マイマイのひとりごと

自作小説と、日記的なモノ。

【自作官能小説】汚れた教室~教室長マヤの日常~第5話 『おしおきとご褒美と』

2012-10-30 12:08:53 | 自作小説
 狭いホテルの部屋、その真ん中にはキングサイズのベッド。佐伯はマヤをその白いシーツの上に放り投げるようにして腕を放した。ギシギシと古びたスプリングがきしむ。スカートが膝上まで捲れあがる。

「パパ……きて……」

 マヤは両腕を佐伯の方へ向けて伸ばしたが、佐伯はその声が聞こえないかのように、ベッドの脇に座ったまま反応しない。

「ねえ、パパ……」

「マヤ、スーツがしわになるよ。脱いできちんとハンガーに掛けておきなさい」

 冷静な口調でクローゼットを指さす。マヤは戸惑いながらジャケットとスカート、シャツと肌色のストッキングまで脱ぎ、言われるままにハンガーにそれらを掛けた。下着姿のマヤを前にしても、佐伯は表情を変えない。

 早く触って欲しい。体の奥がもう男のそれを求めて、締めつけられるように苦しい。どうしていいかわからずに立ち尽くすマヤの肩を抱き、佐伯は幼子に言い聞かせるように優しく囁いた。

「車の中では、どうしてパパの言うことが聞けなかったんだい?」

「だって……あんなふうに触られて……気持ち良くて、我慢できなかったから……」

「悪い子だね。パパの言うことはいつだって聞かなくちゃいけない。そうだろう?」

「はい……ごめんなさい、パパ……」

「よし、じゃあマヤ、車の中でどんなふうにしていたのか見せてごらん。恥ずかしがらずに、ちゃんとパパによく見えるようにやるんだ」

 佐伯の手がマヤのパンティにかかり、勢いよく引き下ろされた。ブラのホックも外され、全裸の状態でベッドの上に突き飛ばされた。

「ほら、足を広げて。はやくやってみせなさい」

「……はい、パパ」

 強い口調で命令されると、それだけで陰部がぐっしょりと濡れてくる。ベッドの上で両足を開き、黒々とした陰毛の奥にある部分を指で撫でた。指が動くたびにくちゅくちゅと淫猥な音が響く。佐伯の視線が注がれる。

「んっ……あんっ……」

「気持ちいのかい? そんなところを弄っているのをパパに見られて、恥ずかしくないのか?」

「は、恥ずかしい……でも、パパが……やれって……」

 いったん刺激し始めると、指の動きを止められなくなる。入口だけをなぞっていた指先を膣内に沈めていく。奥へ、奥へ。中指が、人差し指が、自分の一番気持ちいい場所を探っていく。

「あ、あっ……いい、気持ちいい……っ」

 あとほんの数回擦るだけで絶頂に届きそうな感覚。夢中で自身の奥を探り続けるマヤを、佐伯の冷やかな声が制止する。
 
「マヤ、そこまでだ。指を抜きなさい」

「えっ……でも……」

 睨みつけるような厳しい視線に、マヤは慌てて指を抜いた。佐伯はマヤの両足をぐっと押さえつけながら陰部に顔を近づけ、軽蔑するように笑った。

「真っ赤になってひくひくしているよ。乳首もこんなに勃起させて……マヤはいつからこんなにいやらしい子になったんだい?」

「ああん……もう……意地悪しないで……」

「おしおきするって言っただろう。今日は簡単には挿入してやらない。このホテルにはおもちゃもいっぱいあるんだ……マヤ、両手を頭の上で伸ばしなさい」

「はい……」

 マヤが両腕を伸ばすと、手首にひやりとしたものが触れた。直後にガチャリと金属の音が聞こえ、見上げると両手に手錠が掛けられ、ベッドの柱に固定されていた。足首にも同じものが嵌められ、四肢が完全に固定された。無理に動かそうとすると、肌が手錠に擦れて痛い。

「パパ……やだ、こんな……ちゃんと言うこと聞くから、こんなのやめて……」

「静かにしなさい。こんなにいやらしい体をして……パパがたっぷり可愛がってやる」

 ふいに聞こえたビイイインという電子音と共に、細かく振動するものが両方の乳首に押し当てられた。ただでさえ敏感になっているマヤの体は即座に反応し、全身が快感に震えた。

