緒に楽しんでいるときもあるでしょう。泣いたり、笑ったり。様々な場面もあるかと思います。気持ちは変わるのです。もし、変わらない場合は”視野狭窄”に陥っている可能性があります。ケアが必要な状態になっています。
「自分は子どもを愛せない」「かわいく思えない」気持ちを誰かに吐き出してしまえるといいですね。匿名でかけられる電話相談もあります。
そして、そんな自分を責めないで。
そして、お互い、生き延びる術を行いましょう。ご飯を食べて、お風呂に入って、洗濯をして、掃除をして、気持ちよい寝床で寝て。できることからでいいです。誰かにヘルプを出していただけると、嬉しいです。
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