「あああっ……! これ、すごい……っ、パパ、だめ、これだめええええ!」

「気に入ったかい? マヤは乳首が弱いな……このまま両方ともここに貼り付けておくからね……次は、こっちだ」

 乳首からの刺激が止まらない。子宮に直結するようなその感覚に、マヤは涙ながらに叫んだ。

「あ、あ、これ、だめぇ……!!ほんとに……パパ、やめて、おかしくなっちゃう……!」

 今度は同じものがクリトリスにも押し当てられた。乳首とあわせてその小さな突起に振動が伝わると、マヤの快感は一気に絶頂に達した。

「やっ、やだ、い、いっちゃうっ!! やめて、パパ……もうやめてええええっ!!」

 両足が痙攣する。手錠に擦れる痛みさえも、この瞬間ばかりは快感へと変化する。体の奥がなおいっそう男を求めて強く疼く。まだ呼吸が荒く痙攣の収まらないマヤの体を、佐伯は容赦なく責め立てる。

「マヤは大きいのが好きなんだろう? 今日はね、マヤのためにすごいのを用意してあげたよ……ほら、こっちを見て」

 佐伯がマヤの目の前に差しだしたのは男性器の形をしたバイブレーターだった。紫色のそれは無数の突起に覆われたグロテスクなもので、本物のペニスに比べると有り得ないほど長く太い。佐伯はマヤの陰部を指で広げ、その先端を捻じ込んだ。

「やっ、パパ、痛い……そんなおっきいの入らない……っ! あ、あっ」

「そんなこと言いながら、もう欲しくてしょうがないんだろう? 力を抜きなさい」

 強い振動が膣の入口から奥へと広がっていく。巨大なそれがマヤの膣壁を震わせながら、これまでに経験したことがない部分にまで達していく。乳首もクリトリスも、そして膣内までも同時に責められ、マヤは全身が女性器になってしまったような感覚に陥る。快感がうねりをともなって駆け抜ける。気持ちいい、おかしくなる、もっと欲しい、でもこれ以上は……理性と欲望の狭間で心さえも揺さぶられる。

 バイブが根元まで埋め込まれる。体の奥を壊れんばかりに掻きまわされる。

「も、もう、だめ、また……イク、イッちゃう、こんなのやだ、パパのが欲しいの……!!」

 こんなおもちゃで、こんなやり方で絶頂を感じたいわけじゃない。本物の男のペニスで、あの熱く脈打つ肉棒で突き上げられたい。佐伯に懇願する。何度叫んでも佐伯はにやにやと笑うばかりで、マヤの願いは聞き届けられない。

「可愛いねえ……マヤ……」

 首筋に佐伯の舌が這う。ぬるぬるとしたその感触が、快楽に溺れる体に追い打ちをかける。

「そんなことしちゃだめ、パパ、ごめんなさい、許して、許してええええ!!」

体の内側がまるで別の生き物になってしまったかのような、すさまじい絶頂感。それでもまだ手錠は外されず、バイブは膣の奥深くに突っ込まれたままだった。乳首でもクリトリスでも細かな振動は終わることが無く、気も狂わんばかりの快感が続く。マヤは恥ずかしい部分をさらけ出した状態で全身から汗を吹き出させ、何度も叫び、絶頂を感じ、やがて意識が朦朧とし始めた頃になって、やっとその責めから解放された。

「あはは、大丈夫かい? ずいぶん感じていたじゃないか……」

 バイブが引き抜かれ、胸のローターが剥がされ、手錠も外された。恐怖にも似た快感の連続はマヤの体にしっかりと刻み込まれ、責めが終わった後もなお体の震えが止まらなかった。ベッドの上で膝を抱えるようにして、マヤは拗ねたように佐伯に背を向けた。

「もう、あんなのはやめて。ひどい意地悪しないで……ほら、こんなに赤くなっちゃってる」

 背を向けたまま、手錠の跡が赤く残った手首を佐伯に見せた。佐伯はその手を両手で優しく包み込み、慈しむように撫でた。

「ふふ、そう怒るなよ。食事もせずに抱いてほしいなんて言われたもんだから、こっちもちょっと興奮したんだ。機嫌直して……ほら、こっちを向いて」

 肩に手を掛けられて佐伯の方を見ると、いつもの落ちついた優しいまなざしがマヤを見つめていた。父親の雰囲気を備えた、大人の男。両腕を伸ばす。佐伯はマヤの体を軽々と抱きあげ、そのまますぐ横にあるバスルームの扉を開けた。

 服を脱ぎ、バスタブに湯を張りながら佐伯はマヤの体をスポンジで丁寧に洗った。柔らかなスポンジが肌の上を滑る。石鹸の香りがバスルームいっぱいに満ちる。荒々しい刺激に嬲られた体が、心が、少しずつほぐされていく。

「マヤは本当に綺麗だね……この腰のくびれも、大きな胸も、尻も……芸術品のようだよ。ほら、もっと綺麗にしてやろう」

「あ……」

 佐伯はマヤを膝の上にのせ、石鹸の泡をたっぷりとつけた手で、マヤの乳房を優しくマッサージし始めた。下から上へと持ち上げるように、外側から内側へ。乳輪のまわりも、乳首の尖端も。そしてマヤの股間に押し当てられた佐伯のペニスが、溢れ出るマヤの愛液に浸されながら熱く固くなるのがわかった。

「パパ……おっきくなってる……」

「マヤが可愛いからだよ……マヤのここも今日はすごいね。だらだら涎を垂らして……」

 シャワーの熱い湯が浴びせられ、全身を覆っていた泡が流される。抱き合ったままバスタブの中に入ると、その瞬間マヤの中に佐伯のペニスが挿入される。欲しかった、本物の男のもの。それはマヤの中で熱さと大きさを増し、正面から抱き合う格好で、マヤは佐伯にしがみついて悶えた。

「これ……、これが欲しかったの……」

「僕もマヤのここに入りたかったよ……本当に今日はどうしたんだい? こんなにぎゅうぎゅう締め付けてくる。男が欲しくて堪らなかった?」

「そんな言い方しないで……パパのが欲しかったのよ……言ったでしょう……んっ」

「嘘つきだね、誰でもよかった癖に。今月だけで何人の男と寝たんだい?」

 佐伯がマヤの腰を抱えたまま下からぐいぐいと突き上げてくる。佐伯の目を見据える。

「何人……なんて、覚えてないわ……」

「おお、その目、久しぶりに見たよ。食い殺されそうな怖い目だ……いいね、嫌いじゃないよ。金のために社長に体を開いて、そこで抱えたストレスを他の男どもで発散する……そんな壊れた君が大好きだ……」

 舌が捻じ込まれる強引なキス。言葉を返すことができない。佐伯はすべて知っている。関係を持ち始めてすぐの頃、マヤが自分で話した。この救いの無い現状を。誰にでも話すわけじゃない。つきあいはまだ浅いが、佐伯は壊れたマヤを心底求めていた。抉るように腰を打ちつけられながら、激しいキスを受け入れながら、マヤは佐伯から聞かされた話を思い出す。

 佐伯には先妻との間に娘がいた。まだ大学に在学中、子供が出来たことがわかってあわてて入籍したらしい。両方の親も親戚も当然のように大反対したが、燃えあがらんばかりの恋愛感情と親に対する反発心とで駆け落ち同然の生活が始まった。

 ただ、両親の援助が受けられない生活は経済的に厳しく、すぐに喧嘩が絶えなくなった。結婚して3年もすれば、妻への愛情などきれいさっぱり無くなった佐伯だったが、逆に娘への愛情は異様なほどに高まった。積極的に育児に参加し、妻がフルタイムで働き始めてからは保育園の送迎から食事の支度まで、娘のことに関してはほとんど佐伯がやるようになった。

 そうなると娘の方もどんどん佐伯に懐いてくる。それに伴って妻は家庭にいる時間が短くなり、佐伯と娘のふたりだけの時間が増えた。佐伯は幸せだった。娘のためならどんなことでもしてやれると思った。

 可愛さのあまりに、佐伯は眠るときでさえ娘を離そうとはしなかった。ふたりの間にあるものは洋服でさえ邪魔な気がした。だから娘を裸にして、自分も裸になって同じ布団で眠った。妻はそれを以上だと罵ったが、佐伯は特に気にもしなかった。

 可愛い、可愛い、娘。夜毎にその体を舐めまわすようになった。娘はくすぐったがって、ケラケラと声をあげて笑った。佐伯はそれさえも嬉しくて、首筋から平らな胸、まだつるりとしたその割れ目までをぺろぺろと舐め続けた。そうしながら、興奮し、勃起し、射精した。おかしいとは思わなかった。何故かと言われてもわからない。

 娘が小学校二年になった年、佐伯はとうとう我慢できなくなって娘のまだ幼い体に覆いかぶさった。自らの男根を娘のその部分に挿入しようとした。痛みに泣き叫ぶ娘の声に、普段は寝室を別にしていた妻が飛んできて、娘を奪い取り、その場で離婚を宣言した。

「あなた、自分が何をしているかわかっているの!?」

 絶叫にも似たその声が、いまだに耳にこびりついて離れないという。

 その後、妻は娘と共に実家へ戻り、佐伯と娘に何があったのかは娘の名誉のために一生の秘密として墓場まで持っていくと泣いた。最愛の娘を奪われて、佐伯は自暴自棄になったが、事情を察した実家の両親と祖父母が佐伯に救いの手を差し伸べた。

 親族がいくつか経営している会社のひとつで雇ってもらえることが決まり、その後は自分の手腕で社長の地位に駆け上がった。娘に向けていた情熱も愛情も、すべて仕事に注ぎ込んだ。その途中で、現在の妻と結婚し、タケルを授かり、もう会わせてももらえない娘への思いを忘れかけていた頃になって、マヤと出会った。

 マヤは、まだ幼かった娘の面影によく似ているのだそうだ。

「可愛いよ、マヤ……パパが、気持ち良くしてあげるからね……」

 現在の妻は先妻や娘との経緯を何も知らないらしい。佐伯と初めての夜、寝物語に聞かされた話。同時にマヤも自分の抱えているものをぶちまけた。壊れた人間同士の、歪んだ関係。それは何処にもたどりつくことがないと知っているのに、お互いを惹きつけて離さない。

 嫌悪感など無い。幼児性愛が、近親相姦が、いったい何だというのだろう。現実の闇の深さに比べれば、そんなものはどうでもいいことに感じられた。少なくとも体の一部を繋ぎ合せているこの瞬間は、佐伯のことが愛しくて恋しくてたまらない。

「パパ……気持ちいい、ねえ、もうイッちゃって……マヤの中で、いっぱい出して……」

 佐伯の腰の動きが速くなる。呼吸を荒げ、動物のような声をあげながら、折れそうなほど強くマヤの体を抱き締める。願いが聞き届けられたことを感じる。精の放出。佐伯の絶頂。痙攣、そして脱力。

 ぬるくなったバスタブの湯の中で、ふたりは顔を見合わせてくすくすと笑いあった。大きな手のひらがマヤの頬についた水滴を拭う。

「ああ、すごいな……マヤの体は。僕がもっと若い時だったら、一晩に10回くらいはヤッてたんじゃないかと思うよ」

「ふふ、そんなに? いくらなんでも死んじゃうわ、わたし」

「ところで、今日は何かあったのかい? 言いたくなければ構わないが、いつもと様子が違うから気になってね」

「ああ……うん、ちょっと疲れていたの。それと……そう、お昼間にあなたの奥さんが教室に来たわ」

「家内が? ふうん……珍しいな、あいつが行くとは。懇談だの面談だのが苦手らしくてね、学校のも塾のも、これまではずっと僕が行っていたんだけどな」

「そうよね、わたし、お会いしたことが無くて誰のお母様かわからなかったもの……タケルくんの進路相談にみえたのよ。芸術方面に進むのは止めて欲しいみたい」

「そういえば家でずっとそんなことを言っていたな。ふん、タケルには大学を卒業する年になったら、そのときに就職できていようがいまいが問答無用で家を叩きだすと伝えてある。男なんだ、それくらいの覚悟があるなら、好きにするといいさ」

「あら、お母様はそうは思っていらっしゃらないみたいよ。大事なひとり息子なのに、って」

「まあ、あれも頑固だからなあ……大事に大事に守って育てたあげく、こんなどうしようもない男に育つ可能性もあるっていうのに」

「どうしようもない? そうかしら、パパはすごく素敵よ。仕事もバリバリ出来て、家庭も円満で、こんなにエッチも上手だわ」

「あはは、そんなふうに言うのはマヤだけだよ。さあ、ベッドに戻ろう。その綺麗な体をもう一度よく見せておくれ」

 佐伯は明け方近くまでマヤの体を飽きることなく愛し続け、マヤはあまりの気持ちよさに眠りの世界と行き来しながらそれを受け入れた。ぼんやりとした頭で考える。こうしていられるのはあとどれくらいだろう。マヤのような女にとって、年を取ることほど恐ろしいものはない。やがて乳房が重力に負けて垂れ下り、引き締まった腹に贅肉がのり、肌が衰えてしまったそのとき……きっとすべてを失うことになる。

 そうなる前に、なんとかしなくてはいけない。女を売り物にしなくても楽しく生きていけるように……そのためには金が要る。時間はそう多くは残されていない。時期を見て行動を起こさなければ……

 ふっ、と口元を緩めて笑う。まだ、今はそのときじゃない。終わりの無い愛撫に身をゆだねながら、マヤは吸い込まれるように眠りに落ちた。


 朝、佐伯の車で自宅のアパートまで送ってもらう。また少し眠り、熱いシャワーを浴び、濃いコーヒーをブラックで胃に流し込んで職場へ向かう。睡眠は全然足りていないが、気分はすっきりとしていた。目の下に浮き出たクマと顔色の悪さを化粧でごまかす。

 教室の窓を全開にし、空気を入れ替えると気持ちもすっきりするように思う。もっとも、目の前に片側4車線の国道が走っているような環境で、綺麗な空気など入ってくるはずもないのだけれど。

 掃除を終え、郵便物のチェックを済ませてからパソコンを立ち上げる。着信メールは事務所や他教室からの連絡事項が数件。部長からの返信は届いていない。本来、社員同士の電話でのやりとりは最低限にするようにと決められている。お互いの忙しい時間を邪魔しないように、そして無駄話で時間をロスしないようにというのが理由だ。

 時計を見る。午前10時半を少し過ぎたところ。まだ教室業務に慌ただしいほどの時間では無い。週末の期限日になって『企画書が届いていない』などとまた難癖をつけられるのはごめんだった。マヤは迷いながら、部長の携帯電話の番号を押した。

『はい』

「もしもし、お忙しいところ申し訳ございません、水上ですが……」

『ああ、社長の夜のおもちゃか。失礼、昼間もだったな。で? 何か用か?』

 胃が締めつけられる。言葉がうまく出て来なくなる。震える声でどうにか言葉を絞り出す。

「あ、あの、き、企画書をメールに添付して昨日送信させていただいたのですが……」

『ふん、そうだったか。なにしろ俺のところには毎日何十通もメールが届く。そんなものいちいちチェックしていられるかよ』

「そんな……でも、週末までに部長のところに企画書を提出するようにと……」

『まあ、直接おまえが俺のところにデータを渡しに来るっていうなら見てやってもいい。ただし、そのときには俺にもたっぷりサービスしてくれよ? あんなキモブタ社長に好きなようにされている体なんだ、俺にだってちょっとぐらい良い思いさせてくれたっていいだろ?』

「そ……それと、仕事とは関係ありません……」

『関係ないだと? 社長に媚うって、仕事のノルマ緩くしてもらってる女がよく言うな。給料もおまえだけ下がらないんだろ? 女連中もみんなおまえのこと嫌ってるよ、若いからってあんなことして恥ずかしくないのかってな……まあ、俺だっておまえの態度次第じゃ、味方になってやらんこともない』

「態度……って」

『わかってんだろ? ……もし、俺の言うことを聞けないんなら、今度の会議のときに容赦なく吊るしあげてやる。与えた仕事も満足にできない馬鹿女だってな。企画書ひとつ提出できないような無能ぶりをみんなの前でさらけ出したら、社長だっておおっぴらにおまえのことをかばってやれなくなるだろうな』

 これまでマヤは、どんなに馬鹿にされようが蔑まれようが、仕事だけはきっちりとこなしてきたつもりだった。たしかにノルマにうるさく言われることは無いが、だからといって手を抜いて仕事をしてきたことも無い。社長は会社に不利益になることを極端に嫌う。仕事そのものに不備が出てきたときに、社長がマヤを切り捨てるということは容易にありそうなことだった。

「どうすれば……いいと、おっしゃるんですか……」

『明日の夜、仕事が終わったら俺の教室に来いよ。どうすればいいか、たっぷり教えてやる……もう切るぞ、じゃあな』

「部長……」

 ツーツーと音が鳴り続ける受話器を持ったまま、マヤは深いため息をついた。

(つづく)


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